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夕日はすでに沈み、深い青紫と黒が空にコントラストを作っていた。
並んで歩く愛海と優姫。方や仏頂面で方や満足そうな顔でと反対の表情だった。
「さすがはアイドル。良く似合ってる」
優姫はパッと一枚の写真を表示させた。
その瞬間、顔を真っ赤にさせながら、怒髪天のような憤怒の表情を作って見せた。
それにはまずいと分かったのか、画像はすぐに消して顔をそらす。
それから数分歩き、愛海は突然優姫の家へ向かう道を外れるように、突然曲がった。
「ちょい!」
肩を掴んで止める優姫。なんだよと顔をしかめる愛海。
「どこいくの?」
「家に帰るんだよ。ほか、なにがある?」
「え? でも家は……」
こっとだと優姫は自分の家を指す。
「自分のだよ!」
犬歯を剥いて褐と声を上げる愛海。しかし優姫はいやいやと首を横に振った。
「それは困る! 愛海、家に帰っても何も食べないでしょう?」
なぜか必死な優姫を怪訝に思い眉根を寄せると、彼女はさらに続けた。
「年頃の女の子にそんな不摂生させるわけにはいかない。うちでご飯食べよう。いくらでも作って上げる」
強く惹かれるものはある。しかし優姫の変態性はさきほど確実なものになった。身の危険を感じないわけではない。
警戒心をむき出しにさせながらも、食欲が抑えきれず抵抗を止めてしまった。
異様なやる気を出した優姫に連れられて、近くの商店街へ向かった。
「おーい! 優姫ちゃーん! いいの揃ってるよー!」
「ユーちゃーん! お野菜食べてるのー? お肉ばっかりじゃ体によくないよー!」
「安くしてくれるなら買うよー。食べてるからね! 野菜!」
まるで著名人が歩いているかのように、商店の店主達が次々と声をかけてきた。それに優姫は明るく快活に返事を返していく。
「リアル王子……」
およそ商店街のほとんどが顔見知りなのだろう。気付けば必ずと言っていいほど声をかけられる。現実にもこんな人物がいるのかと我が目と耳を疑う愛海。まるでおとぎ話の王子様そのものだ。
そんな事とはつゆ知らず、優姫は目的のものを買い込んだ。途中の肉屋でおまけだといってコロッケを貰い、それを二人揃って頬張りながら帰る。
自宅のマンションに着き、玄関をくぐる。そこには、見知らぬパンプスが綺麗に揃えて置かれていた。
誰かいる。
2人の警戒心が一気に最大値まで膨れ上がった。
優姫は家の中の電子機器全てを駆使して情報を集めるが、何も情報が出てこない。
ソードダンサーを起動し、愛海に合図をするまで玄関にいるように指示を出す。
頷く愛海を見て、優姫は20倍速で動き始めた。
玄関から続く廊下から入れる扉を、順繰りに開けていく。
そして最後のひとつ、居間のドアを開けた瞬間ふわりと紅茶のいい香りが広がった。
「予定が早く片付いたので、お邪魔させていただきました。粗茶ですが、どうぞ」
仁科がいた。




