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結婚式に出席しました。

一年間と長くお休みをしてしまいました。

来年も宜しくお願い致します。

第五十九話



   結婚式に出席しました。



 「おう!ありゃなんだい?今日ここで何かあんのかい?」

「あんた知らないのかい?

 明日そこの教会で噂の結婚式があるのさ!」

 「噂ってなんだ?あの教会前の広場に敷き物まで敷いてる娘達や貴族様の使用人達に関係があるのか?」

「あんた何も知らないんだね、

 あれは明日この教会で行われるアズビー家の次男とメディアン家の跡取り娘の結婚式の場所取りだよ、」

「おいおい確かに何方も大きな商会だが見物の場所取り何て大聖堂で行われる王族方の結婚式じゃないんだぞ、」

 と教会前の広場で屋台を並べる店主達の話に並んでいた客も加わり、

 「俺さっきあそこで座ってる娘に聞いたんだがよ、

 あの娘達服飾店の針子見習いだってよ、

 何でも明日の式で花嫁さんを一番良い場所で見れる様に場所取りをさせられてるってよ、

 で噂ではその花嫁の衣装が特別らしいってさ、

 おっと俺は串焼き一つな!」

「まいど!知らんかったな、お貴族様の使用人もその衣装が目当てなのかい?

 ほい!焼きたて一つな!」

「おう!ありがとよ、お貴族様は分からねえが皆ご苦労なこった、」

「良いじゃないのさ、人が集まれば私らの屋台にもこうやって客が来てくれてんだから、」

「ちげえねえ、こりゃ俺たちも明日に備えて夜通し明日の場所取りしてた方が良いかもな、」

 「そうだねぇ、この分だと明日は店の場所取りが大変そうだからね!」




 

ジオラフトにある女神教大本山の聖女の執務室にパオラが入室すると、年輩のシスターに囲まれていたアビゲイルが、

 「待っていたわパオラ例の物は手に入れられた?

この通り連日お姉様方が押しかけて来てまだかまだかと大変なのよ!」

と言われたパオラは年配のシスター達に頭を下げた後、アビゲイルの前まで出て古びた革の袋を取り出し、

 「聖女様、今シャンプーやトリートメントはオーライドでも入手困難なのですよ、

 今回は先生にお願いしてアズビー商会に都合をつけてもらいました、」

と言いって執務机の上にメディアンのラベルが貼ってある瓶を皮袋から次々取り出し机に並べていく。

 並べられた瓶に目をギラつかせる年配シスター達をアビゲイルは苦笑しながらパオラに、

 「パオラその袋役に立ってるでしょ、請求は財務部に回しておいて頂戴、

 あと先生とは先日報告してくれたルコルの姫君のことね、」

「聖女様先生は男の子ですよ、

 この貸し出して頂いた魔法の袋は重宝しています。

 お菓子や食べ物も保存出来ますし、沢山の荷物を持って転移できます、あと財務部に請求しちゃって良いのですか?」

と答えるパオラにシャンプーとトリートメントの瓶を既に大事そうに抱えた年配のシスターが、

 「良いのよパオラ、今カヌレが売れに売れているそうよ!あの美味しさだから当然よね、

 だからカヌレの生産を任されている私達に財務部は文句何て言えないわよ、」

 「お姉様カヌレは御寄付のお礼ですわよ、」

と嗜めるアビゲイルにどこ吹く風のシスター達がパオラに、

 「でパオラオーライドで流行りの菓子もちゃんと買って来てくれた?」

 「お姉様方、私の所の者を私用で使わないで下さい、」

「あら貴女も何時もこっそり頼んでいるじゃない、知っているのよ!」

 と突っ込み合うアビゲイル達にパオラは大きな箱を二つ取り出し自慢気に、

 「これはオーライドで最も貴重なお菓子と本物のケーキです、」

 「パオラ貴重なケーキとはまさか先日食べさせてくれた例の公爵家のケーキなの?」

とアビゲイルが目を輝かせればパオラは大きな箱の蓋を開け、

 「先生の御弟子さんが作られたケーキですよ!

 お弟子さんは公爵家の料理人にケーキの作り方を指導された方なんですよ!

 でこちらの箱は焼き菓子です、

 」

と伝えればシスター達から悲鳴の様な歓声が上がる。

 「パオラ早速皆でお茶にしましょう、

 」

と立ち上がるアビゲイルにパオラは、

 「皆様でお召し上がり下さい、私は明日オーライドの東別院で執り行われる式の準備がありますので失礼させて頂きます、」

「そちらも先日報告があった大商会の子息と息女の結婚式だったわね、」

「はい、新郎はオーライドの賢者と名高いジル・アズビー騎士爵様の御子息ですね、

 新婦はこのシャンプーやトリートメントを売り出したメディアン商会の跡取り娘です、」

「何方も大きな商会だけどパオラが準備を手伝う必要があるの?」

「はい、騎士爵様と先生は親交があり今回の式に先生が大きく関わっていらっしゃる様子、

 以前新婦になる方の式で身に着ける衣装の見本絵を見る機会がありまして

 それは見た事のない様な見事なドレスで女で有れば誰でも近くで見てみたいじゃないですか、

 ザビエス枢機卿に無理を言って式を取り行う司祭の助役にして頂きました、

 でその時の話を聞いていた者達から情報が漏れ、

 今東別院前の広場は大聖堂で行われる王族の結婚式の前日の様になっています、」

 と言うパオラに年配のシスター達が、

 「まあまあパオラ貴女達位の年頃の娘は花嫁に憧れる物ですわ、

 次回こちらに来た時にその式の話を詳しく聞かせてちょうだいね、」

 「はい、また機会が有れば必ず、

 といけない忘れてしまう所でした!聖女様例の物をお願いします!」

とパオラに言われたアビゲイルも思い出したのか自身の執務机の引き出しから色紙を取り出し、

 「こんな物で良かったのかしら、

 名前を書いただけなんだけど、

 でもこの羽根ペンは凄いわね、どんな仕組みになっているのかしら、」

 とアビゲイルはパオラに色紙とエルル特製マジックペンを渡せば、

 「こちらのペンは聖女様に差し上げますと先生が、」

「まあ、ありがとう嬉しいわ!いつでも名前くらい書くわよ、なんなら猊下にも名前を書いて貰って来るわよ!」

「本当ですか!先生きっと喜びますよ!」

「任せてちょうだい!あと生誕祭への招待の件はまだ秘密よ、猊下からオーライド王に話を通すそうだから、

 あっ!今回のお礼も忘れずちゃんと伝えてね、

 また宜しくお願いしますともね、」

と言ってアビゲイルはおちゃめにウインクをした。





 

 メディアン家の屋敷では使用人達か朝早くから慌ただしく動き回っている、

 そんな中本日の主役であるウェンディが早めの朝食を摂り、身体を清め介添え役のイオが来るのを待っているとスーツ姿のイオが部屋にふっと現れ、

 「おはよう御座います、ウェンディさん今日一日宜しくお願いします、」

「おはよう御座いますイオさん、

 こちらこそ朝早くからありがとうございます、」

と挨拶を交わすとイオはテキパキと簡易美容室の準備を始め、

 「さあウェンディさん始めますよ!」

と言ってイオは取り出した施術台にウェンディを乗せ身体を磨き上げて行った。

 

 そしてたまに入って来るメイド達が花嫁姿になって行くウェンディを見て立ち止まり、ウェンディが髪を結い上げ化粧を施される頃には、仕事も忘れ花嫁に見入っていた者達がメイド長らしい女性にカミナリを落とされメイド達は慌てて仕事に戻って行った。

 

 暫くすると未だ眠いのか母親に抱えられた女の子達が部屋に入って来る、

 「わっ!ウェンディとても綺麗よ!

 お姫様の様だわ、」

「本当に!娘達が羨ましいわ!

 ほら起きなさい!貴女達もウェンディお姉ちゃんの様にお姫様になるんでしょ!」

と女の子を起こせば、眠いのだろう目を擦りながらウェンディを見て、

 「わぁ〜!お姫様だよ!」

「綺麗なお姉ちゃん、私達も早くお姫様にして!」

「こら!貴女達イオさんに失礼でしょ、ちゃんとご挨拶なさい!」

「はあーい!お姉ちゃんおはよう御座います!私達をウェンディお姉ちゃんの様にお姫様にして下さい!」

と可愛らしくペコっと頭を下げる、

 イオは微笑みながら子供用の椅子を二つ取り出し、

 「おはよう御座います!じゃあ先ず二人共お手洗いを済ませて可愛らしいお姫様に変身しましょうね、」

「はあーい!私ここのおトイレ大好き!」

「私もっ!」

と子供達が部屋から出て行くと母親の一人がウェンディに、

 「娘達の言う通りよ、この屋敷の様なおトイレを探し回ったのだけど何処も取り扱って無かったわ、」

ウェンディは自慢気に、

 「あのおトイレはエルル君が改装してくれたのよ、

 私達の結婚祝いにって!」

 「エルルさんってあの黒髪の可愛いい娘さんね、

 ウェンディのドレスも彼女からの贈り物なんでしょ、羨ましいわ!」

 とウェンディ達が話していると娘達が戻って来る。

 

 「さあこの椅子に座ってね!

 先ずは髪を少しカットしても良い?その後衣装を付けてから、ちょっぴりお化粧もしましょうね、」

とイオが言えば子供達は椅子に並んで座り、

 「私、ウェンディお姉ちゃんみたいに結って欲しい!」

「私もっ!」

とはしゃぐ二人にウェンディが、

 「二人共良かったわね、

 本当のお姫様達だってイオさんに髪を切って貰ったり化粧をして貰えないってショーンが言っていたわ、」


 そしてイオの手によって可愛らしく変わって行く娘達を見て母親達が、

 「貴女達をパパ達が見たら泣いちゃうかもね、」

「そうね!二人共ちゃんとお姫様になってるわよ、」


 と盛り上がる母親達とウェンディにイオは片付けをしながら、

 「ではウェンディさん達はアズビー商会の特別な馬車が迎えに来ますのでそれに乗って式が執り行われる教会に向かって貰います、

 私は今日一日ウェンディさんのお化粧直しなど介添え役として式に参列させて頂きます、」

「宜しくお願いしますイオさん、」

 

 母親達も娘達に、

 「じゃあ私達も着替えて先に教会で待っているから、貴女達ちゃんとイオさんの言う事を聞くのよ!」

「はあーい!ママ、パパには未だ私達の事は秘密にしてね!驚かせたいの!」

「はいはい、わかったわイオさん娘達を宜しくお願いします、」

と母親達はイオに頭を下げて部屋から急ぎ出て行った。




 「おはよう御座います!エド様!お母さん!」

とエルルが部屋に入って来ると、

結婚式の立会人であるエドモンドが貴族の正装で待っていてソファーに座るナタリアが、

 「おはようエルル、エドの準備は出来ているわよ、イオはもう出掛けているの?」

「おはよう御座いますお母さん、

 イオさんには新婦さんの介添え人をお願いしていますので朝早く家を出ていますよ、

 今頃お供の子達の着付けをしてるんじゃないかな、」

 「イオから聞いているわよ、何でも教会に入る花嫁を花嫁衣装を着た子供達が付いて行くそうね、」

「はい、何処から漏れたのか花嫁衣装が噂になって教会前の広場で昨日から場所取りをしている方達がいらっしゃるみたいですよ、」

「ねぇエルル、またあの姿絵の魔導具で描くんでしょ?」

と聞かれたエルルは何時もとは違う一眼レフ型カメラの魔導具を自慢気に取り出し、

 「じゃあ〜ん!今日はこの新しい魔導具で花嫁さん達を撮ります!

 何時もの魔導具と違ってその場で見る事は出来ませんが何時もより綺麗で大きな姿絵を写す事が出来ます、

 結婚式の姿絵を沢山撮ってきますね、

 姐様達からも撮った姿絵を見せる様に言われているんです、」

 「じゃあ私も母様達と一緒に見せて貰うわ、」

「了解です!ではお母さん行ってきます、 エド様いきましょう!」

「何時も良いぞエルル、では行ってくるよナタリー、」

と二人はナタリアに手を振ってその場からスッと消えた。





 メディアン家のメイドがウェンディ達の所まで来て、

 「お嬢様お迎えの馬車が到着致しました、

 ただ馬車が大きく屋敷の玄関迄入って来れないそうなんです、」

「あらそうなの、

 じゃあ馬車まで歩いて行きましょうかイオさん、」

 と言えば片付けを済ませたイオがゲートを開き、

 「いえ、このゲートの中に入って下さい魔法で馬車に繋がっていますので、」

「ええーっ!綺麗なお姉ちゃんこの中に入ると馬車の中なの?」

「わぁ〜!魔法なの綺麗なお姉ちゃん!」

とはしゃぐ娘達にウェンディが座っていた椅子から立ち上がり、

 「そうよイオさんはとても高位の魔法士様なのよ、

 さあ貴女達いくわよ、」

と言って子供達の手を引きゲートの中に入って行きイオもぽかんと口を開けているメイドに頭を下げゲート中に消えていった。






 「うわっ!見て下さいエド様凄い人の数ですよ、」

「ジルは一応貴族で国一の賢者と言われているからな、

 エルルは聞いているか、次の叙爵でジルが男爵に叙爵されるのを?

 「ええ主人様から伺っています、

 何でも多大の功績があるジルおじさんを陞爵させないと、

 いつまで経っても他の方達を叙爵する事が出来ないからと、」

と教会の裏口で話すエルル達の所に貴族の正装をしたジルが出て来て、

 「エド様今日はありがとうございます、エルルご苦労様 で誰かさんのお陰で男爵様になる私がなんだって?」

 とジルは目を細めエルルに問いかければ、

 エルルは目を泳がせ、

 「ジルおじさん何でも無いよ!今日はおめでとうございます、

 ぼっ僕は今日記録係りだから綺麗な花嫁さんを教会前で待っていますね、」

とエルルは慌てて表の方に駆けていった。

 「逃げたな、」

とエドモンドが駆けて行くエルルを見ながら言えば、

 「ええ逃げましたね、

 さあエド様は中へ、司祭が待っています、」

 「ああ、遅くなったがジルおめでとう、」

「陞爵の話ですか?それとも息子の?」

 とジルが意地悪く聞けば、

「勿論何方もだ!」

 と言ってエドモンドはジルの肩を軽く叩き教会の裏口から中に入って行った。



 

 「綺麗なお姉ちゃんここ本当に馬車の中なの?

 ちっとも揺れないしお部屋の中みたい!」

「本当ね、イオさんこの馬車はアズビー家の馬車なのでしょ?」

「はい、最新型の荷馬車で今日は特別に花嫁さん使用の馬車に改装してあって外装も綺麗に包装されているんですよ!

 ただ本来は荷馬車なので窓が無いので少し窮屈だと思いますが、

 少し我慢して下さいね、」

「馬車を包装ですか?」

「ええ教会前で集まっている人達皆、絶対驚いちゃいますよ、」

「綺麗なお姉ちゃん、私達も驚いて貰えるかな?」

「もちろんです、ウェンディさんより前に馬車から出て貰うから可愛らしい小さな花嫁さんが出て来てみなびっくりしちゃいますよ、

 じゃこれから馬車から降りた時の練習をしましょう。」



 東別院前の広場に2頭の馬に引かれた真っ白な馬車が入って来る、

広場に集まった見物人達から、

 「おい見ろよあれ馬車なのか?

 真っ白な布に包まれてまるでプレゼントの箱のようだ!」

「見てみろよ!横っ側にアズビー商会って名前が書いてあんぞ!

 花嫁様のおでましかな!」

とはやし立てる者にその場が湧く、

 入ってきた馬車は長く、教会前の馬車寄に入れ無い様で広場の見物人の前に停まるとアズビー商会の職員が駆け寄り荷台の後部の扉を開き階段を取り付ける、

 集まった見物人達が息を飲み階段に注目すれば荷台から花嫁衣装を着た少女が二人降りて来て見物人に向かいぺこりと頭を下げる、

 すると見物人達からわっと!歓声が上がり、

 最前列を陣取っている裁縫ギルドに所属している小針子から、

 「お嬢さん達こっちむいてぇ〜!」

 「凄いわ!あんな繊細なレース見た事がないわ、」

「ちょっと!前で立たないで頂戴!見え無いじゃない!」


「おい!なんだ花嫁衣装の子供が出て来たぞ!」

どよめく人達の前に馬車の荷台からイオに手を引かれたウェンディが出て来ると、

 一瞬時が止まった様に静かになる、

 そしてウェンディが軽く頭を下げ教会の入り口に歩き出せば小さな花嫁達がウェンディの長いベールの端を持ち後に続いて教会の中に入って行く、

 そして息を飲んでウェンディ達を見守っていた見物人達から大きな響めきが起こった。


 


 教会の祭壇の前では式を取り行う司教と見届け人のエドモンドが立ち、

 祭壇前のホールではショーンを取り囲む様に両家の親族と招かれた客が集まっている。

 そして普段は使われていないホールの二階席から一目で高位貴族とわかる夫人や令嬢が扇子で顔を隠す様にしながら花嫁が入って来るのを見守っていた。


 教会の外から響めきが聞こえた後、 

 入口からウェンディが入って来る、 親族からわっと!歓声が上がりウェンディの後から長いベールを持った子供達が入って来ると歓声はさらに大きくなった。

 ウェンディはショーンの前まで来ると、

 「お待たせショーン、貴方の妻は如何かしら、」

と悪戯っぽく微笑めば、

 「ウェンディとても綺麗だ、その姿をいつまでも見ていたいよ、」

「ふふふっ、大丈夫よショーン先程からエルル君が魔導具で姿絵を描いてくれている様だから、」

「それは楽しみだ、」

と二人の世界で会話をするショーン達に司祭が、

 「おっほん!お二人共良いですかな、

 これよりメディアン家のウェンディとアズビー家のショーンの婚礼の儀を取り行う、

 お二人共女神フィーネス様と見届け人であるギルガス辺境伯様の前で宣誓を、」

と司祭から告げられると二人は手を繋ぎ祭壇の前に進み、誓いの宣誓を告げた後女神フィーネスに感謝の聖句を読み上げると教会の鐘が鳴り響いた。


 

 式を終えた花嫁と花婿が教会の入口から出て来ると教会前の広場から歓声が上がり、

 ウェンディの知り合いであろう若い女性達が二人の前に集まってくる、

 ウェンディはイオに被っていたベールを外して貰い知人の女性達に、

 「皆きてくれたのね!嬉しいわ!これからも宜しくね!

 これは来てくれた皆さんにうちから心ばかりのお礼よ!」

 と告げると同時にアズビー商会の職員が見物人達に小さな小袋を配り始め広場はさらに歓声で沸き上がる。

 ウェンディの周りにはドレスを見せて欲しいと言う針子がウェンディを囲み今度はメディアンの職員が、

 「皆さん!お嬢様のお衣装は明日の朝から裁縫ギルドにて飾られる事になっていますので、

 明日裁縫ギルドでお問合せ下さい、

 また今アズビー商会の職員が配っております小袋は本日お嬢様をお祝いして下さる皆様に御礼の気持ちのメディアンの新商品ののど飴です、

 十分数はご用意しておりますので皆様お並びになってお受け取り下さい。」

 と伝えれば皆我先にと列に並んで行く、

 その隙にウェンディ達はアズビー家の馬車に乗り込み教会を後にした。


 教会の裏口から親族の者達が出て来て、ジルとウェンディの父親であるヘンリーがエドモンドに、

 「エド様今日は遠路息子達の為にありがとう御座いました、」

「何構わんさエルルが連れて来てくれたからな、辺境屋敷の部屋からドア一枚でこの裏口だったよ、」

「辺境伯様、ありがとう御座いました、新婦ウェンディの父のヘンリーと申します、

 また姫様には本日の為に色々骨を折って頂いています、

 これより屋敷の庭で身内だけのパーティを行いますので是非我が家にお寄り下さい、」

エドモンドは笑いながら、

 「ヘンリー氏エルルは私の息子だよ、

姫様なんて呼んでいると拗ねてしまうよ!」

「エド様誰か拗ねるんです?」

 背後から声をかけられエドモンドが振り向いた先には半目のエルルがいて、

「エルル聞いていたのか、なっ何でもないぞ、

 おっとすまないヘンリー氏では少しだけ寄らせて頂くとしよう、」

「じゃあエド様はジルおじさん達と屋敷に向かって下さい、

 僕は今日描いた姿絵の準備をしてからパーティに向かいます、

 イオさんも花嫁さんのお色直しが終わったら会場を手伝ってくれると思います、」

「分かったエルルでは会場でな、」

「はいエド様ジルおじさんまた後ほど、」

と言ってエルルはその場からスッと消えた。




 メディアン家の中庭で老いても理知的で上品な老夫婦が使用人の用意した椅子に座り本日の主役の到着を今か今かと待っている、

「ウェンディはまだかの?儂も式にでたかったのぉ、」

「あなた私達みたいな年寄りに式は辛わ仕方ないわよ、

 使用人達の話ではウェンディとても綺麗で見た事の無い様な素晴らしいドレスだったそうよ、

 何でもショーン君の従兄弟が二人の衣装やこれから始まるパーティにも力を貸してくれているそうよ、」

と老婦人がガーデンパーティー会場に並ぶ見た事のない料理を見て言った。

 「うむ、変わった料理で美味そうだったからの、

つまもうとしたら使用人に叱られてしまったわ、」

と笑い合う二人に屋敷の使用人が、

 「大旦那様、皆様お戻りになられた様です、」

と伝えると直ぐ中庭に花嫁姿の少女が二人入って来て老婦人を見つけるなり、

 「ひいお爺様!お婆様!」

と駆け寄って来る二人に老婦人が、

 「まあまあ可愛らしいお嫁さんね、

 貴女達その衣装は如何したの?」

「あのねウェンディお姉ちゃんと一緒に頂いたの!素敵でしょ、」

「ええ、とても可愛らしいわ、」

「本当にな今日の主役がお前達に奪われてしまいそうだな、」

とひ孫達の頭を撫でていると、

 「お爺様お婆様、ただいま戻りましたわ、」

とウェンディがイオと共にショーンを連れて二人の前まで来て淑女の礼を取る、

 「おおっ!ウェンディ見違えたぞ!

 まるで高位貴族の令嬢の様だぞ、」

「ふふふ、お爺様達にこの姿を見せてあげられて良かった、

 ショーンからの贈り物なの素敵でしょ」

「ウェンディ俺からじゃなくてエルルからだぞ、」

「分かっているわ、でもアズビー家からの結納品よ、」

「ウェンディとても綺麗よ、

 ショーンさんお転婆な孫娘とこれからのメディアンを宜しくお願いしますね、」

と言われたショーンは老夫婦に頭を下げた後、

 「まだまだ未熟な二人ですがご指導ご鞭撻宜しくお願い致します、」

と挨拶をかえした。

 ウェンディの背後に控えていたイオが、

 「ウェンディさんそろそろお色直しに行きましょう、」

と小声で伝えるとウェンディはショーンに、

 「ショーン私着替えて来るからパーティーを始めていてね、

 ではお爺様お婆様少しだけ中座させて頂きますわ、」

 と頭を下げ、イオと侍女を連れウェンディは屋敷の中に入って行った。

 ウェンディ達を見送った老夫婦がショーンに、

 「ショーンさんあのウェンディの後ろにいらしたあの方は?」

「あの子は従兄弟のお弟子さんですよ、

 公爵家の使用人ですが、宮廷女官達の指導に当たられる位優秀なお方でどんな高位のお貴族様でもイオさんにお化粧や身なりを整えて貰う事なんてできませんよ、」

「何と!そんな方がウェンディの?」

「ええ、後ほど従兄弟をイオさんと共に紹介しましょう、

 辺境伯様や父達も到着したようですし、」





イオがウェンディの着替えを済ませ、花嫁衣装の専用ハンガーに衣装を掛けていると侍女がエルルを連れて入ってくる。

 「イオさん、ウェンディさんお疲れ様です、

 侍女さんのお話では玄関に服飾ギルドの偉い方達がお待ちの様なので先に衣装を片付けちゃいますね、」

と言ってハンガーに掛けてあったウェディングドレスにクリーンを掛け見事な化粧箱に片付けて行き、

 「ではこれを服飾ギルドの方々に渡して下さい、」

と侍女に大きな化粧箱を渡せば侍女は頭を下げかしこまりましたと箱を抱え部屋から出て行った。

 

 ウェンディはエルルとイオに、

 「エルル君イオさん今日はありがとう!一生忘れられない思い出が出来たわ!」

と笑顔でお礼を言うウェンディにぶんぶんと手をふり、

 「ショーンさんやウェンディさんに喜んで貰えて良かったです、

 教会前に集まってた方達ウェンディさんを見てびっくりしてましたよ、

  これ今日写した姿絵です、アルバムじゃなくて本にしてきました、

 これ僕からのプレゼントです、」

と言って大きなアルバムを渡す、

 本の表紙には教会の中で宣誓の誓いをする二人が写っていて、

 本の中にはウェンディ達の色々なシーンが見事に映し出されていた。

 「凄い!こんな素敵な姿絵見た事が無いわ!早く会場のお爺様達に見せてあげなくっちゃ!

 エルル君何から何までありがとう!

 わたしに出来る事があったら何でも話して頂戴!力にならせて!」

「喜んで貰えたみたいで良かったです、イオさん僕はこれからパーティーで屋台でも出そうかと思いますがイオさんは如何します?」

「私もお手伝いしますよ!直ぐに着替えて来ますね、」

「分かりました、じゃあ後ほど会場で、」




会場では親戚達がショーンを囲み料理を食べ盛り上がっていて、メディアン家の親族から、

 「これは異国の料理なのか?

 素晴らしい料理だ!どの店に注文したのだ?」

「料理だけじゃ無いこの酒もだ!

 おいヘンリー!一体如何なっているんだ、」

と親戚達がメディアン家の主人であるヘンリーに詰め寄っていた。

 

 「わぁ〜んドレスにソースがたれちゃったー!」

「ほらみなさい、だから食べる前に着替えなさいって言ったじゃない!

 まぁ、こんなにこれ落ちないわよ!」

と母親に言われ、わんわん泣き出した少女にウェンディと共に会場に入ってきたエルルが、

 「はい、大丈夫だよクリーン!」

と魔法をかければソースのシミが無かったかの様に綺麗になり、

 泣きじゃくっていた少女がエルルに、

 「綺麗なお姉ちゃんありがとう、

 ママお着替えさせてえ〜!」

と母親の所へ走って行き母親はエルルに頭を下げもう一人の少女達と屋敷の中に入って行った。

 会場に入って来たウェンディは直ぐに皆に囲まれ、

 ウェンディが持っていた見事な姿絵本に驚きの歓声が上がる、

 エルルの所にはエドモンドやアズビー家の者が集まりこちらもエルルが出した同じ姿絵本でわいわい盛り上がり、

 「じゃあジルおじさんイオさんも帰って来たから屋台も出しちゃいますよ!」

と言えばジルおじさんの奥さんやクレオさんの奥さんが目を輝かせ、

 「エルル様!それは前にイオさんが屋敷で作って下さったクレープですか?」

「ええ、僕とイオさんでデザートの屋台を出しますので何でも注文して下さいね、」

と言って庭の隅に屋台を二つ出し

 イオはクレープや雲飴にエルルはカキ氷とカクテル屋さんをだした。

 皆見慣れない屋台に最初は戸惑ったがアズビー家の女性達がイオの屋台に殺到したのを見ていたメディアン家の女性達も物珍しさとアズビー家の女性達がとても美味しそうに食べるのを見て自身も屋台にならび、そしてクレープの虜になる、

 そして着替えから帰ってきた少女達はイオから雲飴を貰い大人達に自慢して回った。

 

 エルルの屋台の前では男性達が集まり立ち飲み酒場の様になっている、

 最初はエド様が、

 「エルル何時ものアレを、」

とお気に入りのハイボールを頼めばジルおじさんやクレオさんも同じ物を注文をする、そこへショーンさんがメディアン家のヘンリーさん達を連れ合流し、

その後炭酸水で割ったお酒とスイーツでパーティは多いにもり上がった。



 エルルはイオと共にエドモンドを連れ辺境伯屋敷迄戻って来るとナタリアが、

 「ご苦労様エルル、結婚式は無事終わった見たいね、エドも大役お疲れ様」

「ああ、ただいまナタリー今日は新郎新婦を見守っていただけさ、

 とても美しい新婦だったよ、」

「そう、エルル早速母様の所で朝話した姿絵をみるのでしょ、」

「ええこれから帰ってお茶でも飲みながら結婚式の土産話でもしようかと、

 お母さんも行きますよね?」

「ええ待っていたもの、行って来るわねエド、」

「ああ、私はパーティーで少々飲み過ぎた様だから休んでいるよ、」

「分かったわ!じゃあエルル宜しくね、」



森の屋敷に帰って来たエルル達がお茶を飲みながらリリル達に姿絵本を見せるとリリルが、

 「ほう!こりゃあ美しいドレスじゃないかい!」

「そうですねリリル様でもこちらの子供達も可愛らしいですよ、」

と言うカレンにイオが、

 「教会前の広場が凄い事になってましたよ、ねえエルルさん、」

 「ええ、服飾ギルドにあらかじめ話を通して置いて良かったです、

 騒ぎにならない様対応して頂けました、

 明日から暫くギルドで衣装が展示されるそうですよ、

 先程ギルドのお偉い様方が早速メディアン家にいらして衣装を持っていかれましたから、」

 「ギルドはどんだけ力入れてんだい!」

「母様ギルドだけでなく貴族も直ぐに動き出すわよ、

 私は何を言われてもうちの者以外にエルルやイオを貸すきはないけど!」

と言うナタリアにエルルが、

 「式の時こっそり宰相閣下のご婦人と皇太子妃様に、私の時も宜しくお願いしますと、頼まれちゃいましたよ、」

「そうなの?可愛い甥っ子の式だものね、エルルその時は宜しくね、」

「私の孫の結婚式だからねぇ、私からもお願いするよ、」

「お母さん達、甥っ子と孫って皇太子様の結婚式じゃないですか、

 まあその時は王宮の裁縫士の方達と頑張りますよ、

 イオさんはまた介添え人をお願いしますね、」

と言えばイオは飲んでいたお茶を盛大にふきだした。






 おまけ


 「陛下イスタリアの王家から書状が届いております、」

「イスタリアからとはジオラフト絡みか?」

と書状を持って来た宰相に問えば、

 「おそらく、今年は大祭の年ですから、」

と宰相の話を聞きながらジュリアスは書状の封蝋を解き書状に目を通し顔をしかめる、

 「陛下、如何されました?」

「うむ、生誕祭の話ではあったが

今年の生誕祭に私達と共にアルクとエルルを招待したいと猊下から内々に打診があったと義弟殿からの連絡であった、」

 「生誕祭にアルクとエルルですか?」

「ああ、其方も知っておろうエルルが教会に白麦草の調理の仕方を教えたのを、」

「ええ、大神官殿から王庁を通して王家にも感謝が上がって来ておりますな、

 それと何でも教会に寄付をした者にお礼として渡している修道女達が作る菓子が大変人気だと聞いております、」

「おそらくそのあたりがジオラフトに伝わったのであろう、

 面倒な事にならぬと良いが、」

とジュリアスはもう一度顔をしかめた。





 

 


 

 

 



 



 



 

 


長くお休みを頂きました。

何時も不定期更新で申し訳ありません。

次回は特別編を予定しています。

 ありがとうございました。

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