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「くそったれ……」
憎悪を隠さず、呪殺せんばかりに声を放つ。
「な、なんだよ、それ。だったら、どうゆう……」
事態を把握しきれず戸惑う愛海。
「お前ら、だったのか……」
「だったら、なんだ?」
突然全ての焦点が結ばれた優姫は、ひどく動揺したのを隠せず口から真相を確かめる問いを向けていた。
肯定ともとれる発言。優姫は動いていた。疲労と重なり、優姫の理性のストッパーが外れていた。全神経、全能力を使って走っていた。そして、
「死ね……」
身体能力の限界まで到達した最大限の加速。そしてその威力を余すことなくつぎ込んだ飛び蹴りはショッキングピンクの彼女の顔面に直撃した。
憎悪が理性のタガを外していた。
あらゆる衝撃音が鳴り響き、少女の体が吹っ飛んだ。
裕に10メートルは飛び、力なく転がった頃には手足はあらぬ方向へ曲がり、顔面は陥没し後頭部が裂け中身をまき散らせていた。
「はぁ……、はぁ……」
その場に膝をついた優姫は、すでに冷静さを取り戻していた。
視線の先には、力なく伏せた少女の遺体。
改めて自分が今行った行為に、顔を青ざめさせていた。
「やはり彼女が”中継”でしたね。動きが止まりました」
その場でドラッグに支配されていた彼らは倒れて動かなくなっていた。仁科はもう一度拳銃を抜き、周囲を警戒する。
「オレ……、今……」
「もうすぐ応援が来ます。まだ伏兵がいるかもしれません。警戒を」
厳しい口調の仁科。伏兵の可能性を聞き、さっと立ち上がった。
「まだ、終わってない……ッ」
それから間もなく、警察が駆けつけた。
そして彼らに仁科は慣れた様子で自分の身分を明かし、愛海と優姫を護送するといって、パトカーを一台貸切って現場を離れた。
「事情は私から話しておきます。ひとまず、私のセーフハウスへ行きます」
『アイ・メム。超特急で向かいます。皆様、シートベルトをしっかりしめてくださいねぇ』
仁科のエージェントが、右前の席についてへたくそな落書きのハンドルをもって無意味に運転手のまねごとをする。
走り出したパトカーは明らかに法定速度を超えているが、緊急車両特権を行使しているのだろう。ほかの車はよけていた。
無言の車内。伺うように、気遣う愛海が優姫を見ていたが彼女は一言も話さなかった。
一行を乗せた車は都心部から離れ、半世紀近く前からベッドタウンとして発展してきた某地に向かっていた。
その中で比較的に築年数の新しいマンションの前に車を停めると、そそくさと降り立つ。それにふらふらと足元のおぼつかない優姫とそれを支える愛海が続いた。
エントランスを抜けエレベーターホールへ。自動で到着した箱に乗り込み、目的の中層階へと昇った。
「とにかく、体を洗ってください」
あらかじめ用意していた浴室へ向かう為、優姫を脱衣所へ押し込む。
「お、おい……」
まだ顔が青い愛海が、気遣うように優姫の顔を見上げた。
「あ、だ、大丈夫っ。うん、大丈夫だから」
引きつった笑みで答え、優姫は自分の足で浴室へと向かう。
ドアを閉め、その向こうをまだ見つめた愛海。




