歪まない溝
第八話 歪まない溝
2人が立ち上がるとドリーはジョージの胸ぐらを掴む。
「おい、てめぇ見損なったぜ!」
「しゅーりょー」
カスが2人の目の前で号令をかける。そして、ジョージはドリーの肩に手を置いた。
「頑張れよ、」
「あぁ?」
ドリーは眉を顰める。その横でカスがぶつぶつと独り言を言い始めた。
「百人に絞ろうと思ってたんだけどなぁ。八十二人ってのは今年は不作なのか?まあ、俺の管轄終わったしいっか」
カスは顔を上げると手を広げる。
「よし!一次試験は終わりだ!合格者は八十二人!それ以外は不合格だ!」
その場に残る受験者全員が肩を落とす。
「気を落とすことはない!今回の一次試験での死者はいない。だから、また次皆んなはチャレンジできるだろう?感謝してくれよ俺に」
カスは自分に親指を立てにこりと笑う。そして咳払いをした後解散を促した。
「納得いく説明しろよジョージ!」
「早く行けよドリー、お前は俺とは違う。俺は既に次を向いている」
「てめぇ」
ドリーは拳を握る。するとジョージは不合格者の集まる方へと向かっていった。
「え?」
ジョージは後ろ姿のまま振り返らずに歩く。
「ちょ、ちょっと待てよ」
動揺するドリーの元にカスが声を掛けた。
「見事な頭突きだったぜ!」
「ジョーーージ!」
ドリーはその場に崩れ落ちた。
リンがタッチした後真っ直ぐ暗闇を進んでいくと壁に囲まれた空間に顔を出した。どうやら地下を通って別の場所へ来たらしい。リンが周囲を見渡すとウィック、ライゼン、ユタが集まっていた。
「皆んなー」
リンは3人に手を振る。3人がリンに気づくと近くへと歩いてきた。
「取り敢えずよかった。俺たちもさっき着いたんだ」
「そうだね、後はドリーとジョージだけだね」
ライゼンとリンが話し始める。ユタはポケットから手を取り出すと指を鳴らした。
「こっからいよいよ本番って感じだよな?」
ユタはストレッチを始める。
「次も油断はできないよね」
ウィックも同意する。4人で会話しているとドリーが合流した。通ってきた穴はドリーが出てきた後静かに閉じた。その場の全員がジョージのことを聞かなかった。ただリンはドリーの背中を叩いた。全員が揃うと何処からともなく声が聞こえてきた。
「え〜皆さん!マイクテス、マイクテス。ゴホン、ふぅちょっとトイレ行こうかなぁ?」
会場の受験者の空気がピリつく。
「え?マイク入ってるって?」
天の声の気が抜ける声に受験者がざわつき始めた。しかし、天の声の一言で一気にそのざわつきは終焉を告げる。
「大丈夫そんなこと知ってるよ」
受験者のざわつきが胸騒ぎに変わる。
「やあやあ、どうも皆さん!僕は二次試験を担当しますマイク・ドロップ。以後宜しく。所で君たちは先ほどの僕の態度にまんまと踊らされたわけだが、本当にこれから大丈夫か心配になるねぇ」
受験者の顔が険しくなる。
「さっき何故君たちがあの必然行動をとったかネタバラシをしようと思う」
受験者全員がが食い入るように耳を傾ける。
「まず、一次試験を突破した直後の君たちは一次試験の大変さを知っていたと思う。もちろん今回を見るに神経も相当削られてね。全員が合格ないし目的に向かっている中ふざけたもののせいで時間を取られることを必ず嫌う。しかも、それが次の試験に関わることが含まれるかもしれない重要性があるから無視もできない。そんな状況下での自然な行動だった。しかし、何度も言うようにこれは全て僕の策略。」
その場の全員がゴクリと唾を飲む。
「そして二手目、僕は君らにふざけていた事をあえて見せてると教えた。どうだろう?その結果、君らは僕のこの口調に対しても何も話さず耳を傾けた」
受験者たちは目を見開く。
「これを教えたのには理由があるけど、まあ、あえて言わないよ。ただ、一つヒントを挙げるなら僕は誰かの機嫌を取るために様子を伺っているんじゃなく、自分の我を通すために人の心理を利用する。そこで次の僕からの試験は巨大迷路だ!」
受験者は各々周囲を見渡し始めた。しかし、高い壁しか見当たらない。
「一つの道は一つのゴールへとつながっている。そこから脱出した先に三次試験が待っているよ。それでは健闘を祈る」
ブチッとマイクを切る音が響く。受験者たちは騒がしくし始めた。あるものは壁を叩き、あるものは地面を掘る。そしてあるものは壁を登り始めた。
「笑止!なんだかんだいっても結局迷路は頭上が弱点なのよ!」
ロッククライマーのような格好をした男はスルスルと直角な壁を登っていく。遂に男の手が長上に着こうかと言う時、上空から変なものが近づいてきた。よく見ると大きなニワトリの様な体に巨大なドラゴンの様な顔を持つ化け物が姿を表す。
「ギャーー」
男は悲鳴と共にその化け物に上半身を噛みちぎられる。そして、怪物は何事もなかったかの様に飛んでいった。受験者がざわつき始める。すると再びスイッチ音が鳴った。
「あーすみません。先ほど言い忘れてたのですが、、」
その場の全員が今見た現状を理解したいと感じた。
「制限時間は3日です。それでは宜しく」
再びスイッチが切れる音が鳴る。その場の誰もが驚きを隠せなかった。