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思い出

作者: 茜

「あんたには才能なんてないの。だから、勉強するしかないの。」幾度と無く聞かされた台詞も、もう聞くことはない。あの忌々しい顔を見る事も、声を聞くことも、二度と無い。この私が、消してやったのだから。あんなにもあっけなく火が燃え広がるとは思いもしなかった。今頃消防車が駆けつけようと、もう遅い。あいつは消えた。あの、私を15年間苦しめ続けた害獣。言われた通りに毎日レッスンやら勉強やらに励み、ろくに友達も出来ずにいた幼い頃。学校でいじめられては帰ってこっぴどく叱られた。どうしていじめられるようなことになったのか等、当時は聞かれても分からなかったが、幼少期にまともなコミュニケーションも取らず、話し相手が奴だけだったのだから、普通の友達付き合い等できないのは自明である。遊び相手に乏しいお陰で、ますます勉強以外にする事もなかった。中学校に入って学習塾に通い始め、選抜クラスに入った。成績は優秀だった。全国有数の高校にも合格した。やれる事はやったし、それに見合う結果も出してきた。全ては、その台詞の所為で。奴の口から出た、その台詞の所為。他に理由等無い。やりたい事も我慢し、ただ奴の要求に応え続けた。なんの見返りも無く、一つの事を満たせば次は二つ、その次は四つを要求された。しかし、何一つ文句も言わずに応え続けた。明くる日には何を言われるのか、怯えながら眠り、また苦しむ日々を送るうちに、いつの間にか長い時が経ってしまっていた。もう終わりにしようと何度思ったか分からない。しかし、今度こそ本当に、もう終わりだ。何もしなければ、永遠に続くこの苦しみを、自らの手で終わらせるのだ。失われた時間は戻って来ない。

真夜中の学校の階段を上がる。何とも言い難い不気味さを醸し出している。昼間には生徒達のはしゃぐ声が響いているであろうが、ただコツコツと靴の音がするのみだ。もっとも、その輪の中に入った事は未だかつて無い。考え方や感性の大部分は幼少期に形成されると言う。その形成時期に関わったのが奴のみなのだから、まともな人格ができる訳が無い。しかし、もはや取り返しのつかない事である。失ったものがあまりに膨大で、数え上げることすら出来ない。だが、もう良いのだ。全てを終わらせるのだから。私は奴を許さない。何があろうと、その全てを抹消する。もちろん、その腹から生まれた…私も。

ずっと、自分自身が憎たらしくて仕方が無かった。奴に言われた事を生真面目に守り、奴の考え方を少なからず引き継いだ存在。か感じられなかった。クラスメートが自分を嫌っていることは明らかだったが、誰よりも私を嫌い、憎んでいたのは自分自身だ。稀に微笑みながら懲りずに接してくる人もいたが、何故そんな事をするのか全く理解できなかった。大方、救いようのない阿呆か、「優しい自分」を演出している醜い輩のどちらかであろう。

…考えている間に屋上に着いてからしばらく時間が経ってしまった。一刻も早くこの悪夢を終わらせよう。フェンスを蹴る。バイバイ、私。さよなら、世界。きっと次に会う時は、笑顔で居られますように。


━━━━本日未明、火事があり、一軒の住宅が全焼し、中で一名の死亡が確認されました。また、同じ住宅に住む女子高生が学校の屋上から飛び降りているのが見つかり、病院に運ばれ、重傷だとのことです。警察は、これらの事件に深い関連性があるとして捜査を進めています。




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お読みいただきありがとうございました。

茜と申します。とある高校で文芸部員をしていましたが辞めました。

この作品は、私が高校受験勉強中に執筆した物です。主人公が放火して死んだこと、真夜中の学校に忍び込んだこと以外は全て私の経験を元にしています。かなり日本語が破茶滅茶な点については、受験勉強頑張って疲れていたんだな、ということでお許しくださいませ。

デジタル化したものの、私のスマホから消し去るにはどこか惜しい気がしたので投稿させて頂きました。次回作は予定しておりません。

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[良い点] 疲れていない時を待ちましょう、何年でも、何十年でも。
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