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高校入学から、気がつけば入学チュートリアルを終え、本格的な高校生活が始まろうとした最初の日の最後の授業。
「今から30年前、日本は少子高齢化に多様性社会と言う、対極的な問題に対し、政治家達は苦肉の策を国民投票により決めた。その結果、同性婚が可能となり、それと同時にもう1つ決まった制度の名と説明を……そうだな、とりあえず秋山答えてみろ」
いや、そこは出席番号とか色々あるだろ。なんだよとりあえずって、生ビールのノリで決めないでくれ。
「国がM婚者とL婚者に対し、組み合わせを決め、体外授精の後、L婚者のお腹の中で育て出産後、どちらかの子が男の子ならL婚者が育て、どちらも同じ性別なら、どちらかを育てる。そして、もう1人の子をM婚者のペアに育ててもらう。こうすることで、同性婚と少子高齢化を同時に解決したという訳です。その制度の名を『鴻鳥の揺りかご』と言います。また、特例じゃない限りH婚者の人達は、この対象外とされます」
まぁ、今更こんな説明高校生になれば誰でも出来ると思うけど、なんでこんな事授業出してるんだろ?
「その通りだな。なぜ、高校生にもなってこの事を勉強してるかと言うと、お前達もあと2年で結婚適齢期に入るからだ。もちろん18歳で、すぐにする人は少ないと思うが、それでもその可能性がある。だからこそ間違った知識が無いよう、今一度学ぶというわけだ」
そう言いながら、母さ……春野先生はタブレットPCを操作しながら、教室にあるモニターに映る映像を見せながら説明をはじめた。
まぁ簡潔に言うなら、昔は同性婚を認めてなく、本当に愛する人との結婚ができず、結婚率は低下し続け、いざ結婚しても、養育費の問題で妊娠率は更に酷く、まさに少子高齢化に向けフルスロットルの勢いだった。それを阻止するべく苦肉の策として、生まれたのが同性婚の認可と鴻鳥の揺りかごという訳だ。
そして国は、教育や養育に全面的に舵を大きく切り、出産しても安心して生活出来る様にした。そのおかげで、第3次ベビーブームが起き、少子高齢化に歯止めをしたわけだ。
最初の頃は、色々揶揄されたりあったらしいが、それも時間が解決してくれて、今では、恋愛の選択肢の幅が広がり、より人は自由に恋愛ができる世の中になった。
もちろん異性との恋愛が無くなった訳では無く、俺自身性別ではなく、その人の本質で恋愛したいと思ってる。
とまぁ、簡潔にするのって難しいし、完全に一人語りになってるけど、春野先生が説明してるのはそういった事だ。
「そして、最後になんで鴻鳥の揺りかごで妊娠した子の内男性が産まれたら、必ずL婚者が育てるかわかる人いるか?……よし、いないな!夏川答えてみろ!」
「えぇ!?」
春野先生に指名され驚きながらも考え込んでる生徒の名は夏川 海花。彼女は、難しい顔でセミロングの艶のある綺麗な黒い髪を指でイジりながら、何か思いついたようで、嬉しそうにパッと笑顔になった。
「女性慣れさせるため! ほら、同性ばかりだと、異性と会話が上手く出来ない人とかいそうだし!正解でしょ?」
いやいや、流石にそれは歓楽的答えだろ……
「50点だなそれだと」
半分は合ってるのかよ!?
「更に付け加えるなら、男性にも女性の妊娠時や出産時の辛さなどを知ってもらう為に、教育面として女性側で育てた方が良いとされてるからだ。そう言っても、M婚者になった場合は、あまり意味が無いのだがな。それでも、H婚者になった場合もあるからな」
確かに親から聞いた話だと、M婚者と合ったのは、子供の受け渡しの時のみだったみたいだしな。でもそれだと……
「それだと、女性ばかり辛くないですか?大変な思いをして子供を産んでも、他の人に渡さないといけない場合があるんですよね?」
彼女も、俺と同じこと思ってるのか。
「そうだな……でも、お互い子供が欲しいと思うから、鴻鳥の揺りかごは、機能してるわけだ。同性同士では子供が出来ない。それは、真理であって決して覆ることがない。それでも愛する人と一緒に子供を育てたい。そう思えるから、お互い納得して子供を作る訳だ。それに……」
キーンコーンカーンコーン
「っと、これ以上は先生の思う事になるし、コレで授業は終わりとする」
そう言って春野先生は、話を中断し教室から出て行った。
まぁ何を言いたかったかは、今まで沢山聞いてきたから俺にはわかるんだけどね。
さて、今日の授業も終わったし帰るとするかな。
そう思いながら、荷物をまとめ教室を出ようとした瞬間、突然俺は声をかけられるのだった。