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電子世界の歌姫  作者: 夜桜月霞
悲観的な歌姫
81/96

73.5

 会場に音楽があふれた。


 愛海が自分のやる事を始めた。


「始めよう……」


 人波から外れた場所で待機しつつ、体をしっかりと温めていた優姫は小さくつぶやいた。


 優姫は内心では愛海が心配で仕方でしかたなかった。それでも、ステージへは意識を向けない。自分がやるべき事は、別だ。


『出島経由で約一個小隊がここへ来ている。はは、これは戦争でも始める気か?』


 音声通信でラヴァーの声が聞こえた。声色から笑っているのがわかる。どこか安全な場所へ身を隠したかの人物は、どこからかそんな情報を手に入れてきた。


『サービスポイントへ案内してやった。確実につぶせよ』


『わかっています』


 それぞれがこのバカげた猿芝居を終わらせるために、全力を尽くしていた。


 できる事をやるために、配置につき全力を示す。


 ならば、自分もそうするべきだ。いや、そうしなければならない。


 優姫はクラウドネット上にコピーした1万のAIを駆使し、ECW『光』を行使する準備を進めていた。この点でいえば、優姫はラヴァーよりも優れているというのは、ラヴァー自身が語っていた。


 複数の簡易エージェントによる超並列演算と、優姫という解読ロジックを詰め込んだ制御装置によって、1秒間に1亥桁の演算が可能なハイパーコンピュータを使っても解けない暗号を解読する。それがECW『光』である。


 やっている事は完全に犯罪であるため、普段であればこれほど大それたことはやらない。もっと規模を小さく絞り込んだ上で行う。しかし今はラヴァーが用意した秘匿クラウド階層によって実現できた。これで従来の10分の1の負担で10倍以上の精度と規模のECW『光』が起動できる。


『馬鹿が、バカな罠に引っかかったぞ。こっちも始まりだ』


『ええ。見えています』


 うなずく仁科の声ととともに、喧騒にあふれた新宿の空に破裂音が響いた。


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