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すでに疲れ切り床に突っ伏した優姫を、冷めた目で愛海が見下ろした。優姫が遊ばれている間に、速やかに体操着へ着替えておいた。
スマートセルの活動期間内であれば、自動環境適応服やそれの応用で作られた体操着は洗わずとも清潔が保たれるようになっている。その為愛海の体操着は3ヶ月間ロッカーの中に放置されていたにも関わらず、新品同様だ。
「な、なんでオレばかり……」
「仕方ないじゃん。ヒーローだもの」
「く……ッ!」
「否定はしないんだ」
冷ややかに見降ろしていると、授業開始10分前という通知が来た。急いで優姫も着替えて体育館へ入った。
体育館に集まる、男女混合で42名。愛海たちのクラス、1年3組の生徒の総数だ。
その中でジャージ姿で袖まくりをした女性教師が仁王立ちするように待っていた。平均的な身丈だが、優姫同様に細く締まった体形と短い髪、よく日焼けした肌が特徴的なまだ若い教師。女子生徒からの人気は高い部類だ。
「男子はバスケでもやりましょうか。3組の男子はバスケ部多いし」
女性教師、五十嵐がそういうと、チーム表を作り生徒にBCCで送信した。
「五十嵐教師!? なんでオレが男子の中に入ってんだよ!?」
そのチーム表を見た優姫が、しっかりと明瞭に不満を声に出して叫んでいた。
「葛城くん、男子でしょ? 中身は」
「んなわけあるかッ!」
「でもねぇ。葛城くん。君、この前男子のレギュラー相手に圧勝してみせたじゃない?」
「あ、あれは……」
つい先日、愛海が逮捕された日。優姫は第二バスケ部のレギュラーメンバーを相手に補欠メンバーを引き連れて戦い、圧勝的点差を見せつけ勝利した。人間業ではないと話題になるほどだ。
そもそも葛城優姫という少女は、見た目だけでなくそのスペックだけでも常軌を逸した才を持っていた。
全国高等学校生の学力体力のどちらの試験で必ずトップに入る。スポーツにおいても陸上・球技問わずに複数のスコアホルダーでありスポーツ系の部活からは常に熱烈な勧誘がある。正しく時代の天才として多方で注目されている。もっと早い時代に生まれてきて居れば間違いなく国際競技会での活躍が期待されていたはずだ。
「女の子相手にしても楽しくないでしょう。ほら、今年の男の子なかなか粒揃いだし。楽しめるんじゃない?」
「意味わかんないから! それに女の子ときゃっきゃうふふしたいから! そっちの方が楽しいから!」
しかし男子たちはすでにやる気になっている。あの惨状を見ていない彼らは半ば伝説となっている彼女と戦えるため興奮気味だ。
はあとため息をついて、頭をガシガシと掻いた。それから簪で止めていた髪を一度ほどいてゴムで縛りなおす。
「じゃあ、勝ったら女の子ときゃっきゃうふふしますからね」
「勝ったらね。女子は、バドミントンでもやりましょ。あら、行村さんは久しぶり」
まさか覚えられていると思ってもいなかった愛海は、突然呼ばれ驚く。返答に困って小さくうなずいた。
気さくな笑みを浮かべて、五十嵐は愛海の額に指で軽くつついた。
「元気じゃなさそうね。心拍数も高いし、様子見ながらね」
教師は接触する事で生徒のバイタルを確認できる。それを見ての反応だろう。
全員で準備運動をして、男子はやる気を見せつけるように体を温めるようにさらに運動を続ける。
授業開始の本鈴が鳴ると、男子対優姫のバスケットボールの試合が始まる。
それを脇目に、体育館の半分でネットを張って分けた女子たちはバドミントンの準備を始める。




