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男は嘆息し、少女の持ってきた資料を見定める。
以前から別系統の諜報要員を使って調べていた内容と、ほぼ合致する。いや、それ以上に深堀されている。武器として、相手の致命傷を確実に突けるレベルの物だ。
「ここまで調べ上げたか」
「もちろん、あらゆる罪人は見つけ出し、狩り立てます。今までも、これからも。一匹残らず」
「……君が、どれが獲物でどれが家畜かを見分けられる優秀な猟犬である内は、我々は君の良き主で、良きパートナーであろう。それだけは留意するように」
「ええ。もちろんそうします。なので、良き主のままでいてくれる事を願っています」
通信はそこで終わる。
「我々はとんでもないモノを飼ってしまったのかもしれない……」
還暦をとうに過ぎた男はヘッドギアを取り外し、背もたれに身を任せた。男の年齢ではもうBCCを埋め込むことはできない。だからネットワークに接続するためには、こうして古めかしい機械を使う必要がある。煩わしい機械の塊を机の上にぶっきら棒に置いた。
利便性と人類の新たな一歩という隠れ蓑をもって、すべての国民を交互監視させるシステムを築き上げた男が、かつていた。その右腕としてあらゆる汚れを引き受けていた男が、今やこの国の政治の代表として座している。国民の安全のためと言って、国民を監視する体制を築いた男が国家の政治指揮を執っているとは、皮肉にもほどがあると男は笑う。
老獪な狐と揶揄され、政界で覇権を極めた彼が、まさか自分の孫ほどの小娘を猟犬として使い、自分が良き主たるかを常に見定められている。そして良き主でなくなった瞬間、彼の栄華は処刑台の13階段と変わるのだろう。あの少女は彼を失脚されるに十二分な鍵を、必ず隠し持っているはずだ。
彼女の存在を知っている長い付き合いの秘書たちからは、危険だからすぐに切れとは言われている。
もし彼が自分で気付かない内に暴走を始めたとしたら、若い世代の手で断罪されるいい機会なのだとも思っている。だから頑なに彼女を使い続けていた。
彼の年齢では、BCCを搭載する事は難しい。外付けの通信端末とヘッドギアを使って同じ風景を見るのが関の山だ。旧世代を生きる彼にとって、生まれた時から情報に接続された彼女たち次世代の子供こそが、この衰退が目に見えた世界の希望なのだと思う。




