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「えげつねぇ。ってか、お前、本当に人間じゃねえぇ」
つぶやく綿貫。その視線の先では、綿貫ですら目で追うのがやっとの速度で走りながら3人を蹴散らす優姫がいた。
中央放送室は、今4人がいる2号校舎と渡り廊下でつながる本校舎にある。距離にすれば100メートル程度だが、今はその100メートルをまともに走り切れない。
暴徒と化した生徒を数人飛ばし、何とか辿りついた。
放送室に立てこもる。この学校では数少ないアナログキーが中央放送室にはあるため、クラッキングされて侵入されることはないだろう。
一息つき、優姫は学校のサーバーへ侵入を試みる。
綿貫は緊張と走りすぎで顔が青い2人を椅子に座らせた。
「……ダメだ。止めても止めても、切りがない! ここ封鎖するので手一杯だ!」
「なんだ、いきなり弱音か?」
「バカ言え。相手は1000人の超並列コンピュータだぞ? オレひとりでどうにかなるか」
そうは言いながらも、優姫は目まぐるしくパターンを変えて攻撃を繰り返し、一秒でも長く曲を止められないか試行錯誤を繰り返す。
「てかよー。なんなんだ? いくらハイになるっても、様子がおかしくないか?」
何の気なしに呟いた綿貫。それに過剰に反応する愛海と優姫。
「ハイになってるだけじゃない」
優姫が呻くように答えた。
「あン? 他にも、何か知ってんのか?」
睨む。その目線から外れるように、優姫は顔をうつ向かせる。
「さっき話したドラッグには、BCCを狂わせて、人を操る能力もある、らしい」
「はぁ?」
ドアが強く叩かれる音が聞こえた。完全防音になっているため音は聞こえない、物理的な衝撃は防ぎようがない。外で生徒たちが暴れているのだ。
「BCCを悪用すれば、そんな事造作もない」
「なら、早く止めないとな……」
綿貫は画面を呼び出し、自分のBCC処理領域を空けた。
「葛城に比べたら、なんの役にたたんだろーけど、いちお好きに使いな」
綿貫は自分のBCC処理領域の殆どを優姫に明け渡した。それと同時に制服が動きやすそうなトレーナー姿に変わる。余剰分をすべて停止したため、彼女のホロディスプレイが消えたのだ。
「助かる……」
「ま、見返りは覚悟してもらおう!」
にっと不敵な笑みを浮かべて、ドアを背に座り込む。
そして優姫は、電子世界に没頭した。
学園中に広がる無数のネットワーク。
いくつもの個室に別れたそれは、現実世界の学園と類似している。
各教室に繋がる回線から、太いものを選りすぐり、優姫は鎖鎌を投げ、切り落とした。
しかしその瞬間に断面から巨大スライムが滲み出て、新しい回線へと姿を変えて繋がっていく。
「この、くそ!」
切っては新しく繋がり、切り落としては繋がり、何度もくりかえした。
「正規法じゃ、話にならないか」
呟き、優姫は巻物を取り出す。
「分身の術」
巻物を投げ広げると、プログラムコードが走り出す。
優姫の陰から無数の分身が踊り出し、それぞれネットワークの切断を試み始める。




