プロローグ
俺は28歳と言う年齢で死を迎えた。
それは当たり前の事だったのかも知れない。
施設で育ち、働きながら夜間の高校を出て、朝から晩まで働き詰めで10年以上を過ごしてきた。
施設を運営していたのは暖かい60代のご夫婦で、少しでも恩返しが出来ればと毎月幾許かのお金を支援していた。
30代になったら人生を大きく変えようと生活を切り詰めて貯金もしてきた。
その結果は過労死。
世の中綺麗事だけじゃ生きれないのは知っていたつもりだったけれど、さすがにこれは厳しい現実だと思う。
唯一の救いは、万が一の時の為に遺言書を作り、少しばかりの貯金が施設へ渡るようにしていた事だけだ。
結婚もしていなかったし、彼女もいなかったし、両親はいるのかすら分からない。
ただ、施設でお世話になったご夫妻と、施設で育つ子供達が少しは悲しんでくれるならば、生きた意味はあったんだろうと思う。
なぜ死んだ人間が、こんな風に自分の死を感傷に浸りながら振り返る事が出来るのか?
それは俺の目の前にいる、幾千の世界を管理する管理者の1人であり、神と自称する美しい女性のせいらしい。
生前の唯一の趣味が、携帯で小説やライトノベルを読む事だった俺に取れば、これが流行りの異世界転生だと即思い当たり、それを聞いてみたら、女性からはこんな返答が返ってきた。
「転生と言う話であれば、どの世界の、どの人物も、魂が浄化され輪廻によって新たな人生を歩むのですから、全て転生者になりますよ」
そう言われてみると、転生と言うのは当たり前の話であって、本で読む異世界物語のように勇者召喚とかの特別感は無いのかも知れない。
「ただし、稀にですが、その世界に変革をもたらしいた時に生前の記憶を残したり、才能を付与したりして転生させる事があります」
「その稀にが俺ですか?」
「ええ、そうなりますね。貴方に転生して貰う世界は私が管理する世界の中でも非常に高水準で澱みが発生していますので」
「それを俺に浄化しなさいと?魔王とか邪神とかの討伐とかですか?」
「浄化は期待しているけれど、貴方の言うような要望はないわ。貴方は貴方の好きなように生きて構いません。その生き方が善であれ悪であれ自由ですし、その結果の責任は管理者である私に帰属しますから貴方にペナルティはありません」
俺は何か思っていたのと違う話に少し戸惑う。
その表情に気付いた神様が話を続ける。
「そもそも私達管理者、貴方の世界では神なんだろうけど、導く事は出来ても直接的に何かをする事は厳しく制限されているの。