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「ご飯とお味噌汁はたくさんあるからね。いくらでもお代わりしてよ」
その量に一瞬気後れしたが、すぐに鼻腔を刺激した香りに、愛海と仁科はごくと生唾を飲んだ。
全員席に着き、手を合わせる。
「いただきます」
「たんとお食べー」
優姫の言葉を聞かず、2人は待ちわびていたと箸を手に夕食を食らいついた。
唐揚げですら、瞬く間に量を減らした。
「すみません」
「ん?」
黙々と進んでいた食事が止まった。顔を上げた優姫に向けて、仁科が空になったお茶碗をわずかに掲げて見せて来た。
「おかわりを、頂けないでしょうか……」
その顔が、少しだけ恥じるように、微苦笑を浮かべていた。
「おっけー、オーケー。たくさん食べて」
それに反して嬉しそうに優姫は頷いて、仁科のお茶碗に同じ量のご飯を盛って返す。
「わ、わたしも……」
それに続いて愛海もお茶碗を差し出す。
「いいよー。どんどん食べて」
幸福感漂う笑顔の優姫には、特に誰も言及せず、ただ黙々と目の前の食事を貪った。
そして食事は終わり、揃って手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さま」
満面の笑みを浮かべた優姫は、幸福感を漂わせながらほとんどきれいになった皿を、並べた時と同じようにテキパキ片付け始めた。
そして使った皿をもってキッチンへ消え、すぐに戻ってきた。その手には人数分の適温に温められたティーカップとティーポットがあった。
「はい、どーぞ」
とカップに紅茶を注ぎ、それぞれの前に置いて並べた。
「あなたは普段から、このような事をしているのですか?」
仁科がにこりと笑みを浮かべて訊ねると、優姫はどのような? と聞き返した。
「女性に食事を振る舞ったり、親切を大安売りしたりです」
仁科の言い分に優姫は何を言っているのか分からないといった表情をして返す。
「女の子にご飯をふるまうのは、至上命題だ。おいしそうにご飯を食べる女の子の顔を見るのは幸せな気分になれるし、世界が平和になるための第一歩だ」
つまりは全人類の義務と付け加える優姫に、仁科は苦笑を浮かべて肩をすくめる。
そこから無言で、それでも穏やかな雰囲気になり、10分ほど時間が流れた。
「そろそろ戻ります。美味しい食事をありがとうございます」
突然仁科は立ち上がりもう一度お辞儀をすると、今度こそ部屋を出る。
「駅まで送る。ちょっと待って」
「大丈夫です。私、公安関係者ですよ?」
「女の子に違いない」
さも当然と言われ、一瞬だけ、仁科は呆気にとられた。そして視線をわずかに反らす。
「……タクシーを呼んであります。大丈夫です」
「そう? なら、気をつけて」
玄関でそんなやり取りをして、それから居間からこっそり様子を伺っている愛海を一瞬見て、微笑を浮かべた。
「あなたには期待をしています。是非、真実へ歩み寄ってください」
「え、あ、はい……」
突然振られた言葉に、驚いて答えた愛海は、無意識にぴんと背筋を伸ばした。
「それでは、愛海さま、優姫さま。お邪魔いたしました。是非また。今度はわたくしオススメのレストランでも」
「それでは、失礼します」
最後に飛び出してきたジュ・トゥ・ヴを押しやりながら仁科は玄関をくぐって行った。
「今度来るときは、ちゃんと事前に教えてくれよ」
「善処します」
パタンとドアが閉じた。
「ふう……」




