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電子世界の歌姫  作者: 夜桜月霞
悲観的な歌姫
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「さぁ、さぁ、ついにお出ましだ」


 2杯目のコーヒーをすすりながら、ラヴァーは笑った。


 ニュースが目まぐるしく飛び回っている。


 やれ、政府野党の役員が日本国内にある臨時亡命政府集団自治区、通称”出島”と癒着していた。


 やれ、大手BCCメーカーが公開しているアプリケーションのいくつかにバックドアを仕込んでいた。


 やれ、@MMはマジェスタシリコンの作った電子ドラッグを拡散するために作られたものだ。


 やれ、マジェスタシリコンのトップは現副総理の親族である。つまり今回の事件は政府の陰謀だと。


 情報が錯誤し、ネット上は大荒れとなっている。


「野党のトップが緊急査問だ。与党がまさかの証人喚問とは、これは驚きだな」


 ニュースで騒がれている、野党上層部の国外へのBCC情報のリーク。これが本当であればこの先数十年、少なくとも現在のメンバーが一新されるまでは与野党が入れ替わる事はありえないだろう。


 与野党のパワーバランスが崩れてしまう強力なカードを、このタイミングで切った。

 ある意味で与党から野党への宣戦布告だが、この攻撃の落としどころはどこにあるのだろうか。まさか野党全員の総辞職など狙うにしたら、それはパワーバランスが崩れる危険がある。


「こんなことして、粛清でもするつもりか?」


 愛海の疑問に優姫も首をひねりうめいた。彼女も同じことを考えていたのだろう。このままではなく政戦ではなく、粛清になってしまう。


「そんなのは、これをひっくるめて、お前の活躍のおぜん立てだ」


 何を言ってるんだ? という顔のラヴァーに、愛海は首をかしげて何を言ってるいるんだという表情を作る。


「まあ、いい。そろそろ」


 ラヴァーが不敵な笑みを浮かべたその時、そこら中の@MMの歌声と共にゲリラライブの告知が表示され始めた。


「ほらきた」


 数時間後、繁華街の真ん中で開催を告示している。


 もちろん愛海は何も知らない。学校の時と同じ彼女を誘い出す罠だ。


「くだらない男だ。前回失敗した手段で? 今回は成功するとでも考えているのか? 学習しないやつだ。実にくだらない」


 ラヴァーは侮蔑のため息を隠す気もなく吐いて、とんとんと机を指先で叩く。


「こんなくだらない男だとは思いもしなかった。これは大きく下方修正だ」


 手元に浮かんでいたケーキのチラシに偽装された計画書が大きく表示を変えた。


「な!? ばかゆうな!」


 その内容に悲鳴を上げる愛海。


「バカなものか。一番効果的だ」


 しかしその悲鳴も、冷徹に一蹴する。


「お前は自分の無罪を勝ち取りたいんだろう? なら全力を出せ」


 無慈悲にも思える言葉だが、それが事実である以上仕方ない。この計画書にすべてをかけるほかない。


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