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告知された時間まで、もう10分を切っている。
街は瞬く間に喧騒へ包まれた。
あらゆるニュースが政治と大企業の不正を報道し、その原因の一端である@MMを報道する。
街の至る所で、彼女の歌声が溢れかえっていた。
無秩序に@MMの歌が垂れ流されている。
その歌の真実を知る、歌っていた張本人からすればまず生きた心地がしない。
そして街の中は、彼女を渇望する声とそれに対して流布された情報を鵜呑みにした批判する声がせめぎ合い、半ば暴動となりつつあった。
その中を進むのは、気が引けるどころの騒ぎではない。恐怖で足がすくみ、動けなくなる。
「大丈夫。オレがついてる」
動けたのはひとえに優姫がいたからだ。
「なんで、お前は、いつも助けてくれるんだ?」
無意識に体が震え、活舌が悪い。周囲が気になって仕方がない。
今まで疑問には思っていたが、聞けなかった事のひとつだ。
普通に考えれば、ここまでしてくれるほど関係性が親密というわけではなかった。それなのに自分の手を汚してまで、愛海を助けている。ヒーローだと呼ばれるほどの人柄ではあるが、果たしてただの女子高生がここまでするとは到底思えない。
愛海の疑問に、一瞬だけ言いよどみ、隠しても仕方ないかとつぶやいて優姫が応えた。
「6年前に起きた、違法薬物拡散事件、って、覚えてるかな?」
言いにくそうに語られた言葉は、意外なものだった。
そしてなによりその事件は、知っているもなにもなかった。
「それの犯人が、オレの兄貴だったんだ……」
「え……」
愛海にとって、その事件はとても他人ごとではなかった。
「え、え?」
「ドラッグ、今回のに使われたやつの原型、D3を拡散していたのはオレの兄貴。最後は売っていたドラッグ使って中毒になって、刑事に撃たれて死んだ。オレは、兄貴がそんな事やってるなんて、気付けなかった。でも、今にして思えば気付くチャンスはあったんだ」
自分の悔恨を始めて口にした優姫。そしてそれを聞く愛海も、内心のざわつきを抑えられなかった。
「だから、今度は絶対助けたい。なんの因果か、またこうしてドラッグ関連なのも、神様からオレへの当てつけなのかもしれない」
微苦笑を浮かべた顔。
愛海の頭の中は混乱で埋め尽くされる。
「そ、その、撃った、刑事。わたしの、父さん……」




