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撃ち合いの中で敵機の撃った弾丸がハラの飛行機の翼を撃ち抜いた。
被弾した。飛行機に被弾したのは本当に久しぶりのことだった。ハラは自分の死を予感する。なるべく忘れようとしていた感覚。(忘れようとしていた恐怖)でも空を飛ぶときにはいつも今日が最後かもしれないって思っている。だから後悔はしない。(それでもハラの手と足は震えていた)
ハラの飛行機の左下のあたりで撃墜した敵機が爆発した。脱出はたぶんできていない。あの新人パイロットは腕から予測してたぶんハラと同い年か年下だと思った。
撃たなければこっちが撃たれる。そんなことは空の中では当たり前のことだった。なのにハラは吐き気を感じた。敵機の爆発を見て、ベテランパイロットの動きが一瞬だけ止まった。その隙をハラは見逃さない。ハラは動き敵機の下に回り込むとそのまま迷わず引き金を引いた。ハラの弾丸が敵機の腹を撃ち抜いた。ハラが飛行機を上昇させている間に、敵機は大爆発を起こした。周囲にもう敵機がいないことを確認しながらハラは飛行機をゆっくりと大地に向かって移動させる。
強かった。私が落とされていても全然不思議じゃなかった。きっとあの敵機のベテランパイロットと相方の新人パイロットはかなり親密な関係だったのだろうとハラは思った。恋人か。あるいは師弟関係か。もしかしたら親子だったのかもしれない。そんなことを考えながらハラは飛行機を自軍の基地に向かって低空飛行で飛ばしている。