表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

助けてくれて、ありがとう

――早くしろ、もう三十分だぞ!


学校の授業終了時刻である3時30分。

それより30秒程待っても始まらない帰りのHRに俺は苛ついていた。


俺、羅村 十八の帰りはいつだって時間との勝負だ。

六限が終了した時点で開始のベルは鳴っている。


俺がここまで帰りに拘るのには、理由があった。

バスの時刻表である。

俺の通うこの公立高校の最寄りのバス停まで、数分掛かるのだが、俺が使う路線は授業終了してから一番早い時間で37分に来る。


37という数字は絶妙な時間だった。

まっすぐにバス停まで行き、そのバスに乗れれば空いている車内で座席に座ることができる。

この時間に乗るには、学校からだと結構タイトだ。

そのお陰で他の生徒達は多くが諦め、次のバスを待つ。


しかし俺は待っていられなかった。

次のバスは15分後なのだ。

ゆっくり行っても10分はバス停で待たされるし、ここから生徒の数も激増する。

早めに行くと座れるが10分待たされる。

友達と暇を潰しながら行くと帰りの車内、混雑のなか2~30分は立つのが確定だ。


だから俺は何としても37分のバスに乗りたかった。


スマホで時間を確認すると、もう32分になろうとしている。

まずい、もう廊下は人で溢れてくるし、これ以上はダッシュコースになる。


担任はきっと、別のクラスで課題を集めているのだろう。

俺達は二限にその授業があった。

担任は時間を忘れて授業をするタイプの人間だ。

鈴が鳴って慌てて授業の纏めをすることがよくある。

それに今日は課題もある。まだ集めていないから時間が掛かっている可能性もあった。

というか、今日の二限がそんな感じだった。


もう明日、自転車通学でバスの時間なんて気にしない友達に帰りに何があっただけ聞こうかと思い始めたときだった。


「すまん!。今日の連絡はなし、解散!」


来た!


担任は乱暴にドアを開け、それだけ言うと走ってどこかに行った。

きっと待ちわびる自分のクラスに、先にかえって良いことだけ伝えることにしたのだろう。

でなければ走って、六限のクラスに行かない。


まあ担任のその後なんて正直どうでもいい。

今は時間だ。

もう危険領域に突入している。

俺は担任を待つ間に用意していたほぼ空のスクールバッグを背負って、一言友達に別れを告げ走った。




バス停までの道で一番の鬼門は、ゴール直前に横たわる信号、横断歩道付きの直線道路だった。

こいつのタイミングが悪いと、信号待ちをさせられて、その間に目の前でバスが出発してしまうことがある。

個人的にはそれが最悪だ。


そしてその道路が見えてきた時、ある少女もそこにいた。


彼女の名前は華咲 沙都さん。

おそらく学校一の美少女で、学年一頭が良い。

黒く長い髪は光を反射しまくって半分くらい白くなっている。

顔は儚げで、体型も華奢な深窓の令嬢のような人だ。


彼女は俺と違う系統のバスに乗る。

42分くらいのやつだった気がするから俺よりは時間があるが、俺とだいたい同じ時間にバス停に着いている。


2年となった今は違うが、一年の時は同じクラスだった。

そして、バス停に早めに着くことができた時、聞いたことがあった。


「どうしてこんな早くにバス待ってるの?」

「私、この後塾あるから、あんま学校残ってられないんだ」


事実彼女は放課後誰かと遊んだなんて話を聞いたことがない。

クラスの打ち上げにも去年は一度も来なかった。


それにしても、彼女が見えると大分心の余裕が違う。

彼女のクラスはうちと違い、安定して帰りのHRを終わらせる。

彼女はいつも同じ時間にこの道にいるのだ。

だから彼女がバス停に着く前に追い付けると、バスに間に合ったも同然。


心に余裕ができると視界も広くなる。


あれ、彼女、なんかふらついてね?

あれ、信号青なのに俺達側の車線で滅茶苦茶飛ばしている車あるくね?

あれ、このままじゃ彼女轢かれね?


気付いたら俺は、華咲 沙都に全力の体当たりをかましていた。


その時の俺が見ていたのは、すごい驚いている運転手のジジイと。

いきなり男子高校生にぶつかられて、その衝撃でぐりんと揺れていた華咲 沙都の頭だった。




「助かったけどさ。助けてもらったけど、もう少しなんとかならなかったかな」

「いや、まあ命あってのなんとかですし」

「そうだけどさ」


彼女は無事だった。

いや。これは果たして無事なのか。

とりあえず、彼女は車に轢かれることはなかったし、俺も接触すらしなかった。

ただ彼女は突然の体当たりに対応できず、思い切り転んで、そのときに手を着いた。

そこに勢いを殺せなかった俺がのし掛かり、彼女は利き手の手首を骨折。

あと服に穴が開いて、いくつかの擦り傷ができた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 痛い愛も愛故にですね。 [一言] 楽しく読ませて頂いています。 応援してます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ