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目が覚めると、目の前に誰かがいた。
誰だと考えなくとも、それが学園の人気者葛城 優姫だとすぐにわかった。
端正な顔立ちは誰もが思い浮かべる美女そのものだった。
長いまつ毛が、眠る瞼にかかる。まるで物憂げに目を伏せているかのような表情で、寝ているとは思えない。
細面で本当に同じ生物なのか疑いたくなる。学園の生徒たちが語るが、右のなきぼくろが異様な色香を漂わせている。
「きれいだなぁ……」
まだ寝起きでぼやけた頭で、ぼんやりと思っていた言葉をそのまま口に出した。
その瞬間、ぱっと目が開き、即座に愛海の顔に焦点を結んだ。まるで今までただ目を閉じていて起きていたかのような適応の速さだ。
「んー、おはよう」
ふっと欠伸を噛み殺し、一呼吸。その仕草と微妙にたどたどしい呂律で、少しは寝ていたようだと思える。
「ごめん。お腹すいてない?」
驚いて何も言えない愛海。しかし体は正直に腹の虫がうめいて空腹を知らせた。
赤面する愛海に微笑みかけなぜか頭を撫でてきた。
BCCで現在時刻を確認すると、午前4時だった。二人そろって20時間眠っていた事になる。
「うわ。すごい寝てた……」
時間が少ないというのに、丸一日つぶしてしまった。その後悔が重く圧し掛かる。
一方で愛海はもぞもぞと優姫の腕の中を抜け出して、髪の毛を手櫛で顔にかけながら離れていく。
「か、かお、あらう……」
「ああ、そうだね。場所は---」
「だいじょうぶ」
逃げるようにその場から離れ、洗面台のある脱衣所へ向かった。
冷たい水を出して、顔をよく洗った。なにせ火照って赤い。冷たい水で覚ます。
顔を上げ、鏡を覗き込むと、狙ったようにショートメッセージが優姫から送られてきた。
「朝ごはんにしよう。リビングに来て」
音声付きだった事に驚いたが、とりあえず言われた通りリビングへ向かった。
「コーヒーか紅茶、どっちにする? 緑茶もあるけど?」
キッチンから来た優姫の声にまたしても驚くノミの心臓に嫌気を覚えながら愛海は紅茶と答えた。
「了解。席座ってて。今もってくから」
席に着き、手持無沙汰に部屋を見渡す。生活感の無い偏執的なまでに整頓された室内。12畳はある広いリビングの中央には3メートル四方の橙色のカーペットが敷かれ、その上にローテブルが一脚。それ以外に目につくような家具はない。よく掃除されているため、チリひとつない床は、ワックスまでかけられているので、近くで見ると顔が写った。愛海は自分の片付けられない散らかった部屋を思い返して、同い年なのになぜこんな差があるのかと不思議に思った。
そんな事を考えていると、キッチンから優姫が出てきた。右手に4皿と左手にティーカップとポットをもっている。つくづく器用だと感心していると、それを手際よくテーブルに並べた。
それを目で追っていた愛海は、不自然に画像が乱れる制服に気がついた。
「エプロン」
学校の制服の上につけられたエプロン。ベージュ色の厚手に生地にヒヨコのアップリケがつけられたもので、制服と違い本物のようだ。昨日もつけていたように思ったが、それどころではなかったからあまり気にしなかったのだ。
「ん? ああ、やっぱりこればっかりは本物じゃないとね。映像だと服が知らない内に汚れてたりして嫌なんだ」
ひらひらと指先で端をつまんで動かした。わずかに制服の動きにラグが生まれている。
照れているようなはにかんだ顔が、普段のすまし顔とは違う少しだけ歳相応に見えた。学校で知る彼女はどこか他人行儀で、誰にも遠慮がないように見えて、必ず人とは距離を置いているように思っていた。そんな彼女の素の表情が見えたように思えた。




