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「でもそれでなんで捕まったわけ?」
「電子ドラッグが、含まれてた、んだって」
愛海が言い淀みながらも、事実を口にした。
「電子ドラッグ?」
どうしてそれが歌と関わりがあるんだと眉根を寄せる。それとその言葉に胸の奥が騒めき、乾きのような焦りが湧き出した。
「歌の中に、BCCにだけ反応する特殊な波長が含まれてたんだって」
優姫の胸のうちの騒めきが、さらに大きくうねりを上げた。
「被害者、は……?」
「8人……」
そこで愛海も目を伏せて歯噛みした。
「じゃあ、愛海はそいつに利用されたわけだ」
声を押し殺した優姫の顔を、愛海は見れない。どんな表情なのか、もしくは非難の目を向けているのか。どちらにしろ顔を上げる勇気を持ち合わせてはいない。
「わかった」
なにも答えられずにいた愛海に対してか。優姫は一度頷き、愛海の手を掴んだ。
「捕まえるの手伝う。大丈夫。絶対、捕まえて、百億倍返しだ」
力強く、細長い手で、愛海の小さな手を握った。
驚いて顔を上げると、一片の偽りない真剣そのものの目で見据えていた。
「え、だ、だって……」
「愛海を助ける。そして真犯人は痛い目合わせないと気が済まない」
強く決心した目。
「な、なんで、そんな」
「許せない。それだけ。オレはオレの正義を振るう」
ひどく独善的でありながらも、その答えはいかにも優姫らしく力強かった。なにせ彼女は学校といわず地域で知らない者がいないスーパーヒーローで、Vチャンネルで特集が組まれるほどの人物なのだ。
そんな人物がどうして自分なんかの為に協力してくれると言うのか。
「とりあえず、どこから探す? やっぱり最初に接触してきたコミュニティ?」
「え、あ、うん。そこから、探す」
「りょーかい。フルダイブ? ギア使う?」
首を横に振る愛海は、遠慮がちに布団に横になる。ゆっくり息を吐きながら目を閉じた。
そのとなり、椅子に座ったままの優姫はウェブカメラを起動させて、自分も軽く目を閉じた。
脳内の視野に直接投影される直接閲覧許可の文字を、脳内の指で選択する。
次に二人が目を開けると、そこは広大な海の中だった。
いや、空の中か宇宙を漂っているのか、どことも知れない、浮遊感のある適度に薄暗い空間。
星のような、無数の部屋が縦横無尽に広がり、散乱する世界。これが電子世界。
「それで、男と接触してた場所ってのはどこ?」
黒装束の仮装がたずねてくる。それが優姫の電子上での姿だ。
「アドレスこれ。ついてきて」
尻尾の生えた茶色い毛玉が答える。言わずもがな愛海だ。
そしてアドレス帳からくだんの所在地を呼び出すと、無限遠にあった小部屋のひとつがたぐり寄せられ、目の前に現れた。
レトロなデザインの小さな部屋で、入り口には重厚な木目の扉がある。
「会員制なんだけど、どうしよう」
毛玉の頭頂部にクエスチョンマークを浮かぶ。それに優姫がくすくすと忍笑いを漏らし、すぐに大丈夫と頷いた。
「会員ID偽造する。ちょっと待って」
そう言って優姫はドアの横に手を触れた。
瞬きにも満たない刹那でまず部屋の管理区域にハッキング。会員のデータバンクを物色し、そこからこの2ヶ月以上のログインがないメンバーを調べあげた。該当したIDから、自分と一番関連性のなさそうなものを厳選して自分の本来のアカウントへ重ね合わせた。
「お待たせ」
「もうできたの?」
「そんな警備が硬くないからね」
そっかと適当に聞き流し、ドアノブに手をかけた。
『こんにちは、プラウラーさん。お久しぶりですね』
『こんにちは、タカッシーさん。お久しぶりですね』




