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優姫が走り出した。その行く手を阻もうとする生徒を、綿貫が力任せに押し飛ばした。
勇猛果敢な者が、ただの学生の中にいるはずがない。生徒たちは恐怖のままに道を作る。
公会堂を飛び出し、三人は昇降口から校舎に飛び込んだ。
何人か追いかける生徒がいたが、なりふり構わない快走をする優姫と綿貫の2人に追いつけるはずもなくすぐに離れた。
幸いにも公会堂にほぼすべての生徒が集まっていたおかげで、校舎の中は誰もいなかった。
-とにかく逃げないと。-
愛海を抱いたまま走り続ける事もできない。目的もわからないまま走り続けるのも無謀だ。
「あそこ!」
綿貫が指さした先には、科学準備室があった。優姫は即座にドアキーにクラッキング、開錠する。
準備室に飛び込むと同時に、学校の電子錠システムにハッキングし校内の施錠システムを暗号封鎖した。
「これでひとまず、時間は稼げ……」
本来ならば、これで学生相手なら十二分すぎる捕縛になる。そのはずが、公会堂の施錠が解けていた。
「嘘だろ……」
「なんだ? ってか、なんだ。どうして、どうなってる!?」
綿貫は決して声は張らず、ぎりぎりの理性が音量を抑えさせているのだろう。年齢からすれば、尋常ではない精神力だ。
「順を追って話す。茶々、入れんなよ」
優姫は苦虫を噛むような顔で、事の顛末を早足に綿貫へ説明した。
とても穏やかではない愛海は終始顔を俯かせていた。
「うーん。なるほど……」
話しを聞き終えた綿貫は腕組みして、首を傾げた。顔は深く思案するようにしかめていた。
「で、どうする?」
優姫の問は、今ここで何もせず残るか、事の解決に協力するかを聞くものだ。
そして綿貫は、突然ニッと笑った。
「OK。とりあえず、どうする? 首都圏主席さま」
「いいのか? タダじゃすまないかもしれないぞ?」
腰に手を添えた優姫が、声のトーンを落とした。
「ハん。こんな状況を、このアタシがホっておけるとでも?」
挑発的な笑みを浮かべた彼女に、優姫は不敵な笑みを返した。
「まず……」
「あ、あの……」
突然の声に、三人は弾かれるように部屋の奥をにらんだ。
そこには見覚えのない少女が1人、所在なさそうに立ちすくんでいた。
まさか3人が3人、誰も今まで気付かなかった。どれだけ動揺していたのか、優姫だけは内心で自分の失態に嫌気を覚えた。
優姫が口を開きかけた瞬間、少女はぱっと両手で自分の耳をふさいだ。
「な、ななな、なにも、何も聞いて、ませんからね! そ、それじゃ」
綿貫の横を抜けて部屋を出ようとする少女。その手を綿貫がしっかりつかんだ。
「悪いんだけどさー。ちょぉと、ここにいてもらえないかなぁ。アタシらが、颯爽と事件解決するまでの間でいいからさぁ?」
にんまりと人を食ったような笑みの彼女は、異様なほどすごみがあった。
案の定ひっと短い悲鳴を漏らす少女。その場で腰を抜かしかねない。
「で、どうする?」
しっかりと少女を逃がさないようにしながら、綿貫がもう一度たずねた。




