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恥ずかしいので内緒にして下さい。

今年もよろしくお願い致します。

第五十八話



 恥ずかしいので内緒にして下さい。


 


 ゴースロ大使館の客間にロッティがエルルとパオラを連れて転移してくると部屋で待機していた職員がエルル達に頭を下げ部屋から出て行き直ぐにスカチフが部屋に入って来る。

 「スカチフ殿今戻りましたわ、」

とロッティがスカチフに声をかければスカチフはエルル達に頭を下げた後ロッティに向き直り、

 「ロッティ様ご首尾の方は?」

「まずまずよ、エルルさんにちゃんと指導して頂いたから早速陛下の治療を行ってみましょう、」

 「エルル様ありがとうございます、

 これで国中の目を患った者達を仕事に復帰させる事が出来ます、」

とスカチフはもう一度エルルに頭を下げ、ドワーフ族の男性らしい髭もじゃの顔を綻ばせているとロッティが、

 「スカチフ殿先ずは陛下で私の術を試してからよ、」

「ロッティ様!陛下で試すなどと、」

「ふふふ、ナイショよスカチフ殿、

で陛下はどちらに?」

「陛下は妃様達と共にもう直ぐ王城から戻られると近衛から先触れがありました、

 皆様今お茶の用意をさせますのでお座りになってくつろいでお待ち下さい、」

と来客用のソファーに座る様に勧めるスカチフにエルルが、

 「大使様未だお時間がある様でしたら私は厨房の皆さんを手伝いに行きたいのですが?」

と言うエルルにスカチフは頭をかきながら、

 「宜しいのですか、実は料理人達からエルル様は未だか未だかと催促されておりまして、」

と恥ずかしそうに打ち明けるスカチフにエルルが、

 「先日料理人の方々と打ち合わせをした時にレシピをお渡しして下準備までお願いしていましたから早速お手伝いに行ってきますね、」

と言ってエルルが部屋から出て行こうとするとロッティが、

 「エルルさん先程のケーキを出して頂けるかしら?」

と言われたエルルはホールケーキを出し、

 「すいません忘れる所でした、

 で聖女様今魔法で凍らせてありますが解凍した方が宜しいですか?

 今の時期なら二刻程で自然に食べられる様になりますが?」

 「エルルさん残ったケーキにまた魔法を掛けて頂く事は出来ますの?」

「ええ大丈夫ですが解凍してからお時間が経った物はおススメしません、

 宜しかったら今召し上がる分だけ切り分け解凍致しましょうか?」

 「ええ、お願い出来るかしら残りはそのまま私の魔法袋で保管します、」

 とシスター服のポケットから袋を取り出す、

 「わっ!魔法の袋ですか、見せて頂いても?」

「ええ、構いませんわよ、」

と袋を手渡されたエルルは眼鏡をかけ袋を鑑定すれば、

  

 魔法の袋大 ダンジョンの秘宝・大型倉庫位の収納が出来る・時間経過しない・使用者限定の付与魔法付き・


 エルルは袋をロッティに返し、

 「聖女様大変貴重な物を見せて頂きお勉強になりましたありがとうございました。

 でも使用者制限の魔法には驚きましたよ、」

と言いながら凍ったままのホールケーキを取り出し美しいケーキナイフでケーキをカットし白磁の皿の上に乗せる、

 ロッティはエルルの言葉に驚き、

 「エルルさんは良い眼をお持ちの様ね、鑑定が出来る者でも後付けの魔法に気付いた者は居ませんでしたわ、」

エルルはケーキの乗った皿に銀のフォークを添えロッティの前に出しながら、

 「聖女様、魔法を付与された方を教えて頂いても?」

「構いませんわ、私の前に聖女をしていらしたセレス様ですわ、

次にお会いした時にエルルさんの事を伝えておきますわね、

 あとパオラの分のケーキもカットして下さい、」

 と言うロッティにパオラが、

 「ロッティ様私もケーキを頂きましたのでお気遣いは無用です、」

「あら貴女後で聖女様の所へお裾分けに行くのでしょ?

 ちゃんと自分の分を確保してから行かないと彼方で皆に食べられてしまうわよ、

 貴女の頂いたケーキも多分同じ物だと思うのだけど二人で味見してみましょうよ、エルルさんお願いしますわ、

 後私達は二人共ただのシスターですので私の事はロッティでパオラの事も名前で呼んであげて下さいね、」

 「承りましたロッティ様、パオラ様のお土産はお帰りの時にお渡しすれば良いですか?」

「宜しくお願いします先生、」

「パオラ様先生は勘弁して下さい、」

 「いえ、私は先生からもっと多くの事を学ばせて頂きたいのでこれからも是非エルル先生と呼ばせて下さいませ、エルル先生!」

 と笑顔のパオラに、

 「もう!未来の聖女様から先生なんて呼ばれていたら恥ずかしいじゃないですか!」

と言いながら赤い顔をしたエルルは逃げる様に部屋から出て行った。



 エルルが大使館の厨房に顔を出すと少女に見えるドワーフ族の女性料理人が集まって来て割烹着の様な服を着ている料理人達がエルルには保育園の園児の様に見え可愛らしさに思わず顔が緩んでしまう、

 ただ見た目は少女の様に見えるのだが実際はかなりのよい歳の女性達なのだが、

 その中、先日料理長だと紹介された女性が顔を輝かせ、

 「お待ちしていましたエルル様、

 食材の下拵えは終わっています、

 あと例のお肉も本国から届いていますよ、」

 と大きな木箱をぽんぽんと小さな手で叩く、

「間に合ったのですね!この国では手に入らない魔物のお肉ですので殿下にお話を聞いた時から楽しみにしていたんですよ!」

「エルル様ゴースロでは一般的な食材で香辛料を塗して焼く事が多いですね、」

「早速見せて頂いても?」

とエルルが言えば料理長は大きな木箱を軽々持ち上げ作業台の上に置き中から大きな肉の塊を取り出す、

 「わっ!凄く美味しそうなお肉ですね!コカトリスってやっぱり鶏肉の様なお味なんですか?」

「そうですね、鶏肉と比べると少し癖がありますね、

 まあその癖が良いと言う者が多いですが、」

「料理長様今此処で少し焼いて食べても宜しいでしょうか?

 料理を作る前に食感や癖を確かめてみたいのです、」

「はい、ご自由に厨房をお使い下さい、私達も調理の準備に入りますのでご指示を宜しくお願い致します、

では先にお肉を切り分けますね、」

 と大きな肉の塊から肉を切り落としエルルに渡せばエルルは肉を適当な大きさに切り分け自身で取り出した串に肉を刺して行く、

 そして炭火のコンロを用意すると同時に料理人達に細かく料理の指示も出して行く、

 炭火が熾ると網の上で串に刺さった肉を軽く焼き目を入れた後、秘伝のタレを塗りもう一度網の上に乗せる、

 すると厨房中にタレの焦げる匂いが広がり周りで調理していた者の手が止まり網の上で焼かれる肉に釘付けになる、

 

 エルルは網の上から焼き鳥風の串を取り、ふぅ〜ふぅ〜と冷ました後お肉を齧る、

 めちゃくちゃ美味しい!前世の高級地鶏より美味しいかも!

 と串からお肉を食べていると周りからの刺すような視線に気づき思わず、

 「みっ皆さんも召し上がってみますか?」

と言葉が出ていた。


 


 「ロッティ様このケーキも至高のお菓子ですね、

 公爵家で頂いたケーキと甲乙付け難い美味しさですよ、

 やはり貴族夫人方の情報は間違えなかったようです、」

「ええ、最近はどの国の菓子店も色々なケーキを売り出しているみたいですがやはり頂いたケーキとは別物ね、

 確かこのケーキの名前は、」

「箱にミルクレープと書いてありましたよ、この何層にも重ねられたクリームがたまりませんね、」

「パオラ先程も言いましたが本山へのお土産は自分達の分を確保してからにしなさいね、

 これは間違いなく彼方で取り合いになるわよ、」


 と話をしている部屋の中にノックと共に女官が、

 「ロッティ様、皇太子妃殿下がお見えです、」

「良いわ、入って頂いて、」

とロッティが告げるより早くマルティンが入って来て、

 「伯母上がお戻りと言う事はエルルが来てくれたのでしょう!でエルルは?」

と部屋の中をきょろきょろと見渡す、

 「あらあら、皇太子妃殿下ともあろう方がはしたないわよ、

 エルルさんは厨房で食事会の準備を手伝っていらっしゃるわ、

 後こちらは私の同僚のシスターパオラ、

 ジオラフトからこの国に派遣されている優秀なシスターよ、」

とロッティに紹介されたパオラは立ち上がりマルティンに教会式の礼をする、

 「マルティンですわ、シスターパオラ」

「マルティンもう直ぐ陛下達がお戻りになられるそうよ、

私達は陛下がお戻り次第陛下の治療に入ります、」

「では伯母上達もエルルの様に鍛治師病の治療が出来る様になられたのですか?」

「ええ、指導はして頂いたからこれから陛下で試してみるわ、」

「まぁ!伯母上陛下でお試しになるなんて、」

ロッティはぷっ!と吹き出し、

 「マルティン先程スカチフ殿にも同じ事を言われたわ、」

「で伯母上先程から気になっていたのですがその机の上のケーキは見た事が無いのですが?」

マルティンは少し自慢気に、

 「公爵家のお土産として頂いた物よ、エルルさんはホールケーキと呼んでらしたかしら、

 カットする前のケーキを丸ごと頂いたのよ、」

 マルティンは驚き、

 「カットする前のケーキ丸ごとですか!羨ましいですわ!

 伯母上勿論私にも食べさせて頂けるのでしょう?」

「ええ、ただ今は凍らせた状態だから次回のお楽しみにして頂戴、」

「そっ、そんなぁ〜」

「マルティン大丈夫よきっとエルルさんが食事会で美味しい物を沢山食べさせて下さいますわ、」





厨房で作業をしていたエルルが料理長に

 「そう言えば大使館の厨房には女性の料理人の方しかいませんね、」

と尋ねると、

 料理長と周りで聞いていた料理人達が笑いながら、

 「エルル様ドワーフ族の男で料理人は居ないとは言いませんが滅多にいませんよ、

 あんな呑助達が料理屋なんて開いたら直ぐ店が潰れてしまいますわ、」

「えっ!それは何故です?」

「店の酒や料理を我慢出来ず自分達で食べてしまうからですわ、」

と言って料理人皆で笑い出しそんな所に、

 「これはまた我等の悪口かな料理長、」

と言ってパスカトフが圧力鍋を抱えて入ってくる、

 「いえいえ殿下、ドワーフ族の女性の素晴らしさをエルル様にお伝えしていた所ですわ、」

パスカトフは半目で、

 「まぁ良いが追加注文の鍋が丁度出来上がったのでな、」

と圧力鍋をエルルに手渡す、

 「殿下ありがとうございます、

 いつ見ても殿下のお仕事は丁寧ですね直ぐお代をお支払いします、」

 と言うエルルを手で止め、

「エルル代金の代わりにこの鍋と同等の酒を譲ってくれぬか、」

 「殿下僕いえ、私はかまいませんがお代をお酒に変えて良いのですか?」

「ああ、構わん元々儂の小遣い稼ぎの様な仕事だからな、」

「ではこちらのお酒では如何ですか?

 甘笹から作ったお酒でうちではラム酒と呼んでいます、

 美味しさの割にお手頃なお酒ですのでこの小樽と交換で如何でしょう、

 試飲する事も出来ますが、」

「おお!樽とはありがたい!勿論試飲もさせてくれ、」

とパスカトフが応えればエルルは直ぐにショットグラスを出し樽の栓を抜き琥珀色の酒を少しだけ注ぐ、

 パスカトフはエルルに渡されたショットグラスをきゅっと呷ると、

 「美味いっ!のうエルル、其方の酒は我等の火酒とは違い琥珀の様な美しい色で味わい深いのお、」

エルルはパスカトフの感想に、

 この世界のドワーフが作る火酒はアルコールに近いウオッカの様な物だったなと、

 「殿下私の酒はギルドから製法が公開されている蒸留酒に少し手を加えた物です、

 蒸留した酒をこの様な樽の中で何年も寝かせて作ります、

 琥珀色になるのは酒を入れる前に樽の内側が軽く焼いてあるからですね、」

「むむむ、作った酒を寝かせるか、

 我等ドワーフの酒職人には難しいかのう、

 酒を作って飲まずにおるのはドワーフには酷じゃ、」

 と髭もじゃの顔をしかめるパスカトフにエルルはぷっと吹き出し、

 「ドワーフ族の方々は皆さんお酒がお好きですからね、

 では殿下この鍋の代金はこちらの酒で宜しいでしょうか?」

「勿論じゃ、もう返さんからの!

 あと先程から香ばしい良い香りがしておるが料理長何の匂いじゃ?」

と言いながら樽を抱える、

 「殿下この匂いは先程エルル様がコカトリスの肉を焼かれた時の香りでございます、」

「おお、先日エルルから頼まれていた肉が国から届いたのだな、

 それにしても良い香りじゃ、エルル儂にその焼いた肉を食べさせてくれぬかの?」

「今晩の食事会の時にお出し致しますよ、

 今は陛下がお戻りになる前にある程度支度をしていた所です、」

「であるか、ま仕方ないのぉ、噂をすればほれ!」

と言った所で大使館の職員が厨房に入って来くるとパスカトフを見て、

 「こちらにいらしたのですね殿下、エルル様陛下がお戻りになられました!」

 「では直ぐに!料理長後を宜しくお願い致します、」

と言いながらエルルは着けていたエプロンを外し料理長にぺこりと頭を下げる、

「はい、後はお任せ下さいエルル様、」

 と料理長が返せば厨房からパスカトフと共に出で行くエルルに他の料理人達もお任せ下さいと頭をさげた。

 


 

エルルがパスカトフと共にドルトカトフが待つ部屋に入ると既にロッティやパオラ達の他にも王妃クリスティンと側妃達にマルティンとスカチフが大きなテーブルを囲み座っていて、

 入って来たパスカトフにドルトカトフが、

 「パスカトフそちらがオラリウス殿の甥子殿か?」

「そうです父上、」

  とパスカトフがエルルの方を見ればエルルは片膝を付き頭をさげ、

 「エルル・ルコルと申します、」

「ゴースロ王ドルトカトフじゃ、

 息子の目を治療してくれたそうじゃのう親として其方に感謝を、

 してルコルとは其方はブリネンの貴族家所縁の者か?」

 「はい、祖父が他界した後祖父はブリネンのルコル家の出身だったととあるお方からお聞きいたしました、」

「さようか、ん、すまんすまん儂も目を患っておってな、

 恩人に膝を着かせておったとは、

 パスカトフ気を利かせんか!

 さあ座られるが良い、」

と言われたエルルは大使館の職員が引いた椅子に座り、

 「陛下ありがとうございます、

 私の事はエルルとお呼び下さい、」

「であるか、ではエルル聖女から先に話をきいたのだが聖女も鍛治師病が治せる様になったので儂の目を癒やしたいと言っておるが、」

「はい、ロッティ様とパオラ様には陛下が患っていらっしゃる病を説明させて頂き治癒魔法を練習して頂きました、

 」

「うむ、では聖女よ早速儂のめを治療してくれるか、」

「まぁ陛下先程はエルルさんが来るまで待てと言ってらしたのに、

 それと陛下今の私は聖女ではありませんわ、

 それでは早速治癒魔法を使わせて頂きますわ、エルルさんおかしな所があればその都度指摘して下さいませ、」

と言ってロッティはドルトカトフの前まで来ると眼鏡をかけたエルルもロッティの隣に立つ、

エルルが頷くのを確認したロッティは小さな両手をドルトカトフの目にかざし聖句に似た詠唱を始める、

 するとロッティの掌から光が漏れ出しドルトカトフの前頭部を包む、

 集中しているのか目を閉じているロッティの肩にエルルがそっと手を添え、

 「ロッティ様もう充分かと、」

「もうよいの?」

「はい、やはりロッティ様の治癒魔法は効果が高く何より美しいです、陛下の目も完治しているかと、」

「ではもう目を開けても良いのじゃな、」

「はい陛下、ゆっくり目を開いて下さいませ、」

ドルトカトフはゆっくりめを開け周りを見渡すと、

「みっ、見える!何時も曇っておった視界が今は鮮明に写っておる!こんなに妃や妻達の顔をはっきり見たのはいつぶりかの、」

「そうですかそれは良かったですわ陛下」

「流石は国一の治癒師じゃ!しかしエルル、ロッティは何故鍛治師病が治せる様になった?」

 「陛下治癒魔法は人々を癒す素晴らしい魔法でございますがその魔法を行使する者が患っている所の状態を的確に理解せずに魔法を使っても魔法任せでは良い効果は望めません、

 今回ロッティ様やパオラ様には陛下の目の中の状態を詳しく説明いたしました、

 治癒魔法を行使された時に陛下の目の病を治すイメージが出来たからだと思います、」

「であるか、ロッティよエルルから学んだ事を国の治癒師達に伝える事は出来そうであるか?」

ドルトカトフの言葉にロッティは肩をすくめ、

 「陛下エルルさんから聞いた医術的な説明はほとんど異国の言葉を聞いている様で正直に申し上げて殆ど理解出来ませんでしたわただ、」

と言ってロッティは講義の時に渡されたガラス玉をドルトカトフに見せ、

 「こちらのガラス玉を使って説明して頂いた事は医の心得の無い我々にとっても分かりやすく陛下の目の中の病状を理解する事が出来ましたわ、

 この方法でしたら国の治癒師達に鍛治師病の治療法を伝える事は出来るでしょう、」

「陛下私からもお一つ、」

「うむ、エルルなにか?」

「はい、この病は仕組みさえ分かってしまえばさほど難しい治療ではないと考えていますが、

 治癒師の方々にもロッティ様の様な卓越した御力を持つ方から、未だ修行途中の方もいらっしゃると思います、

 その方々がロッティ様の様に瞬時に目の病を治す事は難しいと思いますが、

 一度ではなく患者さんに通って頂き治癒を重ねる事で間違い無く陛下の様に完治すると思われます、」

 

 エルルの言葉を目を閉じて聞いていたドルトカトフは椅子から立ち上がりエルルに向かい頭を下げ、

 「エルル、国の恩人たる其方に千万の感謝を、」

エルルは頭を下げるドルトカトフに慌てて、」

「陛下、お辞め下さい!私は知っていた事をロッティ様にお伝えしただけでございます、」

  

 (知っていたと、)と小声で呟いたドルトカトフが真剣な眼差しでエルルを見つめ、

 「エルル恩人たる其方にこの様な事を尋ねる事を許してくれ、

 其方その知識を何処で得た?

 いや!話したく無いのであれば構わん、」

「父上っ!いくら父上でも儂の恩人でもあるエルルにその様な問い方は礼を欠いておりますぞ!」

と怒るパスカトフにエルルは手を胸にあて頭を下げ、

 「殿下良いのです、いずれ誰かに問われる事でしょう、

 ただ陛下私が正直に話したとしても皆様に理解して頂けるか分かりません、

 あとこれから話す事を口外しないとお約束頂けるならお話し致しましょう、」

 ドルトカトフは椅子に座り直し、

 「妃よ、妻達を連れて下がれ、ロッティ其方達もだ、」

ドルトカトフの有無を言わさぬ態度に、

 妃クリスティンは

 「あら陛下は私や妻達家族の事がお信じになれないのですか?」

「そうではない、この話は危うい特にロッティ其方達は聞いてはならぬ!」

「陛下それは陛下のお決めになる事ではなく、エルルさんが決める事ですわ、

 私達はエルルさんが話せないと言われるのでしたら勿論お聞きしませんしお聞きした事はお使えする女神フィーネス様に誓って他言致しませんわ、」

と言うロッティがパオラを見ればパオラも直ぐに頷いた。

 

 静まり返る部屋の中エルルが居心地悪そうに、

 「あっ、あの皆様そんな大した事じゃ無いですので、

 こんな事言って恥ずかしいって事位ですから他言無用だとお願いしてるだけなんです、」

と場の空気にはらはらしているエルルにドルトカトフが、

 「エルルすまぬ気を使わせておるな、

 この様な気質な我等を許してくれ、

其方の様な美しい童の前で恥ずかしい限りじゃ、

 皆の言い分は分かったただこれからエルルに聞いた事を他言する事は儂が許さぬ!良いな、」

とドルトカトフは回りの者達を皆座らせた後近衛と職員達を部屋から下がらせた。



 そしてエルルは恥ずかしそうに語りだした。

 「この話を祖父母以外にするのは初めてなのですが、

 私は幼き時よりよく夢をみたのです、

 私に良く似た者が異国でいえ、この世界ではない所で学んでいるのです、

 まるで私がその世界で学んでいる様に、

 幼き私はその日見た夢を祖父母に話しその知識が祖父母に無い事を知りました、

 その夢は私に似た者が成人する迄続いたのです、

 細かな所はお話し出来ませんが私の知識は全てその夢からの物なのです、

 少し前までは私には前世の記憶が残っていてその経験を夢に見ていたのだと思っていましたが、最近では夢の中の人物と自身は別人だと思っています。

 詳しくお話し出来ませんが正に夢の様なお話しで恥ずかしいので誰にも言わないで下さいね、」

と言うエルルに目を閉じ聞き入っていたドルトカトフが、

 「なるほど其方は託された者であろうな、

 エルルもう何も聞かぬ、ただ困った事が有れば必ず儂を頼れ!良いな、

 スカチフ例の物を、」

と部屋の末席にいたスカチフに声を掛ければスカチフは部屋から出て行き長い箱を抱えて入って来る、

 ドルトカトフはスカチフから箱を受け取ると、

 「エルルこれは儂からの感謝の気持ちじゃ受け取ってくれ、」

とドルトカトフから手渡された箱を見たエルルが、

 「ありがとうございます陛下、箱の中を拝見しても宜しいでしょうか?」

「ああかまわぬ、」

と了解をとったエルルが箱を開け、

 高価そうな布の中に収まっていた見事な剣を取り出す、

 

 

 ・名匠によって打たれたドワーフの宝剣・アダマンタイト製の未完成品・使用者の魔法付与によって完成された剣として生み出される・


「こっこれ陛下アダマンタイト製なんですけど、この様な希少金属を使用した宝剣を頂いても宜しいのですか?

 てっ手が震えるんですが、」

と驚いてビビりまくるエルルを見てドルトカトフは笑いながら、

 「中々の目利きじゃの、良い良い儂が鍛えた剣じゃ気にするでない、

 其方あの跳ねっ返りのエルフの剣姫に勝ったそうではないか、

 目の治った儂にその腕を見せてくれぬか?」

パスカトフも、

 「おお儂もラン殿に勝ったと言うその腕を見てみたいの!」

マルティンがまるで自分の事を自慢する様に、

 「当たり前ですわ!なんと言ってもエルルは当代の剣聖様ですわ!」


 みんな何言っちゃってるの?こんな凄い剣振った事ないよ!怖いよ!

 

 「皇太子妃様私は剣より魔法の方が得意でして、

 失敗しても笑わないで下さいよ、」

とエルルが言えばパスカトフとマルティンが夫婦で吹き出す、

 

 そんな二人をジト目で見たエルルが眼鏡を外し剣を持ち部屋の空いている所迄来ると皆の方にくるりと向き直り剣士の様に挨拶をする、

 そして見事な剣舞を舞う、

 ただ美しいだけではなくエルルの握った剣は始めは稲妻がほとばしり風を纏ったかと思えば剣先が霧に隠れ最後には青白い炎に包まれる、

 皆がその美しい剣舞にエルルが剣を納めても暫くみな惚けていた。


 「素晴らしい剣舞であったその剣も其方の手の中で喜んでおる事であろう、

 エルルよ儂の剣を完成させよったな、」

「父上完成とは?」

「なにその剣は使う者が魔法を付与して完成する魔法剣じゃ、

 ただ魔法剣で多いミスリルとは違いアダマンタイトに魔法を付与するのは並の魔術師には無理じゃな、

 ましてや剣士でこの剣に魔法を付与出来る者などおるまい、」

「父上それは欠陥品では?」

「なんじゃと!!」

「あなた!お客様の前よ、

 ごめんなさいね、ドワーフの男達は皆頑固で怒りっぽいのよ、

 私はドルトカトフの正妻のクリスティンよ、

 息子とマルティンがお世話になっているそうね、」

「いえ、殿下には何時も私の我儘に付き合って頂いています、

 あっ!そうだいえすいません、 

 陛下に頂きっぱなしと言うのも何ですのでお返しではありませんが、

 こちらをお受け取り下さい、」

と言ってエルルは刀を取り出す、

 その刀の柄や鞘は見事に装飾され、

 紅の鞘に桜の様な花が描かれている。

 刀を見た男達の目つきが変わり、

 「ほう、異国の木剣か?工芸品の様だが、」

とドルトカトフとパスカトフが同時に手を伸ばすがそれより早くクリスティンの小さな手が刀に伸び、

 「美しい剣ですわ、

 いえ!これは木剣では無いわ!」

と鞘から刀を抜きその美しい刀身にうっとりしながら目にも留まらぬ速さで刀を一振りすれば刀身から花びらが散るような優雅な効果が表れ、

 「気に入りましたわ!ありがとうエルルさん!大切にいたしますわ、」

「待て待て待て、妃よその剣は儂がエルルから貰った物だぞ!」

「何を言ってらっしゃるの!貴方方の様な強面の顔にはこの美しい細身の剣は似合いませんわ、

 エルルさん私こう見えても剣には一家言有りましてよ、」

「妃様その剣は刀と言いまして剣とはまた違った取り扱いの武器になります、

 」

「エルルさん私の事はクリスティンよ、クリスと呼んで頂戴!」

「きっ妃よ儂にも早うその刀とやらを見せてくれ、」

「母上わたしにも!」

「いやですわ!私の愛刀に触らないで下さいまし、」

と刀を鞘から少しだけ引き抜きわざとチンッ!と音を立てて鞘にもどした。


 そんな部屋の中に職員が入って来てスカチフに耳打ちをする。


 「陛下お食事の用意が整った様でございます、」

「おお!そうであった今日の料理はエルルが手を貸してくれたのであろ、

 オラリウス殿から羨ましいと言われたわ、」

「はい、少しだけお手伝いさせて頂きました、殿下に作って頂いた鍋を使った料理などをお楽しみ下さい、」

 


 エルルがドルトカトフと入った部屋には立食パーティーの様に料理が並べられていてスカチフが、

 「エルル様本日はドワーフ式の立食会になっておりますので沢山食べていって下さいませ、

 といいましても殆どエルル様に教えて頂いた料理ばかりだと料理長から聞いていますが、」

ドルトカトフや妃達が、

 「おお、見たこともない料理が並んでおるの、

 なんじゃパスカトフ其方儂を差し置いて既に酒を飲んでおるのか!」

「父上酒は早い物勝ちですぞ、

 儂はこの芋から作ったと言う焼酎に凝ってましてな、」

「そう言えば其方先程小樽を持っておったな、あれは何じゃ?」

「あの酒はエルルから儂が鍋の代金変わりに貰った酒ですわい!父上には分けませんぞ、」

「其方のそう言う所は妃そっくりじゃ!」


 と二人で言い合っていると女性陣はエルルを囲んでコカトリスのフライドチキン風を食べ盛り上がっている。

 「これがあのコカトリスですって!なんて柔らかくなっているの!」

「柔らかさだけでは無くてこの衣も美味しいわ!」

テンションが高い女性陣にエルルが、

 「このお肉は殿下に作って頂いた鍋を使っているのです、

 彼方のオークのシチューも絶品ですよ、」

「エルルオークのお肉はただでさえ硬いのに煮込んだらさらに硬くなっちゃうんじゃない?」

「見て下さいあのロッティ様をオーク肉のシチューを美味しそうに食べていらっしゃいます、」


「パオラこれオークの肉ですって、

 信じられる?口の中でとろけるわよ、」

「お肉も美味しいですが、このシチューと言うスープのお味も最高です、

料理人の方にレシピをお聞きして教会でも食べられる様にしたいですね、」

「そうね、今日の料理高い食材などを使わず誰でも手に入れられる様な食材で作られている所が凄いわ、」


そこに料理人がコカトリスの串焼きを皿に乗せて運んで来て、

「あらこちらはまた良い匂いね、」

「串焼きなんて私達らしい料理ね、」

「この串焼きも最高よ、」

「ああ、今日のお城で頂いた飲み物があったら良いのに、」

といった側妃にエルルが、

  「お食事中なのでクリームは乗っていませんが、山房の実の炭酸ジュースです、」

女性陣がエルルから炭酸ジュースを貰っているとパオラが、

 「エルル先生この弾ける水はどうやって作っているのです?」

「パオラ様一応ギルドから炭酸水の作り方のレシピが公開されていますが、

少し難しい魔法が必要だったと覚えています、

 ご興味があったら一度ギルドで調べて見て下さい、

 もう一つは炭酸水が湧き出している場所があるのです、

 その場所に行けば誰でもどれだけでも汲んで来る事が出来ますが、

 S級冒険者の方でないと行く事が出来ない場所ですので依頼をギルドに出す事になりますが、目が飛び出る様な金額になると思います、」

パオラは微妙な顔をしながら、

「それは何方も難しそうですね、一応ギルドで調べてみる事にします、」


 「これ!エルル女共と話してばかりおらず我等と酒の話でもしようではないか!」

「父上エルルから今日の為に譲って貰った貴重な酒を!」

「何を言う!我等の目が治ったこの良き日に無粋な事を吐かすでない!

 この様に美味い飯と美味い酒最高の気分だわい、

 これも全てエルル其方のおかげじゃ、改めて礼を言わせてくれ、」

 エルルが言葉を返そうとすればその言葉は料理人達が運んで来た大きなホールケーキを見た女性達の歓喜の悲鳴でかき消されてしまうのであった。


 




 おまけ

 お正月特別編



 ここはエルル達が住む世界の神域、

 今この世界の女神であるフィーネスの留守を預かる大天使が水鏡に映るエルルを愛しそうに目を細め見つめている。

 そんな大天使の背後からエルルに良く似た黒髪の神使が声をかける、

 「御子様はお元気そうですね、」

大天使は振り向き黒髪の神使に、

 「命様のお使いに御座いますか癒々殿、」

「はい、フィーネス様にも御子様の事をお願いと、」

「御子様はとてもお元気ですわ、先日初めてお話しをさせて頂きました、

 見た目は癒々殿に良く似ていらっしゃいますがやはり物腰が命様にとても似ていらっしゃいました、」

「天使長殿私の眉は命様の様な形ではありませんよ、」

「ふふ、あの眉は母神でいらっしゃるフィーネス様のお気に入りですから、」

「でしたらお二人とも私などに似せず命様の様なイケメンになされば良いのに、」

「私は御子様が可愛らしくて仕方ありませんが、」

「私には御子様が私の様に見た目でご苦労なさる未来しか見えませんが、」

「まぁ、癒々殿は御子様の次に美しいですわよ、」

「天使長まで!」

「そうそう、御子様は例の異世界転生物でしたかあの設定、」

「私が命様達にあの様な厨二チックな設定をお作りになるのはどうかと何度も申し上げましたに、」

「そちらの世界では流行っているそうですわね、御子様もこの記憶が自身の物では無いと気付いていらっしゃいましたよ、」

「良かった、御子様が流行りの物語の主人公の様に厨二病をこじらせてしまっていたらどうしようかと思っていましたよ、

まぁ前世の記憶からなんて確かに便利なチート知識ですが、大半の知識は命様の記憶から創られていますから、

 命様とフィーネスさまには御子様のお役にたっていますとお伝え致しましょう、」

 「あらもうお帰りになるのですか?」

「天使長殿私は今仕事中ですよ、

 あっと忘れないうちに、フィーネス様から今度命様のご家族をこっそり下界に降ろして頂戴とことづかっています、」

天使長はため息を一つ吐いた後、

 「フィーネス様に承りましたとお伝え下さい、」

 



天使長は癒々を見送ると、

 御子様の家にはユユと言うペットがいますよと癒々殿には言えませんでしたねと苦笑しながらもう一度水鏡を覗く、

 そこには自身の末の妹になる少女がエルルの家の厨房で鼻歌を歌いながらお菓子を作っている姿が映っていた。

 


 



 

 

 

 





 


 




 

 


 


 

 


 


ありがとうございました。

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