51
もちろん個人スペースへの不正アクセスは、完全なる犯罪だ。そして仁科はそういった電子犯罪を特権捜査する専門家である。
一瞬ぎくりと肩を震わせた彼女だが、その程度で好奇心を消せるようであれば、中央犯罪捜査局の捜査対象リストの上位に名を連ねたりはしない。
偽装工作等、あらゆる自分の悪事を隠す手段を行った上でもう一度ハッキングを仕掛ける。
「こら」
「ふへ!?」
突然降って湧いた声に、愛海は飛び上がりながらも防衛線を張った。
「まーた、そうやって」
呆れるような声は、優姫だ。どこにいるのかと見回すと、茫然となった。
巨大な忍者、優姫のアバターの手のひらに乗っていた。まるで西遊記の孫悟空のようだ。
「いたずら子猫。聞きたい事あるなら、直接聞きなよ」
微苦笑の声と共に、優姫は愛海を放り投げた。
「ひ、ぐっ……!?」
現実へと強制送還された。
テーブルには食事が並んでいた。
「自分で調べるのもいいけど、人に聞くのも時には手っ取り早くて安全な事の方が多いから」
テーブルについた優姫はふうと息を吐いた。
「ま、とにかく一回ごはん食べて。話し、その後で」
目を細めて愛海を見やった優姫。好奇心を隠せないが、有無を言わせない雰囲気を感じ取って手を合わせた。
「……いただきます」
「いただきます」
「たくさん食べて」
黙々と、それでも優姫が腕を振るった食事に頬を緩めて食べる。それを至福だという顔で見つめる。
そして食事は終わり、少し食べすぎた二人は息をついてこっそり腰回りを緩めた。その様子を見てよしよしと満足げな表情で優姫はテーブルを片付けた。
テーブルには食後のお茶が並び、それぞれ一息ついた。
「そうだ。教えろよ」
好奇心を隠しもせず、愛海が言う。
それにはあとため息を一つ。頭をかきながら優姫が答えた。
「親父は研究員で帰ってくることはほとんどない。母親はいない。オレも一人だから、ここには基本オレしかいない」
事も無げにそう告げて、紅茶をすすった。
顔を少しぶ然とさせた愛海。刺激された好奇心をなだめてくれるほど、大きな秘密ではなかった。それで一気に白けてしまった愛海は紅茶をすすり、思考の片隅をネットに潜らせた。
「あ、そうだ。明日なんだけどさ」
優姫はフェイストップのウインドウを表示させて、二人に見せた。画面には町の地図が表示されている。
「どうせ学校休みだし、遊びに、街で調査に行かない?」
「今完全に遊びにって言いましたね」
聞き逃さないと言わんばかりに仁科が言及してくるが、どこ吹く風と話を続ける。
「ほら、街なら情報量が多いし。学校って伝手がなくなった今、他にあてもないし」
こくっと小首をかしげた仁科は、花のような笑みを浮かべた。
「そんなぼろぼろのプレゼンで、私を落とせると思いましたか?」
辛辣な一撃。表示された地図情報に大きくNG 再提出の事と表示された。それでも優姫はひるまなかった。
「いやいや、考えてもみなよ。@MMは今や時代の歌姫だよ? ネットサイドだけじゃなくて、リアルでも攻めないと。それに今は時間がない。打てる手は一つでも打っておかないと」
ほらほらと言いながらも優姫は即興でテロップを作って、再提出と表示された仁科のフェイストップに上書き表示させた。
そこにはどれだけ有用で、部屋にこもっての情報収集がどれだけ非効率かをいつの間にか作ったのか、よくわかる数字データでしるされていた。
それを見て仁科は微苦笑し、ため息を吐いた。
「……わかりました。それでは12時間、好きに外へ出て調査を進めてください」
「よっし!」
「あくまで調査ですからね。それを忘れてもらっては困ります」
「じゃあ、アンタも一緒に来ればいいだろ。そこまで言うなら監視でもすればいい」
「……は?」
何かよからぬことを考えているのだろう。優姫はにっと不敵な笑みを浮かべていた。




