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警察署から出た二人は思わず身震いした。
わずか数日中で二回目となるこの警察署だが、今回は前回のような冷遇はされなかった。
その代わり現在時刻は午前二時となっていたる。
環境適合服の暖房機能があったとしても、夏の熱気に一度馴れた体は徐々に冷え込み始める10月の冷気は冷たく厳しい。
「さっむい! さむい!」
身を寄せて縮める愛海。それを微笑《鼻の下を伸ばし》みながら見つめる優姫。
「こんな時間、補導されるんじゃないか?」
そもそも未成年者の夜間外出は、この国では一世紀近くも禁止されている。
「そうだね。普通ならこんな時間に未成年者を解放しない。ってか普通なら保護者が迎えに来ないと釈放されない」
「妙に詳しいな。経験あるのか?」
にやりといたずらな笑みを浮かべた愛海に、ははと乾いた笑いを返した優姫は、よどみなく周囲を見渡した。それとなく愛海を抱き寄せ、ソードダンサーの起動スイッチをいつでも押せるように気構えた。
不審に思った愛海だが、体温が恋しくてそのまま抵抗はしなかった。
横を走る国道は、時間柄交通はない。
歩行者も当然少ない。
彼女たちが生まれる前、数十年も前では夜中でも交通は多く、人通りは夜でもあった。しかしこの二十年で起きた大きな変異によって人口は瞬く間に目減りした。
日が沈み、暗くなれば同時に人もほとんどが家に帰る。ルーティンワークが少なくなった現代において、残業はもはや死語に近い。あったとすればそれはネットワークを維持するための通信会社の社員くらいであり、彼らは自宅で作業することがほとんどだ。会社に出勤するという非効率な事はしない。
そこに背後から車が近づいてきた。
ライトに目を細めながら優姫は振り向いて、臨戦態勢へ移行しようとしてやめた。
「補導されます。ご自宅までお送りします」
窓から仁科が顔を出した。今日は手動運転車であれば助手席にあたる座席に座っていた。右前の席にはへたくそな落書きのハンドルを握りしめた月面顔がチラチラと二人をうかがっている。
「はは、そこの可愛いお嬢さん。ちょっとドライブにお付き合いいただけませんか!? 夜景の素晴らしいホテルを取ってあるのですが」
「未成年者の拉致監禁は重罪ですよ? 世界初のAIの逮捕者になりたいですか?」
侮蔑の目を一瞬だけ自分のエージェントへ向け、すぐに心の底から微笑んでいるように見える顔を作り二人に向けた。
「どうぞ」
「……失礼します」
ガードレールを跨いで車線へ出ると、車のドアは自動的に開いた。中から体の芯を紐解くような暖気が愛海の頬を撫でた。そうとわかるといそいそと車内へ乗り込む。
「ほ……」
「愛海、寒いの苦手だね」
寒さに震えていた愛海の体が、車内の暖気を得てほっと緩む。それを見て微苦笑を浮かべる優姫がつぶやくと、怪訝な表情を浮かべた愛海が見据えた。
「寒いの平気なんて、おまえは頭おかしい」
辛辣な愛海の言い様だが、優姫はははと笑みを浮かべた。その程度、優姫からすれば子猫がけなげに威嚇してきた程度で、むしろ可愛げがあるとすら思えた。
優姫が乗り込むと、ドアは閉まり車内空調が二人のために温度を調整する。
車は自動で走り出し、優姫の自宅へと向かった。
「そうだ、あんた」
「……はい?」
呼ぶべきか悩んだ末に、優姫は粗雑に仁科を呼んだ。




