10/33
10
嵐の雷雲の中に相手機を追ってハラは突っ込んでいく。するといきなり世界が眩い光に包まれた。怒り狂った竜の群れのような雷撃が世界のいたるところで発生している。直後の轟音。竜たちの激しい咆哮がハラの耳を直撃する。なにも見えない。なにも聞こえなくなる。そんな世界の中でハラは相手機を探す。レーダーは沈黙している。それは相手機も同じはずだ。飛行機乗りとしての直感も働かない。感覚が麻痺している。ハラは速度を上げる。全速力で嵐の雷雲の中から抜け出そうとした。
その瞬間、ハラは相手機の弾丸を受けた。その弾丸は奇跡的にハラの飛行機には当たらなかった。でもそれは奇跡的にだ。本来なら今の弾丸でハラの飛行機は撃墜されていてもおかしくはなかった。この嵐の雷雲の中で飛べるの? ハラは飛行機をほぼ直角な角度で、まるで墜落するような動きで加速させる。この環境で飛ぶことが、誰かと戦うことが初めてじゃないんだ。飛行機乗りの腕だけじゃない。経験も相手のほうが上だ。ハラは思う。自分よりもこんなに強い飛行機乗りと戦うのは本当に久しぶりのことだった。