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 伸び放題で肩甲骨より下まであった髪は、正面から見たら肩口から毛先がチラついている程度には失われていると思う。肩の辺りをじっと見て来る視線に思うところがあるのは伝わってくるから苦笑しつつ、互いに触れたくない弱みがあるから触れるのを避ける。

 お蔭で似たような表情で眉を下げて、微妙な空気で頭を下げ合うことになった。


「すみません……魔力を使っておられるので疑問を待ちませんでした」

「私も全く思い至らなかったから仕方ないと思う。ごめんなさい」


 こっちの世界に来てから、インフラのほとんどを魔力で制御している場所で生活していたのだから気づいても良かったのだ。なのに病院での生活ですっかり生来の魔力のない生活の方が馴染みすぎてどっぷりしてしまっていた。

 二人とも多分、これ以上何を話しても謝罪を重ね合うだけだと気づきながら、なおも誤魔化すようにヘラりと笑って見せれば、腹を括ったダフィートが話を転じた。


「館を移って頂けますでしょうか?」


 移る館があるのも知らなかったレベルで分かっていないけど、鬼気迫る提案にコクコクと頷くことで同意する。それこそ人を助けたのにまともに魔力を扱えないとか、現時点での申し訳なさは私に勝る者はない。ダフィートこそがその魔力を行使されたて延命した身とあっては、釈然としないものを抱えても仕方ないし、そんなポンコツで魔力を行使したのかと言われたら返す言葉はない。

 だけど腹を括った相手に蒸し返すのも申し訳なくて従順の構えで続きを待つ。


「こちらは……貴族の客人を迎えるための別館になります」


 ぐるりと周囲を見回す様子に、こちらとはこの館が別館かと理解する。別があるなら本もあるだろうけど、本館の方が多分大きいだろうから、これ以上かと尻込みする。ここだって建物の真正面に立つと、左右の端が把握出来ないくらいには大きかった。


「客人を迎えるために魔道具を扱う程度の魔力がある使用人はおりますが、数は多くありません。部屋の開閉はリズ様のみが行えることを前提に人員配置をしておりましたので、警備などが立ち行かなくなりまして……こちらは魔道具がある前提での運用となりますので……」


 本来なら、申し訳ありません、と続けたいのを我慢したのが分かる様子で、ダフィートは説明してくれた。有り難いので、こちらも一生懸命理解に勤しむ。

 通常の鍵すらないのを見ると、文化の根本から違うのだろう。


「マスタールームに関連するものを扱える者がおりません」


 だから閉じ込められたんだもんね、と思いつつ、普段からそんな状態で大丈夫かどうかが一番気になってしまう。もしかすると珍妙な客人である私を迎えるにあたり、人手不足は深刻なのかもしれない。


「人が足りていないなら、手伝いもするからね」


 お世話になるのだから当然だ。

 だからの言葉に、ダフィートの表情は今までで一番曇った。


「普段は母が使用している館でして……母付きの者を数に入れた運用をしておりまして……」

「お母様は……?」

「こちらの方が戦場に近いのもあり、元々タウンハウスへ移って頂いておりました」


 だから私のために移動したのではないとアピールしつつも、全体的に歯切れが悪すぎる。何があるんだろうと視線を動かして、目の前の人も魔力が使えないことを思い出した。

 混血だと魔力は使えない。多分だけど、お母様は魔力が使えるんじゃないだろうか……?


「こちらこそ準備が二度手間になってごめんなさい」


 とは言え、思いついたことはデリケートすぎて口には出来ない。無難な、でも謝るべきことを謝れば、ダフィートも再度の謝罪は飲み込んで切り替えていた。


「夕食の準備は出来ておりますので、お食事の間にお部屋を整えさせて頂きます」

「急がなくても大丈夫だから、無理の範囲で宜しくね」


 私も明るい声を心掛けて、何とか無難方向へ話題を舵を取り切った。しかし


「父が混血となるのは決まっていましたから、祖父の代より本館は魔力を使用しないで生活出来るよう改造してはおります。なのでご想像よりは不自由をおかけしないかと思います」


と語るダフィートは笑顔だけれど、ならここを選んで正解だったと言い切ってあげるには、デリケートすぎる話題アゲインだ。だけど無難で卑怯な私は、病院も快適だったし大丈夫じゃないかな? とか、魔力がない一般的な家ってどんなのなの? みたいな一般的な話で気づかなかったふりをし通すのだった。




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