#1 親睦会
最初は理不尽な世界を強気だけで乗り切る女の子の話です。
ここはアストランティア首都カリストにあるグランノーム貴族学校。
今日は半年後に入学式を控えた現貴族家の令息・令嬢への説明会と称した茶会が催されている。本来なら夜会を開くのが貴族のセオリーだが、昨年末に法が一部改正され、夜会参加の条件として13歳からだったのが15歳へと引き上げられたため去年から親睦会は茶会と決まったのだ。
机の上に置かれた葡萄ジュース入りのグラスを手にとり、中心から離れた木陰に移動した。ここなら人目につかないだろうと思って移動したのだがすでに先客がいた。すぐ傍のテラステーブルに座り、楽しそうに数名の女性陣が談笑している。
(あれは……サーマル伯爵の令嬢、リーゼ様と右隣りはタリアータ男爵の……)
顔ぶれからして下らない内容を話しているのは容易に予想できた。
「それでお父様ったらワタクシなら皇妃に選ばれるのなんて簡単だ!なんて言うのよ?おかしいでしょう?」
「いいえ!リーゼ様の美しさなら必ず選妃に名が上がりますわ!」
「ええ、確実に皇妃になられるでしょう!美妃として後世まで語り継がれることでしょう~」
――ほら、予想通りね
やっぱり親同士の主従関係に影響されてわがままに甘やかされた娘のご機嫌どりの会合は聞くに堪えない。巻き込まれたくない私は急いで離れようとしたが、残念。少し遅かったらしい。
「あら?」
――目ざといな、このお嬢様。
「貴女は…最近、“たまたま”成功した事業で貴族入りされたキャンベル家のアリシア様ではなくて?」
“たまたま”を強調し、無駄に上品な声色で私を呼んだお嬢様につられてご友人方もこちらに注目する。見つかってしまった以上、挨拶をしなければならない。ここに移動した数分前の私を殴りたい。
「はい、アリシア・キャンベルと申します。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。」
「そう…いいのよ、気にしないわ。やはり男爵家といえど成りたて……ワタクシに声をかけるのをためらわれるのは下の者として当然のこと。まぁ、これからは同じ学び舎に通う身同士。ファーストネームで呼ぶことを許可して差し上げますわ。」
(聞きしに勝る嫌味な女、どこまでも伯爵家であることを鼻にかけた態度。キレそうなんですけど……)
「光栄です、リーゼ様…」
キレそうな自分を押し殺し、膝を折って女王でもないこの人にカーテシーはきつい。今の自分の顔、最高にひきつってるだろう。笑いたくもないのに笑わないといけない世の中は本当に息苦しい、必死に事業を成功させ、念願の貴族入りを果たしたお父さんには悪いが、こんな儀礼ばかりの世界の何に憧れたのか。意味が分からない。
「良かったらアリシアもご一緒しませんこと?この日のために取り寄せた茶葉と今首都で人気の製菓店で特別に作らせた焼き菓子もあるのよ。」
(早速呼び捨てですか……)
「……是非、ご一緒させていただきます。」
もちろん誘いも断れない。笑みを浮かべ、ウェイターに運ばせた椅子に腰かけ、ご機嫌取り茶会の始まりだ。
「さてどこまで話したかしら?」
「リーゼ様が選妃候補に名が上がったというとこまでですわ。」
「ありがとう、ハンナ。でも正確には大臣の話の中だけよ。決定事項ではないわ。」
「もう決まったも同然ですよ~。リーゼ様を外す意味がないですもの。」
「それもそうですわ~~」
アハハハと楽し気な少女たちを他所に私の心はよどんでいくのは何故だろうか。会話のノリについていけない私は切り分けられた美味しいチェリーパイに逃げるしかなかった。
初めまして、つたない文章ですがご容赦ください。何かございましたら気軽にどうぞ。