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更衣室ではすでに何人か、女子生徒が着替えていた。
「あ! 優姫! おはよー」
「葛城さん、おはよう!」
優姫の入室に気付いた彼女たちは次々と声をかけてきた。
それに対しておはよーと軽くてもひとりひとりちゃんと返事を返す優姫。そういう細かいところが彼女のカリスマ性を際立たせている。
「あれー? だれ? 愛人?」
「また?」
次々とその横にいる愛海に視線が向く。並んで入れば当然何かしらあると感づかれる。
「愛人ってなんだよ。ちょっと休みがちだった生徒を連れてきたんだ!」
優姫はしてやったりという顔で言い放ったが、周りはああまたかと嘆息した。
「ちょ、なんだよ! その反応は!?」
予想していたのと違う反応に、動揺を隠し切れない優姫を無視して、女子は憐みの目で愛海を見た。
「疲れたら気にせず保健室いきなよ。この独善大王に付き合い続けたら過労死するからね」
「そうそう。あんま振り回されないようにね」
「う、うん」
うなずく愛海をよそに、優姫は空いているロッカーを開けた。不平を漏らしながら口を尖らせ、服を脱ぎ着替えを始める。
ツナギ型の自動環境適合服は、人類の英知の結晶ともいえるものだ。
着用者の状況を検知し、内部の温度を一定に保つ。超小型コンピューティングロボット【スマートセル】とBCCによって自律性を持ったナノカーボンチューブファイバーによって作られた、夢の技術のひとつだ。
しかし構造的に厚手となるため、運動するのには不向きだ。優姫はある程度の機能はあきらめ、運動性を優先させた生地の薄いものを愛用している。
学生やスポーツをたしなむ人々からすれば、いまだに運動専用の衣類というのは捨てがたい存在である。
体操着に着替えるため、愛海たちは周囲にホロディスプレイでカーテンを表示させ、その中で着替える。面倒に思う生徒はそのまま自動環境適応服を脱いで着替えていた。優姫はその一人だ。
「本当に、残念なくらい王子体型……」
ためらいなく下着姿となった優姫を見た女子生徒がつぶやく。
全体的に細く締まった身体は、ただ細いのではなくしっかりとした柔軟な筋肉に支えられている。手足は長く、瞬発力を生み出すのがわかる。どちらかというと大型のネコ科の動物を連想させる体形は、機能的で美しいが女性的な要素はほとんどない。
「な、なにが言いたい?」
若干顔を険しくさせた優姫だが、言いたい事は本人が一番わかっている。分かっているからこそ認めたくない。それにだが、年頃の少女が身に着けるには彼女の下着は地味で機能性の身が追及され過ぎている事も拍車をかけていた。
3名の女子生徒に取り囲まれた優姫は、代わる代わるに脇や腰回りを触られた。
「ここ、何も入ってないよきっと」
「そうだ。でなけりゃあんな沢山甘いもの食ってるのに、太らないはずがない!」
「不条理! 理不尽なり!」
女子たちの心の叫びは当然である。
世の少女たちが当日の消費カロリーから緻密な計算を行って、今食べられる甘味の量を導き出し最後の晩餐を味わうイエスのように楽しんでいるのだ。それでも優姫はそんな事を一度もしたことがない。
優姫は運動で消費するカロリーと、BCCが消費するブドウ糖によって、生半可ではない量の食事を摂る。それでも帳尻を合わせるように、消費の方を減らせるように調整したりと世の少女たちが悩む方向とは別のベクトルで悩んでいる。
ダイエットとは完全無縁なのだが、それが年頃の体形を気にする女子からすれば疎ましい。優姫からすれば基礎代謝だけで10000キロカロリーを要求する体は不便さを感じる程だが、それを理解しろというのは食欲と美容のバランスを常に天秤で差し測り続ける少女たちには難しい相談だ。
ブーイングの嵐にもみくちゃにされること5分、やっと解放された。




