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初執筆 雰囲気だけの超短編小説 アドバイス大募集

初めて書いた雰囲気だけの作品です。拙いところだらけですので、アドバイスいただけたら幸いです。

屋上へと登る階段の音がやけに無機質で、自分の価値が分かったような気がしてなんとも言えない気持ちになる。その通りだから悲しむ筋合いは無いのだが。


冷たいドアノブをひねってドアを開け、屋上へと出る。そこで僕を待ち受けていたのは、先回りして止めようとしてくれている親友でもなく、うっかり惚れてしまうほどの美少女でもなく、触れた瞬間すっと自然に肌に溶け込んでいく、暖かさと冷たさがほどよく混じりあった風と、美しい景色だった。


八月の夜のねっとりと巻きついてくるような不快な暖かさの風でもなく、十一月の朝の、肌をピリピリと刺してきて全身を突き放してくるような冷たい風でもない。僕の心の暖かい部分をもう一度引き出してきて、冷たい部分を全て吹き飛ばしてくれるのではないかと錯覚してしまいそうになった。


前を見てみると、これもまた形容しがたい景色が広がっていた。オレンジ色を藍色で今にも覆い尽くさんとしている美しい夕焼けを背景に、街灯の黄色がかった白色、車のランプの少し白っぽいオレンジ、信号機の鮮やかな赤、青、黄色、建物から溢れ出る何色もの光が輝いていた。


この景色自体は何度も見たことがあるはずなのに、今日は特段綺麗に見える。頭の悪い僕にも、これが偶然今日の景色が綺麗だったのではなく、僕の気持ちの問題であることぐらいは分かった。


今までにないほど心地よい感覚だ。いや、僕の数少ない語彙ではどうにもこの全てを表現出来る気がしない。「心地よい」なんて言葉では勿体無いような、申し訳ないような気持ちにすら思えてくる。でも、この感覚を表さずにはいられないほど素晴らしい。視覚も、感覚も過去にないほどの素晴らしいのもので包まれている。


これを体験したのが、あと少し前だったなら。あの一件が起きる前だったのなら。僕の気持ちはこの景色で簡単にプラス方向へ持っていけただろう。でも、もうあれは起きてしまった。もう僕の気持ちは変えられない。


なんなら、これほどにも素晴らしい物を見ても意志が変わらない自分を見て、さらに気持ちが固まった気すらする。そんな僕の強情さには笑えてくる。いや、強情ならまだ良かったのかもしれない。僕のこれは「逃げ」だ。この期に至ってまで変われない自分を嘲笑する。まあいい、逃げの人生に終止符を打つためにここに来たのだから。


このフェンスを乗り越えて一歩足を前に出すだけでいい。簡単じゃないか。そう思い、フェンスを掴んだ。


しかし手についていた何かが反射し光り、一瞬だけ意識がそっちへ向き、手足は止まってしまった。手を見ると、指輪がキラキラと反射していた。何故かこんなときにだけ頭がよく働き、思い出さなくていいのに指輪の意味を思い出してしまった。でも僕はここでも思いとどまることが出来なかった。


でもこれを見て思いとどまって、もう一度、あの世界に戻ることのできるほどの勇気も、そもそもこんなところまで来ないであのままでいる忍耐力もない人間だ。やっぱり思いとどまれないのも神様の優しい判断なんだな。と自分の中で妙に納得してしまった。


これは僕には必要ない。どうしようかこれを。このまま地面に投げ捨てるか。とも考えたが、僕が生きていた証拠をこの世界に残してしまうのすら申し訳なくなってきた。残さない最善の方法を考え、そっと胃へ流し込んだ。これで数時間後には無くなるだろう。


よし。これでもう心残りは無い。今度こそ、とフェンスを乗り越え、そのまま一歩前へ足を進めた。


内臓が浮く感覚がして気持ち悪い。


でもそれ以上に、僕を優しく包み込んでくれる空気と綺麗な景色か心地よかった。


僕は幸福感に包まれながら意識を落とした。

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