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「お、あれかわいいじゃん。愛海着てみなよ」
アニメーションキャラクターが着用して、街中で愛想を振りまいている。それも衣装の広告だ。それを指さして優姫はぜひにと目を輝かせて愛海を見る。
「ぜったいやだ」
「えー。似合うからさ! ほら!」
優姫はアニメキャラを抱き寄せほらほらと愛海の前に見せつける。
露骨にいやそうな顔で首を横に振る。それであきらめたのか、唇を尖らせてアニメキャラを解放する。
「あ! これ! 仁科、着てみなよ!」
そういって今度は別のモデルを引き寄せ、仁科に見せる。
「楽しそうですね」
「え、楽しいよ」
さも当然と言い放ち、苦笑する仁科にほらほらと衣装を見せる。
「あなたは人を着せ替え人形だと思っていませんか?」
「かわいい女の子にかわいい服を着せるのは、全人類の使命だからさ」
「そうですか……」
嘆息して肩をすくめる仁科。
それに構わないと二人の手を取り、破顔して歩き出した。
「そうだ! 新しいゲーム出てた! 楽しそうなやつ!」
すでに優姫の眼には目の前の娯楽しか見えていないようだった。
その態度に肩をすくめた愛海は、横目で仁科を見る。携帯端末を見る顔がわずかに驚いているように見えた。
「なにか、あったのか?」
尋ねると、仁科は画面を愛海へ見せてきた。
それを見ると、画面いっぱいに数字が敷き詰められていた。黒地に緑の文字が走り、さらにそれが常に動き続けている。人語では到底理解できないそれを、愛海はすぐに合点が行った。
「うわ、きもちわるっ!」
つぶやく愛海。画面の内容は優姫が周囲のネットワークへのアクセスを示すものだった。
何重にも偽装を施しているため、一見でも優姫がそうしているようにはわからない。彼女が”仕掛けている”と頭で前提条件を持っておかなければ気付かないレベルの偽装だ。
隠蔽されて構築された情報網は、エージェントにエージェントを使わせ、自分が直接手を出さないでも情報が集まるようになっている。その自然すぎる犯行に、思わず顔をしかめて優姫を見る。
「ほらほら! あれ! 楽しそうだ!」
ただ遊んでいるわけではなさそうだ。
肩をすくめ、ため息をついて彼女に連れていかれる。




