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そしてこの暴動をSNSを使って国内に伝播する”ただの視聴者達”がいる。いくらあの三人が人間離れしているとは云え、限度がある。なにより戦闘している事で相当のリソースが奪われている。その状態で国内中を飛び交う情報を操作する事は難しい。
「必要なのは、抗ドラッグで沈静化する事。それとこの状態をそのまま映す映像を乗っ取って世界中に広がったドラッグを浄化する事」
一見して無理なのは分かり切っている。
それを可能にするにはどうする必要がある。仮説でもいい。どうするべきだ。
「まずは歌を歌う。ドラッグの除染。それとこの街を汚染するドラッグをはぎ取る抗電子戦を可能にするリソース。わたしじゃ無理。なら、どこか大規模サーバーをハックして……」
街ひとつを支える情報は、実はそこにいるすべての人間である。今やBCCは全員が当たり前のように持つ。提供する事でそのリソースを若干借用する。それが今の都市部を支える情報インフラの根幹である。
その根幹が汚染されて使えないとなると、それと同等規模の情報処理装置が必要である。
「そんなの、どこにも……」
あるわけがない。街ひとつを支えきる容積を持つ情報処理装置なんて、このご時世誰が建造するものか。新たに作るくらいなら、BCCのリソースを借用したクラウドの方が圧倒的に安価かつ迅速だ。
「ジュ・トゥ・ヴ、さん。サーバ、探して。街一個入る大きさの」
そんなものあるはずがない。維持するだけでどれだけの費用が掛かると思っているのだ。
「あるわけない、と言いたいところですが、実はひとつめぼしいものがあります」
「それ、繋げて。今すぐ」
「あははは! 無理をおっしゃる! でも、少々お待ちを。このジュ・トゥ・ヴ、目麗しき乙女の為なら物理回線網でも、海底ケーブルでも繋げて見せましょう」
あははと笑う月面顔は、下手な落書きのキーボードを無意味に連打した。
「BCCと繋がらない古いタイプのモノですね。いや、せっかくあるのに、運用コストの為未稼働放置されているようです。ネットワークも旧来の光通信ですからねぇ」
無意味に残像のエフェクトを出しながらキーボードを連打するタキシード姿の月面顔にそちらを任せて、愛海は現状の把握に全身全霊をかけた。
街中に伝播したドラッグは相乗的に増幅している。それを除染するのに一つずつをつぶしていくには、時間が足りない。こちらもその相乗波形に合致するように対抗しなければならない。
調査し、解析し、抗ドラッグを開発し、それを今度は相乗効果で増幅するようにフラクタルイメージを構成する。
あとは、それを歌うだけ。
歌い切らなければ、ならない。
「さー、できますよ!」
ジュ・トゥ・ヴ、により休眠状態だったサーバーは立ち上げられ、処理を待つ状態になっている。物理回線網にも接続され、中継基地を介してBCC通信網へ繋がる。
新たに手に入れた処理領域へ命令を入れる。
「準備はできましたよ。いつでもいけます」
後は歌を流してやれば、抗ドラッグは機能する、はずだ。
「いくよ」
愛海は、唇を一度湿らせ、歌を紡いだ。




