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ハラの飛行機には白い狐のペイントがされることになった。
「どうして飛行機にペイントなんてするんですか?」ハラは言う。
「お前、自分が向こう側の国のパイロットたちからなんて呼ばれているか知ってるか?」とコーヒーを飲みながら司令官は言った。
嫌な顔をしながらハラが黙っていると「白い狐なんだから白い狐のペイントを飛行機にするんだよ。名前ももう決めてあるんだ。あの新型機の名前は『白狐』にする」と楽しそうな顔で司令官は言った。
「不愉快です」ハラは言う。
ハラは抗議のために目の前にあるアイスコーヒーに手をつけないままでいる。
「理由もちゃんとある。そこにお前がいるとわかるだけで相手のパイロットは萎縮する。それだけ味方が有利になる。戦果を求める無謀なパイロットはお前に向かってくるけど、それはそれで味方機の有利になるし、お前は味方機のことを心配しなくて良くなる。どうだ? いいことばかりだろ?」と司令官は言った。
「私の生存率が低くなります」
「エースである以上、それは求められることになる。それでも生きて帰ってくるのがエースなんだよ」と司令官は言う。
「それは元エースパイロットとしての言葉ですか?」ハラは言う。
「そうだよ。元、エースパイロットとしての、地獄みたいな空の中を生き残った飛行機乗りの先輩としての言葉だよ」と司令官は言った。
その言葉のあとで、司令官はもう部屋を出て行っていいとハラに言った。
自分の飛行機にペイントで目立つように的をつける。
それが今日、ハラが司令官に呼ばれた理由だった。
「失礼します」とハラは言って、(怒ったままで)部屋を出ていこうとした。
「ハラ。死ぬなよ。戦争は、もうそろそろ終わる」と司令官は(そんな夢みたいなことを)ハラに言った。