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無言でバスはしばらく走る。いくつか停留所で留まって乗客の乗り降りがある。その中で二人と同じ学校に通う生徒が乗ってきた。中等部の女子生徒で、優姫に気付いて頬を赤らめて遠巻きに優姫が乗っていると話している。
「人気者だな」
横目でそれを確認した愛海。それに苦笑を浮かべた優姫。
「まあ、ね」
どこか自嘲の色が浮かんだ顔に、愛海は首を傾げた。
「なにか、あったのか?」
愛海から見れば、誰からも好かれている優姫の存在は、本当のヒーローにしか映らない。どこかで自分の理想の姿だと思っていた。
「あ、ほら、もうつくよ」
話しを折るように、優姫は立ち上がった。口をへの字に曲げ愛海も後に続いた。
バスから降りると、歩いて登校する他の生徒と合流した。
近郊では最大規模、最大生徒数を誇る2人の通う学校。生徒総数が1000人を超えるマンモス高校である。当然敷地面積は広く、関東圏有数の規模である。
その広大な敷地の始まりである校門には、駅の自動改札のような自動ゲートが設置されている。BCCを使って個人を判別しているもので、無理にここを突破すれば即座に警察と校門付近に待機している警備員に連絡が入るようになっている。
その自動ゲートを前に、愛海は開かなかったらどうするのだろうか、と不安と期待が過ぎった。しかしそんな事は起きず、ゲートは開きフェイストップに今日の授業表が小さく目の前に表示された。
「うぇ、最初から体育……」
最も嫌いな授業のひとつが、最初からある事に思わず顔をしかめた。
「BCCで身体制御できるんだから、こんな授業なくなればいいのに……」
愛海は体を動かす事が不得意で、その上BCCで身体制御ができない。そもそもBCCの身体制御は誰でも彼でもできる技術ではない。つまりは今でも大多数は体育で定期的に体を動かさなければならないのは変わらない。
「全員が使えるわけじゃないし、やっぱり体動かすのは気持ちいいからね」
「そんな事はない! 疲れるのやだ!」
間髪入れずに愛海が否定する。
苦笑し、進路は体育館へ向けて歩いていく。
更衣室に入ろうとした優姫が、ある事に気がついた。
愛海の体操着はあるのだろうか。
そんな優姫の不安を他所に、更衣室前の自動ロッカーを呼び出している。
「置いてある?」
「わかんない。なくなってるかも」
なくなっている事を期待する反面、なくなっていたらそれはそれでショックが大きいという微妙な気持ちで待っていた。
全部で7つある自動ロッカー。そこにこれから体育の授業を受けるであろうクラスメイトたちが並んで、それぞれの体操着と靴を取り出していく。そして優姫に気付いたクラスメイトたちは必ず彼女に挨拶していた。
「あった……」
出てきたロッカーの中にはちゃんと体操着と、体育館履きが入っていた。愛海は渋々取り出して手に持った。後ろに並んでいた男子に順番を変わる。
優姫もそのあとすぐに来たロッカーから荷物を取り出して更衣室へと入っていく。
「お前は隣じゃないのか?」
斜め後ろにいた優姫へ、愛海は振り向きざまに軽口を言う。してやったりと不敵な笑みを浮かべながらだ。
「し、失礼な! ちゃんと女だ!」
それに顔を赤くして反論した優姫は、そう言いながらも自分の胸に手を当てた。慎ましいがたしかにあるふくらみにほっと息をついて安心したらしく、ふんとしたり顔で女子更衣室へ足を進めた。
「……不安がるなよ」
しかしその挙動に思わず愛海が言うと、優姫の頬がさらに赤くなった。




