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「やー、やっぱり女の子はいいねぇ。小動物みたいでかわいいわぁ」
廊下へ出た綿貫が、よしよしと愛海の頭を撫でながらつぶやいた。
「いや、何してんだよ」
ぺしと軽く優姫が綿貫の手を叩くと、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「おやぁ? 嫉妬ですかぁ? お見苦しいですねぇ?」
「はぁあッ!? なんだそれッ!?」
そう言いながら、綿貫は愛海の肩に腕を回して引き寄せる。その顔には人を小馬鹿にするような笑みがあった。
「ほらほら、愛海たん。見てごらん、嫉妬に狂った野獣の姿を」
「だーかーらーッ!」
顔を赤く染めた優姫は一歩踏み出した。それを白々しく半歩引いて見せた。
怒りにわななく優姫を勝ち誇った顔で見返す綿貫は、愛海を抱く腕が徐々に下がっていく。それに愛海が首をかしげて綿貫の顔を見上げた。
「こら。そこまで」
そこで今度は優姫が愛海に腕を回して引き寄せた。
「とりあえず手離せよ、痴漢女」
「んぅ? 痴漢はどっちでしょーかー?」
にやりと笑みを浮かべ、画像を呼び出した。
「前科持ちはつらいですなぁ」
そう言って呼び出されたのは、両手に女子を抱きかかえた優姫の姿。一体どういう状況なのだろうかと愛海が首をかしげて覗き見ていると、いやいやと優姫は首を振った。
「それはなんでもないから! それを言うなら綿貫だって」
呼び出された画像には、体操着を着た綿貫が女子を背後から抱きしめている写真だった。
「それは!? いや、そんなのはなんでもないね!」
綿貫側の写真が別のものに変わった。今より少し幼い優姫が映る写真で、どう見ても女子と唇を重ねているように見える。何かの演劇の最中のようだ。
写真の中の優姫は、水色のコートにレースが付いたシャツと着ていた。髪の毛はぴったりとした横分けにして、さらに貴公子然とした装いである。
その写真を見た瞬間、優姫はカッと耳まで赤く染めて唇を戦慄かせた。
「そ、そんなもの! まだもってたのかよ! 消せ!」
「やだよー」
また別の写真が表示される。今度は同じ演目の別のシーンだろう。金髪の美少女と抱き合っている。おそらく自らの悲劇と永遠の愛を語らっているのだろう。
「ほらー。よく見て愛海たん。ケシカランだろぅ?」
それ以外にも何枚か表示される。演目はロミオとジュリエットのようだ。
「こいつ原作にないんだけど、アコギで弾き語りとかしたんだぜ」
綿貫は笑いながら、その瞬間の動画を表示する。
貧相な格好をした優姫が、街中でアコースティックギターで弾語り、それをワンピースを着た金髪の少女が眺めていた。ギターの腕前は明らかに中学生の域を脱している見事なもので、録画を見ているだけでも、愛海は思わずリズムに合わせて過去の優姫と共に歌を紡ぎたくなった。
一点残念なのが優姫の、歌の方はそこまで上手くなく、2分もないシーンだったが金髪の少女が苦笑を浮かべながらあなた歌はイマイチね、とカナリアのような澄んだ声で指摘されていた。
どうやらロミオとジュリエットの出会いのシーンをアレンジしたのだろう。脚本を描いた人物のセンスに愛海は心中で喝采した。
「かっこいい」
舞台の美術はホロディスプレイを活用しているため、まるで映画のワンシーンのような見栄えだった。ましてロミオを演じるのは優姫だ。役者として申し分ない。
過去の映像を見て、愛海は思わずつぶやいていた。
「そうそう。かっこい、え?」
頷いた綿貫は首をかしげる。てっきり一緒になって茶化してくれると思っていた綿貫は、心の底から感心する愛海を見て、自分が墓穴を掘ったことにすぐ気づいた。




