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ぎろりと目を動かし、睨みつけた菅野は、今自分を蹴り飛ばし頭蓋骨の一部を粉砕した足を掴んで持ち上げ、腹部を殴りつけた。
「がっ、は!?」
なぜ動ける。疑問が浮かぶが、それ以上にあまりの威力に横隔膜と腹腔内膜が蠕動して呼吸困難に陥る。
「おらおら! どうしたガキぃ!」
捕まれた足を地面に叩きつけられ、さらに額を蹴り飛ばされ跳んだ体。
大きく仰け反ると、首を掴まれて持ち上げられた。そして腹部へ連続して膝蹴り。衝撃で目が回り、意識が飛びかける。
「女性を蹴るなんて、下種な所業ですね」
場違いなほど落ち着いた朗らかな声。だがその瞬間今度こそ菅野の右腕は叩き折れていた。
優姫の体が力なく地面に伏しかけた時、乱入者が細い腰を抱き上げ跳んで菅野との間合いを開けた。
「貴様……殺すッ! 殺してやる仁科ぁあああッ!!」
彼我の間を開けたのは、仁科だった。
ぐったりと虚脱する優姫を地面に座らせて、仁科は左手に持った純炭素繊維を編み込んで作られた特別製のトンファーをくるくる回した。
「殺す? この私を貴方のような負け犬が? それは、とても面白い冗談ですね」
にこりと花が咲くように笑みを浮かべて見せた。
その態度に顔を憤怒で赤黒く染めた菅野は、血泡の混じった怒声を上げて突っ込んできた。
迫りくる菅野。体格差は絶望的にかけ離れている。それでも怖気づくどころか鼻歌すら交えかねない余裕を見せてていた仁科は、突然動いた。
ぞんざいに振るわれた彼女の左腕。そこに持たれていたトンファーの長辺がくるりと遠心力に従い位置を変え、菅野の左腕を強かに弾き飛ばした。
軽快な破裂音。がくと姿勢が崩れた菅野の顔面へ、くるりと回ったトンファーの長辺と仁科の肘がめり込んだ。
大きく仰け反る菅野の細長い体。仁科の右手に魔法のように突然現れたけん銃が全自動射撃と遜色のない速度でがら空きになった菅野の腹部へ弾丸を撃ち込んだ。
仰け反っていた体は衝撃でくの字に折れ曲がり、地面に倒れ込む。
遅れて薬きょうが地面に落ちてきんと音を立てる。
「さて。大丈夫ですか?」
油断なく菅野を見据えながらつぶやく仁科。工業機械の滑らかさで空になった弾倉を取り換え脇のホルスターにけん銃を収める。
ぼうとその姿を眺めていた優姫は、はっとなり慌てて立ち上がる。
「すまん」
「なんてことはありません」
「殺したのか?」
「いいえ。非殺傷のゴム弾です。それでも15発を5センチ以内に全弾撃ち込みましたから、内臓は破裂しているはずです」
さらりと言ってのけ、腰をわずかに落とした。
「やはり、自分自身にもD3Cを使っている様ですね」
菅野が動いた。上半身の反動だけで立ち上がった男は、憎悪に煮えたぎる悪鬼のように、口元を吐血した血潮で真っ赤にさせながら二人を、仁科を今世最大の仇敵を見るように睨みつけていた。




