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思い切り抱き締めてください

そういえば、華咲さんは手の怪我ばかり気にしていたが、首はどうなのだろうかと思った。

俺がタックルした時、首が取れるかと思うくらい変な方向に向いていたのだ。


「そんなやばかった?」

「もうなんかぐるんぐるんまわってたよ」


これは言い過ぎではあったが、何か悪い影響でもありそうな動きかただったのは事実だ。


「そうかな、なんともなかったけど。あのときは痛かったのかもしれないけど、ずっと、手の方が気になってたから」

「そっか。まあ面白かっただけだから平気ならそれでいいよ」

「本当に心配している?」


心配だったし、命懸けの場面であったけれど、正直あの首ぐりんだけは今でも思い出し笑いをしてしまう。

華咲さんがなんとも言えない顔をしていたので、これは言ったら怒り出しそうだったから、心の中で呟いた。




「羅村くん。ちょっと腕を広げて」

「こう?」

「そうそう、良い感じ」


ある日、華咲さんは俺に、ブラジルにあるキリスト像のようなポーズを取らせた。

急になんだろうと思っていたら、彼女は小さく深呼吸して、いきなり俺の胸に飛び込んだ。


「え、ちょ」

「はいここで抱き締める!」

「は、はい!」


命令されて、思わず抱き締めてしまった。

最近は華咲さんに頼まれまくっていたから、思わず従ってしまったのだ。


そしてお望み通り抱き締めていたのだが、華咲さんはそれでは満足いかなかったようで。


「もっと強く」

「はい」

「もっと強く」

「はい」

「強く!」

「はい!」


最後はこれさば折りじゃね?てくらい強く抱き締めていた。

強く抱き締めるとそれだけお互いが密着する。

華咲さんの荒い呼吸が俺の首に掛かる。

もしかしたら俺の息も華咲さんの首に当たっているかもしれない。


どのくらいそうしていただろう。

少し腕を動かしたら、彼女の背中から、指をならした時のような乾いた関節音が鳴り、そこで俺はやりすぎたと思って止めた。


「いや流石男子。大きいね」

「華咲さんが小さいだけじゃないかな」

「言ったな!。背の順クラスじゃ、真ん中の前よりなんだぞ!」

「いでっ!」


小さいは華咲さんにとっては禁句らしかった。

手を握るのを強要してくることは無くなったが、これをしてから、これが代わりに要求されるようになった。

俺にはこっちの方がハードル高いんだけど。




「華咲さんて思ってたよりパワフルな人だよね」

「え。あーそれは羅村くんのお陰かも」

「おれ?」


華咲さんとは一年の時もそれなりに話していたが、二年の今とで印象を比べるとかなり違う。

そしてそれが俺の影響だとか。


「やっぱり塾減ったのが一番かな。宿題多過ぎ。家じゃ日付変わんないと寝られなかったから」

「もしかしていつも寝不足だった?」

「そうそう。あの事故の日も横断歩道渡ったときの記憶無いくらい眠かった」


だから華咲さんはあの日ふらふらしていたのか。


「やっぱり勉強はダメだね。体に悪いよ」

「いや勉強は良いことだと思うよ。用法・用量さえ守ればね」

「羅村くんも一緒の塾通う?」

「これが俺の許容限界かな。塾は大変心苦しいですが遠慮させて貰います」

「学校の授業しかしてなくない……?」




俺達は華咲さんの怪我が治るまで、俺が色々手助けをする約束をしていた。

華咲さんはその約束を最大限に生かして、学校では授業中以外のすべての時間、俺は彼女といることになっていた。


昼休みは二人で、教室の外で横に並んで食べていた。


「あれ。羅村くん、髪に何か着いてるよ」

「本当?。どこら辺?」

「全然違う。そうだね、私が取ってあげる」


そういって華咲さんはギプスのない手を伸ばして髪から振り落とそうとしていたみたいだけど、片手だからうまく行かないのか。

ゴミを取るにしては時間が掛かっていた。


「だめだ、とれない」

「そっか。大体今華咲さんの触っているあたりだよね。帰りにトイレとかで鏡で確認しとくよ」


取れないものはしょうがない。

俺は帰りに忘れず鏡を確認しておこうと心でメモした。

華咲さんは聞いていないのか、まだ俺の髪を触り続けている。


「角度が悪いんだよ。無駄に成長して。ほらもっと体こっちに傾けて」


諦めきれない華咲さんは俺の頭を掴んで華咲さん側に倒そうとする。


「わかったわかった。はい」


だから俺は華咲さんに頭を差し出したのだが、彼女は力を緩めず、それどころか頭を押さえつけるように力を込めてきた。

その行いに、上半身を斜めにしておく無理な体制をしていた俺は耐えきれなかった。

結果、彼女のふとももを枕にするような形で倒れこんだ。


「ご、ごめん」

「いいから。これなら取れそう」


しばらく髪をさわさわしていたが、彼女は手を放した。

俺は終わったのかと思って頭を上げようとして、出来なかった。


彼女が俺の頭の上に弁当を乗せて食べ始めたからだ。


「ちょ、ちょっと!」

「ほうら気持ちいいだろう。日々の感謝のきもちー」


彼女が弁当に蓋をするまで、俺は彼女に膝枕されていた。

これは不可抗力なのだ。起き上がったら弁当がこぼれてしまう。

だから蓋をするのを確認したら、俺はすぐに頭をどけた。


「あ。足痺れた」

「頭って思っているより重いから、長時間膝に乗せてたらそりゃね。大丈夫?」

「ん。というか、これぐらいの痺れなら気持ちいいくらい」

「やばいね」


彼女は笑って見せたが、本当に足にダメージがあったようで、教室への帰り道はいつもより時間がかかった。


2021/2/20

あらすじを直しました。

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