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蓮の箱庭  作者: 朝羽岬
第2章 スクラップ市
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戦利品のカメラ

「僕たち諜報部員は、島の外に出てやることが三つあるんだよ。島の外の情報を集めること。直せば使えそうな物がないか探すこと。治せば使えそうな人間がいないか探すこと」


「治せば?」


「僕たちが連れてくるのは瀕死の人間なんだよ。ヒヨクが開発した技術を利用して、何の障害もなく普通に生活できるように治してやるのが『再利用』。それをパーパが目を付けたらしいんだよね」


 パーパという国名を聞いて、セハルの眉がわずかに歪んだ。


「たしかパーパは、世界随一の技術大国だろ? わざわざ、この島の技術を狙う必要があるのか?」


「このナカツクニにいる研究者のほとんどが、パーパの人間だからだよ」


 ヒガンは答えながら、観察するようにセハルの顔を覗き込む。対してセハルは、嫌そうに身を引いた。


「な、なんだ?」


「いやあ。よく、パーパが技術大国だと知っていたなーと思ってね」


「そ、んなの。世界の大抵の奴が知ってるだろ」


 たじろぐセハルに、ミロクが大きく息を吐いた。


「やめとけ、ヒガン。こいつは、記憶が曖昧なんだとさ」


「へえ、そうなんだ。やっぱり、オリジナルとコピーの差かな」


 目を細めてセハルを見ていたヒガンだったが、やがて飽きたのか「まあ、いいけど」と手にしていたスクラップをいじりだす。ずっと居心地が悪そうにしていたセハルは、ほっと息を吐いた。


「ところで、ヒガン。ドゥルガーの方は、どうなってるんだ?」


 ミロクの問いに、ヒガンはスクラップをいじる手を止めた。


「あいかわらずさ。少年王はそうでもないが、双子の弟は好戦的でね。戦神を止める気なんて、さらさら無いって感じだよ」


「こんな毒が蔓延してる世界で争って、意味あるんすかね?」


 スクラップを夢中で物色しているように見えたフェイファが、顔を上げる。一応、ミロク達の会話は耳に入っていたようだ。


 ミロクは問いに対して、肩をすくめた。


「野生の本能ってやつじゃないか? 元々は、群れで暮らす野生の猿だったんだろ? 縄張り争いってやつだな」


「それは嫌味かい、ミロク? 元々って、もう何万年も前の話だろう?」


 苦笑いを浮かべるヒガンに、セハルもうなずいた。


「野生っていうのは、おかしい。みんな、管理下に置かれた生き物じゃないか」


 セハルの指摘に、ミロクとヒガンは顔を見合わせて同時に吹き出した。


「君、なかなか鋭いな」


「違いない」


 大笑いする二人に、セハルが「笑うところ、あったか?」と首を傾げる。ひとしきり笑ったところで、ミロクは乱暴に頭を掻いた。


「あー、そろそろ俺は、レンリの様子を見にいってくるわ。セハルは、ここにいるだろ?」


 うなずくセハルの横で、レイが「私も行くっ」と手を挙げる。


「服、できてるかな?」


「さあ。連絡が無いから、まだかもな」


 人垣から離れるミロクの腕を、レイが両手で捕まえる。歩くのには邪魔だが、こうなることは予測がついていたミロクは、振り払うことをしない。普段から甘えたではあるが、今は『パーパ』という国名を聞いて怖くなったのだ。


「不安か?」


 旋毛を見下ろすと、レイは首を横に振った。不安ではないという彼女だが、いつものように顔を上げないこと、袖を掴む手の強さから、彼女の本音が透けて見える。


「そうか」


 ミロクはただそれだけを返して、シショクに着くまで丸い頭を撫で続けてやった。


 しかし、どれだけミロクがレイを気遣っても、シショクの三人娘には伝わらない。常の元気が無いレイを見た彼女達は、レイを心配する一方でミロクがいじめたのではないかと責めた。


「理不尽極まりないんだが」


 ぼやくミロクに、レンリが「そう拗ねるな」と苦笑する。彼女は、レイの元気がない理由が分かっているのだろう。レイの前に立つと、両手で彼女の頬を包み込んだ。


「大丈夫だ。身に危険が迫った時は、必ず我々が駆けつけよう」


 レンリの(はしばみ)色の瞳は、たまに不可思議な色が浮かぶことがある。赤、黄、青、黒、白の五色の光が移り変わるように現れるのだ。すると、覗き込まれた生物は、時には安心するような、時には言うことを聞きたくなるような、何とも言えない気持ちになるらしかった。


 今回も例外なく、レンリに覗き込まれたレイは、こくんと素直にうなずいた。それ以降は、不安を口にすることも、ミロクの腕に縋るように抱きつくこともなく、三人娘や見習い達と元気に談笑していた。後で合流したセハルもフェイファもウーゴウも、特に違和感は覚えなかったようだ。


 ミロクはしばらくレイの様子を目で追ってはいたものの、彼女やレンリに何かを言うことは無かった。不可思議ではあるが、レンリのことは信頼しているのだ。




 戦利品を車に載せて街を出た時はまだ明るかったはずだが、ミロク達が家に戻ってきた時には既に夜中と言って良い時間帯となっていた。送るだけでも時間は掛かるが、フェイファの戦利品の数が多かったがために下ろすのに時間を要したのだ。レンリのところでリキッドとシャワーの世話になり、着替えて寝るだけの状態になっているのは正直なところ助かった、とミロクは思った。


 というのも、レンリの家からさほど距離は無いというのに、助手席でレイが気持ちよさそうに寝ていたからだ。家に着いたと同時に起こし、部屋に送り届けてやったが、着替えずにそのまま寝るだろうことは容易に想像できた。


 一階に下りると、セハルが黒くて四角い物を片手に大きなあくびをしていた。黒い物は、今日の戦利品の一つだろう。


「今日は、楽しかったか?」


「ああ。いろいろと話を聞けて良かった。人によって、専門分野が違うんだな」


 店番をしていた諜報部員達のことだろう。ミロクは、うなずいた。


「あいつらは元々、何かに秀でてる奴ばっかだからな」


 セハルにつられたわけではないが、大きなあくびが出る。運転も荷物の積み下ろしも慣れているはずだが、腕を天井の方へと伸ばすと背骨が軽い音を立てた。


「つっかれたな。そろそろ寝るか」


 再び階段へと向きを変えると、セハルが「ミロク」と声を掛けた。振り返ると、セハルが両手を突き出している。その上には、先からセハルが手にしていた黒い箱が乗っていた。


「なんだ、これ?」


「カメラだ。あんたにやるから、写真を撮ってくれ」


 ミロクは、まじまじとセハルの顔を見た。


「なんで、また?」


「あんたは、この世の全てを遠巻きに見てる感じがする」


 思わぬ指摘に、ミロクは目を丸くした。


「そうか?」


「ああ。いつも、つまらなそうな顔をしている。何か、趣味を持った方が良い」


「趣味、ねえ」


 ミロクは、黒い箱を見下ろした。自分は心配されているのだろうか。そう首を捻りながらも、黒い箱を持ち上げる。


「まあ、ありがたく貰っとくわ」


 苦笑すると、セハルは安心したように表情を緩めて、うなずいた。


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