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「ま、とりあえず食べよ」
テーブルに並ぶ食事は、この数分で作ったとは思えないほど上質なものだった。
モーニングプレートには彩豊かなサラダと、湯気の立つハムエッグ。芳しいトーストには、ジャムが小瓶に入って添えられている。別皿にはヨーグルトと暖かいコーンスープもある。
作り置きがあったとしても、これらをこの短時間で用意したとなると恐るべき手際である。
「パン、足りなかったら言って。すぐ焼くから」
対面に座った優姫に、皿の上の二枚のトーストを見て首を振った。愛海にはむしろこの二枚を寝起きで食べきれるかという不安すらあった。普段は朝食を取らないため、これだけでも十二分な量だ。
「だいじょうぶ」
「本当? 遠慮しないで」
なぜか心配そうな顔をする優姫。愛海はとにかく手を合わせ、いただきますとつぶやいた。
「ミルクとか好きに使っていいからね」
差し出された紅茶をありがたく受け取り、トーストをほおばった。
20時間も眠っていたこともあり、一口ほおばると、体が次を求めてきた。食欲が一気に膨れ上がった。
普段食が細く、咀嚼のペースも遅い愛海だが、優姫の作る食事だけはペースよく食べられる。
もくもくと食べ進み、気づけば皿は空になっていた。しかし空腹は満たされている。
もう少しと思うが、あまり食べない普段から考えて、食べ過ぎても体調を崩しかねない。首を横に振った。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまー」
優姫もちょうど食べ終えたようで、そろって手を合わせた。
食休めにミルクと砂糖を入れた紅茶を飲んでいると、まだ時刻は4時を半分過ぎた頃だと思い出す。
どうしたものかと思うが、そもそも眠気はない。視界の端にウィンドウを出してニュースなどを閲覧していると、対面の優姫の顔が少し険しくなった。
「なにかあった?」
小首をかしげると、優姫は微苦笑を浮かべて愛海にも見えるようにウィンドウを向けた。
「仁科から。捜査資料」
名前と顔が結びつかなかったが、しばらくして合点がいった。あの捜査官だ。
脳裏に仮面のような微笑が思い浮かび、身が固まった。だが今は目の前の資料だ。
昨日は真相の間際まで近づけた。今度は必ず捕まえる。
だが警戒はされているはずだ。
資料に目を通すと、驚くべき事が書かれていた。
@MMのライブの来客者名簿。シークレットライブも含めたものすべてのものだった。
「こんなの、どうやって……」
BCCの利用情報は個人番号と同程度の機密をもって保護されている。この資料はそれに抵触するレベルの代物だ。仁科という女はそれほどの物をたやすく扱える捜査権限があり、今回はそれを扱うほどに高位の事件であるという事だ。
そしてその資料には興味深い添付物もあった。BCCのID情報から個人を特定し来場回数を数えたものだ。
「これ、ほんと?」
驚く愛海。
「嘘は言わないと思う」
優姫が肯定した内容。
来客者の半数近くが彼女たちの通う学校の生徒だった。それもその中の一人はほぼすべてのライブに参加していた。
これを怪しまずにはいられない。
「直接会ってみよう」
「しってるの?」
「前に一回だけ会った事ある。図書室でいつも本読んでる子」
印象が強く残っている訳ではないが、面識が完全にない訳ではない。図書委員に頼まれて一緒に蔵書整理をした事がある程度だが。




