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電子世界の歌姫  作者: 夜桜月霞
悲観的な歌姫
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 そしてついに最後の一本となった。それに手を伸ばした瞬間、愛海の通信が強制的にシャットダウンさせられた。


 何が起きたのか分からず、瞠目する愛海。全てが情報に置き換えられ飽和していた世界が、現実の質量がある世界へ強制的に置き換えられた。


 目の前で、小さく音を立てる携帯端末を操作する仁科。


「ここまでたどり着けたのは、あなたで3人目です」


 彼女の冷淡な声を聞いて、愛海はやっと自分が何をしていたのか思い出す。


 仁科は規制委員会の捜査官で、ジュ・トゥ・ヴは彼女の私設エージェントである。


 まずい。


 何か言い訳をしようと思ったが、言い訳が通じる内容ではなかった。完全無欠な電子犯罪である。誤魔化し切れるはずがない。強制停止から即座に復帰した愛海のBCC通信は、自動始動する保護プログラムによって、すべての危険データを暗号化して細分化し、日本中の貸し領域に分配した。


「ええ、と。その……」


「なるほど、前から怪しいと思っていました。3つの代理演算会社を使って、危険情報を日本中のレンタルサーバー化したBCCに分散している訳ですね。その資金は、なるほど世界中の大手企業ですか」


 ばれている。これだけでも数十年の懲役刑が確定する内容だ。にこりと微笑む仁科の顔を見て、愛海は小さく悲鳴を漏らした。


 言い訳はできない。それでも目を合わせない彼女に何か言い繕うと視線をさまよわせた。


電子世界バーチャルワールドは、好きですか?」


「……え?」


 なにか自己弁護する方法はないかと、少ない語彙から良いものを探していた愛海は、突然の問に思わず手を止めた。


 なにか揺さぶりをかけているのか。表情のない仁科の顔からは、なにを狙っているのか読み取る事が出来ない。


 たっぷり5秒は悩み、愛海は小さく頷いた。


「そうですか」


 それで仁科はまた黙り込み、携帯端末を操作する。


「愛海は今度はどんな悪さしたの?」


 キッチンから出てきた優姫が、気まずい雰囲気の現状に首を傾げた。


 それに額の汗を袖で拭っていたジュ・トゥ・ヴが答えた。


「愛海さまのおいたに、某性格の悪い仁科さまがネットが好きか問いただしたのですよ」


 おーこわいこわい、と呟くジュ・トゥ・ヴを細めた横目で見やる仁科。


 その説明でなんとなく察しがついた優姫は、テーブルに夕食を並べながら愛海を見た。


「愛海はネット好きなんだ?」


 優姫には愛海がそう答えるであろうと、予想が付いていた。


 俯き加減の彼女は、小さく首を縦に振る。


「なんで?」


 もう一度優姫が質問すると、眉根を寄せ目を左右に泳がせた。


 その質問に仁科も興味を示したのか、携帯端末から顔を上げて愛海を見据えた。


 視線が集まり、言い逃れできる状況ではなくなった。愛海は気恥ずかしさを覚えながらも、言葉を選んだ。


電子世界こっちには、なんでもある。海みたいに広くて、空みたいにどこまでも続いてる。そこを飛び回るのが、好き、なんだけど……」


 ちらりと上目遣いに2人の反応を伺う愛海は、気恥ずかしさで真っ赤になっていた。


 それを至って真面目に聞く2人は一度頷いた。


「海を愛するで愛海だもんねー。探検家気質なのかも」


「違法行為も多々見て取れますが」


「嗚呼、浪漫! 人とは浪漫を求め、大海原を彷徨う旅人成! 魂の侭に、風の侭に!」


 あははと海賊衣装にカトラスを振り回す月面顏を無視し、優姫は笑みを浮かべてテーブルに料理を並べた。


「さ、愛海の気持ちも知れたし、ご飯にしよう。お腹空いて倒れそうだ!」


 昨日にも増して、今日の夕食は豪勢だった。


 炊きたての白いご飯、豆腐と海苔のお味噌汁、デミグラスソースをかけた手のひらサイズハンバーグと温野菜、山盛りの唐揚げ。3人で食べきる量ではないが、残ったら残ったで後日別のものに作り替える事ができるので気にしない。

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