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ドタバタと忙しい午前を終えて、正午となった。
悔しそうな優姫と共に愛海は3カ所ある食堂のひとつへ向かっていた。
「明日はちゃんと作る。明日はちゃんとお弁当用意するから……」
とてつもなく悔しそうな優姫は本日4度目となるセリフをつぶやいた。
「べつにいいじゃん。食堂もおいしいけど?」
確かに優姫の手料理は美味しい。今のままでも十分料理人として働きに行けると愛海は思っているほどだ。だがそう毎回作るのは面倒なはずだ。なら学食で済ませてもいいと言っているのだが、優姫は決して納得しない。愛海の言葉にいやいやと首を振る。
へんなのと呟いて、愛海たちは食堂に入った。
短い昼休みを最大限活用するために、大急ぎで昼食を摂り出て行く男子生徒。他にはテーブルを友人と囲んで談笑に耽る少女たち。
喧騒と言っていい室内の賑やかさは、歳若い者の特徴である甲高いもので余計頭に響く。
二人が適当な席を探していると、突然おーいと声が飛んできた。
「こっちこっちー! ふたつあいてるぞー!」
優姫が視線を向けると、綿貫を含めた数人の女子が席を囲っていた。
「お、席確保」
優姫がつぶやき手を振った。綿貫たちのいるテーブルへ向かう。
そこへ着いて、トレイを置いた。
「随分早くからいるみたいだけど、4限なにしてたわけ?」
すでに席についていた彼女たちのトレイの上には、空の食器だけしかない。
「4時間目? ふつうの選択体育だけど」
綿貫はなに言ってるの? と顔に浮かべて、コップの水を飲み干した。それにしては食べるのが早すぎではないか、そう思ったが口には出さない。
ふたりで手を揃えていただきますをして、箸をとる。
談笑を続ける周りとは別に優姫たちは黙々と食事を続けた。
「なんだよ。なんであんなに食えるんだよ」
「不公平だよ。ちくしょう!」
しかしすぐに優姫たちに視線が集まり、彼女についての話が始まった。
優姫の今日の昼食は大盛りラーメンと大盛りチャーハン。6個1人前の餃子が2皿。すでにそのほとんどが胃袋の中だ。本当はケーキも3つほど食べたい所だったが、残念ながら売り切れていた為諦めた。その事は口にはださない。
「本当によく食うねぇ。ラグビー部の男子みたいじゃん」
綿貫が面白がってつぶやくと、意外そうな顔で優姫は彼女を見た。
「綿貫だってこれくらい食うだろ?」
「そんなに食ったら動けなくなるわ」
そんな馬鹿なと表情を変えた優姫。それを横目で見て、いやいやと首を振る愛海。
そして食事は終わり、お菓子を囲み談笑に入った。
愛海は談笑の輪に入り込むチャンスを伺っていた。先ほどの体育で、綿貫は友達に連れられてと言っていた。上手くすればライブに皆勤する人物に近づけるかもしれないと考えたのだ。
「わ、わたぬき、さん……」
会話が途切れた瞬間、愛海は思い切って声を出した。顔が赤く火照る。
「んー?」
女子の一人が持ち込んだスティック菓子を摘んでいた綿貫が、顔を向ける。その少し前に愛海は声に出さないように、BCCで優姫へメッセージを送っていた。
『綿貫さんは友達のツテでライブにいった』
「あ、その……」
「もしかして@MMの事? 前から言ってたやつ」
言葉が見つからなかった愛海に代わり優姫が助け舟を出すと、綿貫はああと声を上げて察しをつけた。
「ライブチケットね。多分今日も図書室いるかな。ちょっと聞いてみようか」
善は急げと言うように、綿貫は椅子から立ち上がった。それに習い、愛海たちも立つ。
「ちょっと図書室行ってくるわー」
「あいよ。いってらー」
「お、おかし、ありがと……」
「どーいたしましてー。また明日たべよーねー」
女子たちに見送られて、3人揃って図書室のある棟へと歩いていった。




