にせもの魔女のさがしもの
「やっとはれた」
小さな魔女の口から白いいきがもれます。
なんにちもつづいていた雪が、ようやくやんだようです。
森の木のむこうに見える夜空には、こおりついたような星がたくさんならんでいます。
小さな魔女は、黒いローブの下に魔女様が昔あんでくれたセーターをきこみました。
ズボンとくつしたは2まい重ねてはき、ブーツもはきました。
でも、手にはなにもつけません。
小さな両手で、料理につかうボウルよりも大きな黒い器をもちます。
黒い器の中には、鏡のようにキラリとした金属のようなガラスのようなカケラがはいっています。
カケラをいれた器をもつと、小さな魔女は小さな家を出ました。
こんもり雪をかぶった森の中をゆっくりと歩いて行きます。
いっぽふみだすたびに、ブーツの下の雪がくきくきします。
おもしろくて小さな魔女は楽しくなってしまいます。
夜風にあたっているほおや手は切れるように冷たいけれども、気になりません。
白いいきをもらしながら進んでいくと、ぽっかりと木がないところに出ました。
まんなかには、大きなおまんじゅうのような雪山があります。
きりかぶが雪にうもれてしまっているのです。
小さな魔女は、おまんじゅうの上にぎゅっと黒い器をおきました。
両手を器からはなさないまま、小さな魔女はじゅもんをとなえます。
黒い器の底から水がわきあがり、すっかりいっぱいになりました。
しばらくすると、夜空の星が黒い器の水面にうつりこみます。
なんかい見てもふしぎで、小さな魔女はじぃっと器の中にある星を見つめました。
器の中で星がつぃっとながれます。
見まちがいかと思って夜空に顔をむけると、空にはいくつもの星がながれていました。
ながれる音が聞こえないのがおかしいくらい、はっきりと見えます。
つぃっ、つーぃ。
みじかいの、ながいのが、いくつもいくつもながれていくのを、小さな魔女はぽかんと開けた口から白いいきを出しては見つめていました。
どれくらいたったのか、器から光をかんじました。
黒い器に沈んでいたカケラがかがやいています。
小さな魔女はそぉっと、その小さな両手を器の中に入れました。
すっかりひえたゆびさきは、水がつめたいというよりも、じぃんとします。
そうしてゆっくりと星の力が小さな魔女に入っていくのがわかります。
小さな魔女の体がしっかりくっきりしていきます。
魔女様にはじめてあったときにもらった力と同じです。
ずいぶんと昔、小さな魔女は、森でたおれているところを魔女様にたすけてもらいました。
その時の小さな魔女がどんな姿だったか、自分でももうおぼえていません。
魔女様は小さな魔女に、魔女として生きることをおしえてくれました。
「わたしはもうじき星になる。なぁに、だいじょうぶだ。それまでに魔女についてぜんぶおしえてあげるからね。そうしたら、こんどはあんたがわたしを見つけるばんだ」
小さな魔女に、魔女様は「もしわたしが忘れていたら、魔女のことをおしえておくれよ」とわらってきえていきました。
黒い器にあるカケラの光がなくなると、器の水もなくなっています。
「だいじょうぶよ、魔女様。なんにんだって見つけるし、魔女のこともちゃんとおしえるわ」
小さな魔女は両手で黒い器を持つと、家にもどりはじめました。
いま、小さな魔女の小さな家には小さないきものがなんにんもいるのです。
魔女様に小さな魔女がしてもらったのと同じように、こんどは小さな魔女が小さないきものに力をわけています。
小さないきものがもう少しげんきになったら、小さな魔女と同じように星から力をわけてもらえるでしょう。
そうすれば、魔女様とくらしていたときのように、いっしょにおはなししたり、ごはんをたべたり、くすりをつくったりできるでしょう。
はじめて小さないきものを見つけたとき、魔女様そのものでないことに、小さな魔女はガッカリしました。
小さな魔女は、ずっと魔女様にあいたかったからです。
魔女様がもどってくるとしんじていたからです。
でも、森でなんども小さないきものを見つけているうちに、魔女様がはなしてくれたのは、魔女様がそのままもどってくるということではなかったんだとわかってきました。
小さな魔女もいつの日か、かつての魔女様と同じように、「こんどはあなたがわたしを見つけてね」と、小さないきものにはなすでしょう。
小さな魔女はぽかぽかしたきもちで、小さな家の扉を開きました。