双子のパンダの真っ黒な休日
歌川 詩季様の『双子の白熊猫のきもち』https://ncode.syosetu.com/n6239hx/の二次創作です。『微話』https://ncode.syosetu.com/n0657hw/内の◇25◇妹とのディスタンスhttps://ncode.syosetu.com/n0657hw/25/よりネタフリをいただいたことにしました。
復讐に燃える妹パンダ。
お兄ちゃんパンダに明日はあるのか?
お兄ちゃんのばかぁ!!!
黒パンダのあたし、べそべそしながら枕を投げる。
お兄ちゃんの、ぶわかあぁぁぁ!!!!
あたしだって、遊びに行きたい!!
「明日映画観に行くんだ」
昨日の夜、お兄ちゃんが嬉しそうに言ってきた。
映画館で観るの久し振りって。ホント嬉しそうに。
「えっ? いいなぁ。誰と? 何観るの?」
「カイと。今日から公開のやつ」
アクションものの話題作。面白そうだねって言ってたもんね。
いいな、映画。あたしも最近行ってないや。
「あたしも行きたい」
おんなじクラスの甲斐犬のカイくん。カイくんとだったら混ぜてもらえるかなって思ってそう言ってみるけど。
「無理だよ。俺たち前売り買って席取ったもん」
「え〜!!!」
あっさり断られちゃった。
なんで買うときに誘ってくれなかったの…。
お兄ちゃんとあたし、双子のパンダ。
白パンダで黒パンダのあたしたち。
お兄ちゃんほど上手く変われないあたしは、嬉しいときには白パンダで、悲しいときには黒パンダになっちゃう。
そうして今日。
白パンダのお兄ちゃん、朝から嬉しそうに出かけていった。
黒パンダのあたしはベッドでコロコロしてるだけ。
つまんない。
あたしだって行きたかった。
つまんない。
ひとりだし。
なぁんにもすることないんだもん。
しばらく枕を投げては拾って、拾っては投げてってしてたけど、ママに怒られたからもうできない。
つまんない。
片付かないから食べてって言われて。
朝ごはん、大好きなおさつパンだけど。
今日はあんまり美味しくないや。
つまんない。
つまんないつまんないつまんない。
おさつパンとカフェオレでお腹はいっぱいだけど。
つまんないぃぃぃ。
いいなぁ、お兄ちゃん。
映画観て。お昼ご飯食べて。ショッピングモールだからお店だって見れて。
いいなぁ、楽しそう。
きっと帰ってきたら楽しそうに話すんだよ。
あたしはこんなにつまんないのに。
話すことなんか何もないのに。
朝ごはんも食べちゃって。
どうしよう。
今度はテレビの前でコロコロしてたら、ヒマなら買い物行ってきてって言われちゃった。
あたしが牛乳飲んじゃったし、お昼好きなの作ったげるって言われて。
仕方ないなぁ。
近所のスーパーでお買い物。
お昼、何にしようかな。
あ、新製品のお菓子が出てる。
お兄ちゃんも好きそうだけど。
今日はいいもん。独り占めするんだから!
カゴに放り込んで。あ、お昼お昼。
……なんでもいいよって言われたら思いつかない。おうどんでいいや。
お兄ちゃんはお昼またカレーかな。
……カレー。
…………………。
ちょっとニンマリ。
いいこと思いついた。
お家に帰ってお昼を食べて。
計画を実行するときがやってきたよ。
スーパーで買ってきた材料たち。
玉ねぎ人参じゃがいも。家にあるのにってママに怒られたけど。お肉はお金が足りなくなりそうだったから一番安いの買ってきた。
あとはね、一番大事なカレールー!!
色々見比べて、唐辛子のマークがいっぱい並んだいっちばんからそうなのを選んできた。
お兄ちゃん、からいのあんまり得意じゃないの、もちろん知ってるけど。
これはね、あたしの復讐なんだよ!
ひとりつまんないあたしの復讐なんだよ!!
おっきいロボットも仲間もいないけど、これは戦いなんだよ!
レトルトカレーに真っ黒なイカスミカレーってのがあって。
真っ黒なカレーは今のあたしの気分にはぴったりだったから作ろうかなって思ったけど、イカスミってどうしたらいいのかわかんなくてやめた。むにって掴むと吐いてくれるのかな? なんかヤだな。
カレーは調理実習で作ったから。大丈夫大丈夫。
泣きながら玉ねぎを切って。人参はちょっと大きいかもしれないけどこれ以上切るの無理。じゃがいも、どうしてこんなにちっちゃくなっちゃったんだろ? 謎。
お野菜の下拵えができたから、あとはルーの箱に書いてる通りに作ってく。
味見したら、ちょっとからいけどまぁ普通の味。
って、それじゃ駄目。
こんなんじゃあたしの怒りは収まらないんだからね!!
唐辛子爆弾、ぽいぽい放り込んで。
あぁもう湯気だけで目が痛い気がするよ。
出来上がったカレー。
味見する勇気はないよ。だって、煮込んでるだけで目が痛いんだもん。もう絶対からいってば。
あとね、ひとつだけ困ったことが。
……お鍋いっぱいに出来上がったんだけど、どうしよう。
………お兄ちゃん、ひとりで食べきれるかな…。
そう思いながら出来上がったカレーを見て。
なんだか急に情けなくなる。
…………あたし、何やってるのかな。
お兄ちゃん、いっつもあたしのこと心配してくれてるのに。
あたし、何やってるのかな。
そんなお兄ちゃんに、何食べさせようとしてるの。
いっつもいっつもあたしのことばっかりだから。
お兄ちゃんだってひとりで遊びに行きたいよね。
どうして笑って楽しんできてねって言えなかったんだろ。
ホントに。あたしって自分のことばっかり。
……こんなカレー、お兄ちゃんに食べさせるわけにはいかないや。
カレーの海から何本か魚雷唐辛子を引っ張り上げてみたけど、やっぱりまだからいよね?
もったいないけど。こっそり捨てちゃわないと。
流すわけにはいかないし、どうすればいいのかなって考えてたら。
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関の方から声がするよ??
お兄ちゃんと、カイくん??
「すっごいカレーの匂いがするんだけど…」
「…なんかちょっと目が…痛い…?」
台所に来たお兄ちゃんとカイくん、そんなこと言ってる。
夕方までまだ時間があるのに。なんでこんなに早く帰ってきたの?
「カレー作ってたの?」
お兄ちゃん、お鍋を見てそう言ってくるけど、あたしは必死に首を振る。
駄目だよ、こんなのお兄ちゃんに食べさせるわけにはいかないよ。
背中で隠すあたしだけど、やっぱりすぐバレた。
作ってくれたのって聞いてくれるけど頷けない。
お兄ちゃん、不思議そうな顔しながら。
忘れてたって言って、あたしにちっちゃな紙袋を渡してくれた。
見覚えある紙袋。
ショッピングモールの、ケーキ屋さんの。
開けてって言われて見たら。中、ころんとシュークリームがひとつ。
「今日はごめんな。次は一緒に行こう」
「そうそう。なんか観たいのあったら教えて?」
お兄ちゃん、黒い手であたしの黒い頭を撫でてくれて。カイくんは笑ってそう言ってくれる。
あたしは怒ってお兄ちゃんの苦手なかっらいカレー作ってたのに。
お兄ちゃん、早く帰ってきて、あたしにお土産まで買ってきてくれた。
じわじわ、涙が浮かんでくる。
「…ごめんなさぁい……」
泣きながら謝るあたしを、お兄ちゃんとカイくんはびっくりして見てた。
お兄ちゃんとカイくんにちゃんと話して、もう一回謝った。
お兄ちゃん、仕方ないなぁって笑ってから。少しだけ味見って言って食べて飛び上がってた。
どうやって捨てようかって話してたらママに見つかって。責任持って食べなさいってまた怒られちゃったから。
お水で薄めて玉ねぎたくさんとすりおろしたりんごとヨーグルトと甘口のカレールーを入れて。
からいけど……口の中がピリピリするけど、なんとか食べれるくらいにはなったかな。
ただね、もうものすごい量になっちゃった。
乗りかかった船だからって、カイくんまで一緒に食べてくれて。
三人でからいからいって笑いながら食べた。
シュークリームも三人でわけっこ。
新製品のお菓子もわけっこした。
でもまだ口の中がからいよね。
ごめんね、お兄ちゃん。
カイくんも、巻き込んじゃってごめんね。
すぐ拗ねちゃうあたしだけど。
それでも一緒に笑ってくれてありがとう。
カイくんのお見送りついでに三人でコンビニに寄って。
あたしが買うから。みんなでアイス食べようね。