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電子世界の歌姫  作者: 夜桜月霞
悲観的な歌姫
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「綿貫さんはなにやったの?」


 綿貫を待っすぐに見据えた愛海は小首を傾げて尋ねた。それに綿貫は非常に言いにくそうに、頬をわずかに羞恥心で赤くさせながら、パリスと短く答えた。


「これな」


 優姫が綿貫の写る写真を表示させた。この場で反撃を見送るほど、優姫はお人よしではない。にやりと不敵で挑発的な笑みを浮かべて、次々とその証拠写真を表示させて愛海に見せていく。


「うわ! やめ!」


 金髪の美少女と並んで写る綿貫が演じるパリス。許嫁として紹介されるパリスは一目でジュリエットに恋をし、彼女の気を引くために必死に詩を歌い、プレゼントやデートの誘いをするのだが、そのことごとくが心ここに在らずなジュリエットには届かない。その健気さを演じ切る綿貫もまた素晴らしく、3人の演技力は総じてとても高い。もはや学芸会のレベルとは信じられないものだった。


 背景に映る舞台の建物も、並々ならぬ熱意で作り込まれたであろう見事なものだ。まさに映画の中の一幕というほかない。おそらくクラス総出でイメージに合う画像を集め、優姫がデータに起こしてクラスメイト達が分担してホロディスプレイで表示したのだ。


「綿貫もなかなか評判良かったんだよ」


 にやりと笑みを浮かべながら、次々と画像を表示させた。


「ちょい! やめい!」


 綿貫は写真を消すために、電子戦攻撃で火の玉を撃ち出した。しかし優姫の電子戦防備になすすべなく鎮火させられ、写真は表示されていく。


 最終手段と、綿貫は手で叩いて消し去ろうとしたが、もちろん意味はない。むしろ画像の中に仕込まれたプログラムによって彼女の制服が、写真の中衣装に変更された。


「ほら、よく似合う」


 一瞬気付かなかった綿貫は、袖口から生えるレースのひだを見て愕然となる。そして順繰りに体を触り、恐る恐る視線を自分の体を見て、少女らしからぬ悲鳴をあげて、優姫に飛びついた。


「な、直せ! 今すぐ! なにすんだよ! これ!」


 顔を赤く染めた綿貫を、優姫はけたけた楽しそうに笑っている。


「よく似合ってるよ。しばらくその格好でいれば?」


 恨めしやと睨む綿貫を見て、愛海は優姫にメッセージを飛ばした。優姫は注意せずそのメッセージを閲覧する。その瞬間、優姫の制服は写真の中のロミオの衣装へと変わった。


「よく似合ってる」


 愛海の言葉に、優姫は赤面して額に手を当て天を仰ぎ見た。愛海の仕掛けたメールボムに見事に引っかかったのだ。


「ふたりとも、そのままでいいじゃん」


 それがいいとにっこりと笑みを浮かべた愛海に言われてしまい、やむなく2人揃って歌劇の衣装で歩くことになった。途中で何人もの生徒に写真を撮られていた。きゃっきゃと黄色い声を上げる少女たちが写真を撮るようなジェスチャーを何度も、代わる代わるとっていく。


 BCCの普及と共に、写真機も大きく廃れた。特定のジェスチャーを取ればBCCは使用者が見る風景を保存できるためだ。


 そして目的の図書室に到着し、中に入ると少なからず視線を集めた。当然ながらたまたま近くにいた教師が慌てて近づいてくる。


「君たち。その格好は」


「好きでやっているとでも……?」


「遊びじゃないんですよ?」


 ぎろりと一睨み。押し殺した声で言い返した。


「あ、はい。すみませんでした……」


 優姫と綿貫の迫力に負けた教師は、頭を下げてその場を去った。


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