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電子世界の歌姫  作者: 夜桜月霞
悲観的な歌姫
10/96

8.5

 愛海は考えていた。なぜ自分はここにいるのだろう。


 一瞬寒さの限界を超え、意識が遠のいた。BCCの警報は鳴り続けている。しかしそれは外力によってはじかれ、この部屋から出れないで彷徨っていた。


 体は壊れた機械のように、めちゃくちゃに震えていた。手と足首が擦れてわずかに出血している。全身の筋肉が震えすぎて悲鳴をあげていた。


 なんで、こんな事になっているのだろうか。


 疑問が巡り、そして一つの着地点を見つける。


 自分が悪い事をしたのだ。


 罰を受けている。


 その考えはやがてまた疑問を生んだ。


 何をしたのか。


 自分がいったいなにをしたというのだろうか。


 身の丈に合わない、大きな願いを持ったのだ。


 誰からも無視され、存在を認められないはずの自分が、誰も無視できない、憧れの対象となりたいと願ったのだ。


 それが罪の始まりだというのだ。


 ただ日陰で、誰の目にも留まらない所で、こっそりと歌っていればよかったのだ。


 それが身の丈というものだ。それが正解だったのだ。


 では、どうして自分はそんな身の丈に合わない、分不相応な罪を願ったのだろうか。


 疑問は膨れ上がり、ひとつの結論に行き着いた。


 あの男が歌えといった。


 それでこうなった。


 あの男が悪い。


 許さない。


「思ったより、元気そうですね」


 幻聴か、それとも本当に聞こえるのか。その判断もつかなくなっていた。


「罪を認めますか? 悪事を恥、断罪を受ける覚悟は」


「わたし、じゃない」


「はい?」


「わるくない、あいつが、あいつが」


 自分の口から言葉が出ている事も、自覚がなかった。


 ただ否定を続けた。自分の無実を明らかにさせたかった。


 仁科がその言葉を聞いて、わずかに目を細めた事に、愛海は気付かない。


「ジュ・トゥ・ヴ。司法取引の書類を作ってください。内容は白紙で」


『本当に、我が主人ながら人間性を疑いたくなりますね。おっと、今のはシステムエラーなのでお気になさらず』


「本当に、あなたが居ると退屈をわすれますね」


 仁科が退室すると、入れ替わりに婦人警官が取調室に入り、血相を変えて愛海の拘束を解き介抱する。


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