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13

 ときめきとは真逆な理由で視線が外せない。なのに相手も視線を外してはくれないから、外面だけはロマンチックな見つめ合いが続いていた。

 告げられたものに驚きを隠せない女と、真摯な笑みをたたえる男。

 男の方は女――つまり、私が反応出来ないから待つしかなく、ロマンスの条件だけは満たして膠着していた。私が動かない限り事態は動かない。それが分かっているのに、どう理解すれば良いかも決められずに感情も思考も止まっていた。

 逃避も甚だしいけれど、この空気を突いたら世界が壊れてしまうとばかりに必死に息を止めているダフィートが滑稽で、やけにリアルで、いっそ笑いだそうかと思った瞬間、可愛らしい声が状況を破った。


「まぁ、お兄様! 横恋慕なんてはしたないですわ! お弟子様はおじ様が娶られるではなくて?」


 淑女然とした少女から、ふわふわの髪に似合いの声と発せられて、その軽やかさにも心奪われてしまいそうになる。だが、内容が問題すぎて、兄に囚われていた視線は妹の方へと動く。

 具体的には《横恋慕》とか、《娶る》ってなんだ。


「あの方がリズ様以外と添い遂げられるとは思えないけどね……」

「ですが! ですが! あの見事な髪色をご覧くださいませ!」


 これでも入院中よりは本来の色になっている髪に二対の視線が刺さる。

 急な恋バナのノリについて行けず、結局兄妹のどちらにも交互に視線を囚われて忙しなくしていると、私より年下だと思われる淑女がにっこりと笑う。こちらを安心させるような笑みに、やっと緊張を解くことが出来た。

 緊張とは無縁そうな兄の方も妹に順じてくれていたから、余計に一息つけた心地になる。重要なのはリズさんだと分かっていても、慣れないやりとりなのは間違いない。


「まぁ、そうなんだけどね……あの人、弟子であろうとなんであろうと、身近な者を失うことに耐えられないゆえの過保護じゃないかなぁ」


 そして、意外とヘタレがバレてるのが笑える。

 私は多分、リズさんと魔力か魂かが似ている。世界を超えて引き寄せられるくらいには似たもので、更には、別人と分かってもあの人でなしが手放せないくらいには、似たところがあるのは事実なのだろう。


 あとは、なんか、まぁ、リズさんの妹さんの話を聞いて察するところもある。似て非なるものだけど、リズさんの系譜である妹さんを保護できなかった後悔が、あの人でなしを過保護にしてる――というか、まっとうに私を保護することになってる。大魔導士にはなんのことないことかもしれないけれど、かなりの高水準な待遇で庇護されていたことは身につまされている。

 その過保護も、なんか方向性が間違っている気がしないでもないけれど。


「ですので、聖女様が望まれるのなら、当家で代理を立てるのもやぶさかではないのです」


 落ち着いた声音の横で、可愛らしい少女が『代理は私です! 私!』と小さく何度も手を上げている。無邪気でリズミカルな様子は、まったくもって話の内容にそぐわない。

 やぶさかではない、とはつまり、一番避けたいのが私にとって不本意な使われ方をリズの名がされることなのだろう。何度も提示されていた彼らの価値観が、状況になれたこともあって身に馴染み始めていた。


「血族ならば弟子である信憑性を持たせる必要もないものね」

「どちらかと言えば、かの方の傍に在る耐性が必要だからの人選です」


 にっこりと言い切られて、あんまりな性格も当然把握されているのに飽きれたら良いのか、そのために妹を差し出すことを薄ら寒く思えばいいのか。決めかねている私に、現実は変われないから追撃が来る。


「もちろん、プロポーズをお選び頂いても構いません」


 当たり前に差し出される選択肢は当然ながら何一つ変わっていなくて、自由に選べば良いという。

 聖女の名を受け入れるか、入れないか。

 どちらを選んでも保険になる第三の選択肢もあるとプロポーズまで用意されて、破格の待遇なのは分かっている。


「ですがいずれはご決断頂かねばなりません。この戦がどのような形で決着を迎えるとしても、この《世界》で御身が放っておかれることはないでしょう」


 突きつけられた現実の鋭さは、時間の経過と共に増しているような念押しだった。

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