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目隠しが外れる。といっても背後に回った月面顔の両手が目を覆っていただけだが。
「相変わらず、狐ですね」
今まで話していた相手の顔がよぎる。年老いた保守議員ではない、老齢でも狐は狐であることに変わりはない。
『しかしその狐の首を、いつも狙われていらっしゃる笑様も大概ですが』
「あたりまえです。私は、私の正義を執行します。その邪魔をするものは、すべて潰して砕きます」
そして今はその狐も、良いように利用できている。利用する価値がある。だからパイプを作り、それを維持し、有害な獣を仁科が狩りたてている。その為お互いに必要な情報を共有し、仁科が狩りをしやすいように行政への圧力を彼が行う。そういう利益関係だ。
それは今一時的なものでしかない。今後永続的にそうあり続ける保証は、どこにもない。
普段から仁科が全幅の信頼を置いている、このエージェントも内閣総理大臣直下の人事院に所属を置いている。ただのエージェントではなく、彼女の監視役なのだ。そうなれば裏切ることもあり得る。
そうなった時の為、あらゆるトラブルに対応できる手段を常に備えておく必要がある。予想外、という単語は仁科の辞書に存在を許されていない。
一瞬だけ交わった、今はまだ信頼のおける自分のエージェントは、胡散臭い笑みを浮かべる。
『貴方は、本当に恐ろしい方だ。では、行きますか』
「ええ。進めてください」
茶番はもう終わる。終わらせる。仁科は脳内で無数のアイコンを呼び出し、作業を始めた。




