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そして優姫は脱衣所の外で、一瞬だけ見てしまった愛海の色白な胸元を思い出して赤面した。まさか矯正下着をつけていないとは思わなかった。
一方で愛海は一息ついてから、意を決したように服を脱ぎ去った。それから前を若干気にしながら風呂場に入って行った。そもそも人の家の浴室を使う事自体が初めてで、どうしても落ち着かない。
全体的に象牙色の樹脂で作られた汎用デザインの浴室だった。大きな姿見と愛海なら余裕で足を伸ばして浸かれる広さの浴槽など、特に変わった所はない。
鏡の下に掛けられたシャワーヘッドをつかんで伸ばし、吹き出し口に手を当てる。最初は冷たい水が出たがすぐに温かいお湯に変わる。
冷え切った体を温めていくため、つま先から徐々に上へとかけていく。
ピリピリと皮膚を突かれるようなわずかな痛みとともに、指先から熱を取り戻していく。
頭までお湯を被ってから、一旦お湯を止めて迷いながらもシャンプーのボトルを見つけ出した。それを手にとり髪を洗う。
よく泡立ち、髪の毛がまとまり、顔が露わになる。
曇らない鏡に自分の顔が写り込む。
「ぶさいくな顔……」
どちらかというと丸顔で、目は大きいがそもそも目つきが悪い。
電子世界では美少女と言われてもてはやされているが、そんなものは化粧をしているからであって、現物とは違う。と彼女自身は思い込んでいた。実際には印象を派手にしているだけでそれほど顔の造りは変わっていないのだが、愛海自身が猜疑的にもつ自己否定の念が必死に自己否定を繰り返す。
ため息を吐いてスポンジにソープを付けて体を洗い始める。
元々低身長で、小学生にすら間違えられる愛海だ。そもそも体形も体形だって相応にメリハリがない。棒のように細い手足も、出るところがさしてない体はせめてもの救いと肌はきめ細やかで白い。昔から活発な方とは間違えても言えない、出不精だった為に日焼けや、まして怪我をするような事はした事が無い。それもあり体は筋肉をほとんど発達しなかった。今でも小学生の高学年の頃に来ていた服が着れると優姫に云うと、どんなリアクションが返ってくるのだろうか。
そんな取り留めのない考えごとをしながら、体全体を洗い終えた。シャワーで洗い流し、湯船に浸かる。
シャワーで体温は戻ったと思っていた愛海だが、まだ回復しきってはいなかったようだ。お湯が刺激となって皮膚に鈍いしびれを感じた。
温かい湯船に浸かっていると、蕩けるような微睡みが体温と共にゆっくり登ってくる。
ゆっくりと本人の気づかない内に身体が湯船に沈み始めた。そして顎が水面に触れた瞬間、突然目の前にウィンドウが飛び出した。
『愛海ー? 着替えここに置いておくよ』
「はひ!? う、うんっ!」
ばしゃんと音を立てて体を起こす。画面の向こうにいる優姫は何も見えていないが、くすくすと微笑するのが聞こえた。
画面が消え、上半身を起こした愛海は一瞬呆然となり、立ち上がった。
シャワーで軽く体を流し、浴室を出る。浴室の曇りガラスのドアの横に置かれたラックの上に言われた通り着替えとタオルが用意されていた。
衣類とタオルは驚くほど丁寧に、市販されている商品のように畳まれて置かれていた。
体を拭いて、畳まれた服を手に取る。カーキのツナギタイプの環境適合服で室内向けにボディフィット機能があるため、そのまま肌着なしでも着れるものだ。しかしサイズは合わない。他に着るものもないため、やむなく袖を通して袖と裾を何度も折り返した。20センチメートル以上も身長差があるため、愛海が着るとストレッチ機能もボディフィット機能も意味がない程度にだぶついている。
バスタオルで髪の毛をガシガシと拭きながら脱衣所を出ると、芳醇なダシと白米の炊ける香りが漂っていた。




