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ぎゅっと手を握ってください

「おーい、羅村くーん。次移動教室だから手伝ってよー」

「あ、うん。直ぐ行く」


事故に遭いかけた華咲さんとその後あった時、彼女は利き手にギプスを着けていた。

そして俺はそこで彼女が手首を骨折したことを知ったのだった。


「いやね。あの後だいじょーぶ、だいじょーぶて言って塾行ったけどさ、すっごい手首痛いの。なんか帰りとか腫れてたし、病院行ったら骨折て診断されちゃった」

「ごめんなさい」


俺はすぐに謝った。


「いやいやいやいや。別に羅村くんのせいだってとかじゃなくてね」

「それでも俺のせいで怪我しちゃったし」

「いやいやいやいや。あの車にクラクション鳴らされるまで轢かれそうになっていたのに気付かなかった私が悪いんだよ」

「もっとこう、漫画みたいにかっこよく助けられれば良かったんだけど。あー、そうだ。俺アフターケアに力入れるから、なんか困ったことあったら言ってよ。違うクラスだからできること少なそうだけど」

「え、いいの」

「おーけーおーけー」


そして彼女に許して貰う条件として、彼女の腕が治るまで、俺が色々手伝うことを提案した。




「いいな。お前」

「そうか?」


クラスの友人には、最近華咲さんと仲が良いと羨ましがられた。

確かに学校一の美女とよく一緒にいると聞くと、俺も羨ましく思える。


しかも彼女は、学校が終わって直ぐ塾があるから忙しくて友達付き合いもままならない。

確か彼氏も今までいなかった。

そんな人に急接近とかしてたのか、俺。


けれど実際を知ると仲良くなんてなれないと思う。

どう言い繕っても、俺は彼女に骨折までさせた加害者だ。

イメージが悪すぎる。




「ごめんね、羅村くん。帰りも私に合わさせて」

「いや別になんともないよ。前から同じ時間くらいに帰ってたし」


移動がある授業の他にも帰りのバス停まで華咲さんのバッグを代わりに持ったりとかもしていた。


「そういえば、結構ゆっくり歩いてるけど、大丈夫なの」

「え。ああ、塾のこと?」


そして彼女に塾の事を聞いてみると、怪我をしてから、減らして貰っていることを知った。

怪我をしていない時の彼女は、かなりぎりぎりの時間から塾の授業を入れていたようだが、怪我をしてから、日常生活が不便になり、一限に間に合わないと親に相談したという。

ちゃんと理由も説明して減らしてくれと頼んだようだが、彼女の母親は大分渋い顔をしていたらしい。

それでも、成績を落とさないことと、自習をちゃんとすることで少し塾の開始時間が遅れるようになったとか。


「まずさ、利き手を怪我してるから字も書きづらいのにさ、計算問題とか文章題とか書ききれないし。座って問題見て解説聞くだけとか思ってる以上に頭に入らないから。あと私勉強嫌いだし」

「勉強嫌いだったの」

「あー!。羅村くんもわたしのことガリ勉と思ってたんだ」


そんな他愛もない会話を休み時間や帰り道でよくしていた。

彼女と話す時間は僅かだったけれど、その少ない時間がとても楽しみだった。




「そういえば羅村くんて男の子だよね」

「一応170cmも越えてるし、男子制服も来てるけど、それでも足りないか」

「あ!。そういう意味じゃなくてね」


そういって彼女は無事な方の手で俺の手を握った。


「え、何」

「ほら手、大きい」

「言われてみれば、俺の手、華咲さんよりごついな」

「そういうこと」


握ったり、掌を合わせたり華咲さんの好きなようにさせながら、俺も彼女の手の見る。

彼女はそのうち握手するような手の握りかたをして、変なことを頼んできた。


「ねえ、ちょっと本気で私の手をにぎってくれないかな」


俺は最初は嫌がった。

何でわざわざ本気で人の手を握って痛ませなきゃいけないんだ。

男同士ならたまにやる嫌がらせだが、女子の、しかも片手が使えない華咲さんにやるのは躊躇われた。


「お願い。一回だけ」


その場では断ったが、彼女はその日が終わって次の日になっても会う度に会話の中で手を握ってくれと頼んできた。

そして俺はあまりのしつこさに、彼女の手を全力で握ることになった。


「うっくっ。これ、思ってたより、痛い、ね」

「だから言ったでしょ」


一度やってあげたが、彼女は手を放さなかった。

まだ握っているから一回なんて言って、何回も俺に手を潰すよう求めてきた。

いくらやっても終わらせてくれないので、最後の方とか、彼女の手の骨がぐにってなるくらいまでやってしまったが、彼女は懲りてくれず、その後も頼み続けてきた。


あまりに頼み込んで来るものだから、たまにやってあげるのだが、手を思い切り握ると痛みで小さく声を漏らすのだけは本当にやめてほしい。

そんなこと無いはずなのに、何か変なことをやっている気分になってしまう。


そこから、彼女はたまに手が使えないから、というのとは関係ない頼みをしてくるようになった。

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