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特別編

今年もよろしくお願い致します。

特別編 


 

     秘書のお仕事


 オーライドにあるギルド庁舎の朝は早い、

 今朝も沢山のギルド職員が庁舎に向かう石畳の道を歩く姿が見えそんな中一人の女性が足早に庁舎を目指している、

 彼女の名前はクロネ、王立学園の商業科を主席で卒業後ギルド上級職員採用試験をパスして入庁し、今は統括理事付きの秘書の一人だ、

 多忙を極める統括理事を四人の秘書が補佐をしてクロネは主に商業ギルドを担当していた。

 クロネ達秘書の仕事は統括が決済する書類をまとめ決済された案件を上げて来た各ギルドの事務方に戻す仕事をこなしている、

 右から左への簡単なお仕事と思われているが、

 上がって来る書類は誤字や脱字に記入漏れなどもあり、その都度各ギルドまで書類を戻さなければならない思いの外大変な仕事である。

 他にも統括の視察に同行したり、

 オーライドの大賢者と名高い統括の特許申請を代行したりもする。


 足早に歩くクロネの肩がポンと叩かれ、

 「おはようクロネ、」

と先輩秘書のシエンナが声をかける、

 「おはようございますシエンナ先輩、」

 と挨拶をしながら二人は庁舎の裏手にある職員専用の入り口から建物に入り入り口に備え付けられた魔石に魔力を流す、

  これはこの世界の出勤簿で皆出勤して来た者が代わる代わる魔力を流していく、

 クロネ達が統括理事の執務室と繋がる秘書室に入れば既に同僚の二人も出勤していて気軽に挨拶を交わし合う、

 「クロネ今日の統括の予定を、」

「はい、今日決済して頂く案件は昨日統括に渡してあります、

 あと本日はブルボーン男爵様と建築ギルドのギルドマスターとの面会予定が午前に入っています、

 午後からはギルガス公爵家の方との打ち合わせになっていますね、」

予定を聞いた秘書達から、

 「またあの可愛い執事君かしら、

 あの子何時もすっごく美味しいお菓子のお土産を私達にくれるのよね、」

「あんな美味しいお菓子を売っているお店を王都で見た事が無いわ、」

秘書筆頭のシエンナが、

 「こらっ!貴女達お土産の事は統括から他言しない様にと言われているでしょ、」

「シエンナ先輩この部屋には私達しかいませんよ、」

秘書達が書類の準備をしながら話していると隣りの統括理事の部屋の扉が閉まる音が聞こえる、

 同時にシエンナが秘書室から理事の執務室に繋がる扉をノックすると直ぐに返事が聞こえて秘書達が皆統括の執務室に入って行く、

 「おはようございます統括、」

と並んで挨拶をすれば統括理事のジル・アズビー騎士爵はお気に入りの鞄を机の上に置きながら、

 「おはよう、今日も宜しく頼むよ、

 昨日預かった書類は出来ている、

 あとクロネ君また何時もの書類を特許局に提出してくれ、」

と統括からの指示にクロネや秘書達はそれぞれ書類を受け取り頭を下げて秘書室に戻り各自の机で書類を確認する、

 

 クロネに渡されたのは美しい文字で書かれた書類と精密な魔導具の図面で、

 これ私には理解出来ないわねと思いながらクロネは書類を持って庁舎の階下にある特許局の窓口に向かう、

 窓口には未だ時間が早いため訪問者はおらず、魔導技師が魔導具のメンテナンスを行っている、

 「おはようございますトムさん、」

と声をかけられた眼鏡の男が振り返り、

 「おはようクロネちゃん、

 クロネちゃんがここに来るって事は大賢者様のお使いだな、」

「はい、こちらの書類の審査をお願いします、」

「分かった、おっ!今日も多いな、」

と言いながらスキャナーの様な魔導具に書類を一枚一枚乗せて行く、

 すると全ての書類に承認の魔導印が打たれ、

 「相変わらず大賢者様の書類は凄いな、俺は騎士爵様が商業ギルドのギルマスだった頃からの付き合いだが、

 申請した書類が不認可になった事は一度もない、

 クロネちゃんこの特許局に持ち込まれる書類はどの位認可されると思う?」

「さあ?簡単な事では無いと思うので三割位でしょうか、」

「いや毎日そこそこの数の申請があるけど、最近この庁舎での認可は統括を除けばこちらも賢者と名高いパルボ子爵様の特許だけだよ、」

 「トムさん、私庁舎に入ってからずっと疑問に思っていたのですが、

 トムさん達が管理している魔導端末は何処のギルド共繋がっていて常に情報を共有しているのですよね、

 この様な大規模な通信網と言ったら良いのか分かりませんが魔導具は何方が作られたのですか?

 それに特許などの審査が瞬時に行えるなんて、」

「クロネちゃんも不思議に思うよね、

 俺達魔導技師にも分からないんだ、

 でこのギルドを管理するこの魔導具を作ったのはグレース女史と言う方でギルドの母と呼ばれ初代ギルドマスターであったと言われているね、

 でそのグレース女史が国中にギルドの支部を作って行き各ギルドの所属者を血と魔力で登録して行って管理を始めたと伝わっているね、

 でもう一つ不思議な事はこのグレース女史に付いてなんだけど、

 オーライド以外の国でもギルドを作ったのはどの国でもグレース女史と伝わっているんだ、

 俺達魔導技師の中ではグレース女史は天使様だったと言う伝説を信じている者が多いな、

 このギルドを管理している魔導具も使う事は出来ても創り出す事は出来ないからね、

 おっと、ごめんごめん話が長くなってしまったな、

 今回の特許も全て特許権を放棄なさっているので書類は何時もの様に特許局が保管しておくよ、

 本当だったらその魔導具に魔力を流して貰らう事で特許使用料の一部がギルドカードに入金される仕組みなんだけどね、」

 と話しながら書類をまとめるトムに、

「そんな逸話があったんですね、

 お勉強になりましたありがとうございます、」

と言いクロネは手を振る技師に頭を下げ秘書室に戻って行った。

 

 秘書室に戻ると隣の統括理事の執務室には来客があり、

 「お客様は建築ギルドのギルマスに男爵様?」

「そうよクロネ、今お見えになってるブルボーン男爵様のご領地の産業の事で統括に相談があるみたい、」

「ご領地の産業?」

とクロネは自身の椅子に座りながら同僚に聞けば、

 元々男爵領は陶材の産地で領では花瓶や壺の生産が盛んであったそうなのだ、

 そんな時統括が考案した便座トイレが王都の貴族の一部から広まり今では簡易タイプの便座が庶民にまで広まり出し、今まで無かった便座の製作を建築ギルドのギルマスが統括に相談した所、

 ブルボーン前男爵と旧知の仲だった統括が前男爵に便座の生産を勧め、

 男爵領で花瓶を作っていた工房が急遽便座の生産を始めた。

 今建築ギルドではトイレの改装の依頼が予約待ちになっていて、

 男爵領の工房では便座の生産が追いついていないらしい、

 困った建築ギルドのギルマスが男爵と共に統括に相談をしているそうだ。

 隣の席の同僚が、

 「男爵様って独身なんでしょ、

 これからきっとお金持ちになるから男爵様に見染められたら玉の輿じゃない!」

「貴女達お客様に聞こえてしまうわよ、」

 とシエンナから窘められる、

 暫くすると面会が終わった統括から声がかかり、

 「少し早いがお昼にしよう、私は男爵様と外に出る、」

 シエンナが分かりましたと統括に答え、

 「では私達もお昼にしましょう、」

とシエンナの言葉に同僚の秘書が、

「クロネ前から気になってた例の屋台に行こうよ!この時間なら未だ並んでないはずよ、」

 と同僚達から誘われたクロネは庁舎前の広場で最近お昼時には長蛇の列が出来る店に向かった。

 広場に出ると沢山並ぶ屋台の中で既に数人の客が並ぶ屋台があり、

 その屋台は独特な形をしていてたれ幕にお好み焼きと書かれていた。

 「わっ!もう並んでる私達も早く並ぼうよ!」

 

 しばらく列に並びクロネ達の順番がくると、

 「おっ!お姉ちゃん達新規さんだね、ナハリ名物お好み焼き!美味しいよ、

 今は豚玉しか無いけどそのうちゲソ玉やミックスも作るからね、

 銅貨七枚とちょいと高いがやみつきになる美味さだよ、」

 「じゃあ三つ下さい、」

「まいど!それぞれ銅貨七枚だ、冷たくなっても美味しいが温かい方が断然美味しいよ!」

とお好み焼きを二つ折りにして厚紙で出来た箱に入れ、お代を払ったクロネ達にそれぞれ渡す、

 

 クロネ達は飲み物を買い広場の空いていたベンチに腰掛け出来たてのお好み焼きを食べれば、

 「これ美味しいわ!値段は高いけど行列が出来るはずよ、」

クロネも一口食べればお好み焼きの味付けに、

 「先輩本当に美味しいですね、初めて食べる味と食感です、

 この中に入っている卵は、王都近郊の大農場で飼育されている地鶏の物ね、

 高級品のコッコ鳥の卵に比べたら数段落ちるけれど、この価格だったら大満足ね、」

「またクロネは直ぐ小難しく考えて、

 美味しかったら良いじゃない、」

  クロネはお好み焼きと言う名前に、

「このお好み焼きって暫く前に統括が登録した食べ物だわ!

 確か八つ焼とかと言う食べ物と登録申請した覚えがあるわ、」

「えっ!これも統括?流行りのケーキだって統括が考えたのでしょ、

 一緒に仕事してると分からないけれど、統括って凄い人なのよね、」

クロネも統括の事は尊敬している、

 だが最近少し引っかかる事もある、

 それは書類の中にごく稀にこの国の言語でない言葉で書かれている所があり統括に確認すれば、統括は少し焦りながら書類を見直し、

 「すまん業界の専門用語なんだ、

 多分審査も通るはずだよ、」

と説明された、

 勿論審査は通り何も問題は無いのだが、

 クロネには何処か統括の登録が他人事の様に思えて何か秘密が有るのではないかと、ふと思ってしまう事があった。


 

 

 クロネ達が秘書室に戻るとシエンナが統括の執務室で接客をしていて、

 クロネ達が戻って来た事に気付くと秘書室のドアを開け、

 「クロネお客様にお茶をお出しして、」

 「分かりました、」

 とクロネはお茶の用意をして統括の執務室に入れば何時も執事服を着ている黒髪の美少女が今日は仕立ての良さそうな私服姿で座っていて、

 統括はこの公爵家の執事が男の子だと言っているが秘書の中でそれを信じる者はいなかった、

 クロネがお茶を出すと、

 「ありがとうございます、少し早く着いてしまって、

 あっ、これお土産です皆さんで召し上がって下さい、」

といって紙箱を机の上に出す、

 クロネが突然出て来た紙箱に目を見開いて驚くのと同時に隣の部屋から歓声が上がりシエンナがエルルに、

 「何時もありがとうございます、

 あと同僚が失礼いたしました、」

エルルはぶんぶんと手を振り、

 「喜んで頂けている様で嬉しいです、今日は生菓子をお持ちしたので早めに召し上がって下さいね、」

「まさか公爵家のケーキなのですか!」

「うちの料理長達が作ったケーキではありませんが、私の弟子が作った物です、」

 クロネは思わずエルルに、

 「あの、お弟子さんって何のお弟子さんなのですか?」

エルルはクロネに、

 「僕は魔法とちょっとだけ剣に自信が有りまして、」

「先程紙箱を出されたのも魔法ですか?」

「ええ空間魔法ですね、

 あっ!でも内緒にして下さいね、」

と人差し指を口の前に付け、

 しぃーのポーズをとる、

シエンナが、

 「ルコル様、我々はこの場で見聞きした事を他言する事はございません、」

「秘書様名前を覚えて頂けていたのですね、」

「はい、統括がルコル様は昔から家族の様に接して来たと、」

「はい、赤子の頃からお世話になっています、」

「ルコル様は辺境伯様の養子様なのですから姫様とお呼びした方が、」

「僕は公爵家の執事見習いなので、エルルと呼んで下さい、

 あと僕は男ですからね、」

「そうでしたわね、」

と笑いながら頭を軽く下げるシエンナを見たクロネは心の中で、

 先輩のあの顔は絶対信じて無い顔だ、

 それにしても不思議な子、もしかしてこの子は統括の秘密を知っているのではないか、

 いえ、この子自身に秘密があるのではないかと考えてしまったクロネは

 どうしても我慢出来なくなり何気なくエルルに、

 「そう言えば今朝の申請書類誤字がありましたよ、」

「えっ!間違ってました?あっ!」

とエルルは慌てて両手で口を押さえる、

 シエンナは気付かないのか不思議そうな顔をしているがクロネは気付いてしまった、

 統括に秘密があるのでは無く統括はこの少女に見える大賢者の秘密を守っているのだと、

 

 そして大賢者はもう一つ紙箱を取り出し頭を下げながら両手で紙箱を差し出し、

 「内緒にして下さい!」


 


 「皆お疲れ様、」

「お疲れ様でした統括、」

と挨拶を交わし統括が執務室から出て行く、

 秘書室ではエルルから貰った紙箱が開かれ、

 「わっ!凄いわ見て!こんなケーキ見た事が無いわ、まるで飾り物の様に綺麗!」

「全部種類が違うわ!どれにしよう、」

「クロネもう一つ紙箱を貰ったのよね、そちらの紙箱は?」

クロネが紙箱を開けるとシエンナが目を見開いて、

 「凄い!これ多分カヌレだわ!」

「先輩このお菓子を知っているのですか?」

「ええ、このお菓子は特別な物で買う事が出来ないわ、」

 「先輩こっちのケーキも買う事は出来ないと思いますよ、」

 「ねえ、相談なんだけどケーキは皆で分け合ってカヌレは家に持ち帰るってのは如何かしら、」

「「はいっ!先輩賛成です!」」


 そして秘書達の甘い宴が終わるとクロネが最後に秘書室の灯りをおとした。





      炬燵

 

 

「お〜さぶっ!カレン暖房の魔導具を強くしておくれよ、」

「リリル様充分暖かいですよ、」

リリルは自分の膝の上でまるまるユユを撫でながら、

 「見てみなユユも寒さにまるまっちゃってるから!

魔の森の冬がこんなに寒いとは知らなかったよ、」

「魔の森はオーライドの最北ですからね、

 ですがこのお屋敷の暖房は凄いですよ、お屋敷全体が暖かいです、

 さあ今日は晦日なんですからリリル様も大掃除を手伝って下さい身体も温まりますよ、」

「エルルとイオもお昼過ぎには帰ってくるんだろ、」

「ええ、公爵家の大掃除が終わり次第お帰りになるそうです、

 エルル様のお話では年明け三日まで特別にお休みが頂けたそうです、

 でこの家では大晦日の晩は年が変わるまで皆で起きていてお蕎麦を食べるそうですよ、

 そして新年はお節料理を頂くそうなのです、」

 「へえー、お節料理がどんな料理かわからないけど変わった風習だねえ、

 でカレンは実家に帰らないのかい?」

「私は新年開け二日にお休みを頂いて実家に送って頂きます、

 うちの家族が揃うのは二日だけなんです、で私は三日にこちらに帰ります、」

「カレンの所は騎士一家だからまとまった休みは難しいとは思うけど、

 カレンはもうちょっとゆっくり休んでこれば良いじゃないかい?」

「リリル様此処で暮らしてしまったら実家に連泊するのは辛いです、」

「あはは、違いない私も離宮に戻りたいとは思わないからねえ、」

「さあリリル様もご自分のお部屋の掃除をなさって下さいませ、」



 

 公爵家では年末の大掃除が終わるとアルクの前に使用人全員が集まる、

 「皆今年一年ご苦労様だったな来年も宜しくたのむ、

 それと正月の当番になったものは

 特別賞与を出すので頑張ってくれ、

 ペレス正月シフトに入った者達は正月開けに連休が取れる様にしてやってくれ、」

ペレスは頭を下げ、

 「では各自シフトの再確認をした後解散いたします、」

「ああ、では皆良い休暇を、」

と言ってアルクはホールから出て行く、

 皆は一礼してアルクを送り、メイドは侍女長の所に集まり執事はペレスの所に集まる、

 「皆お疲れ様、ジャンは四日迄エルルは三日まで休んでくれ、

 ロバートは三日から仕事に戻ってくれ、

 年始はロータス先輩の所に行くのだったな、」

 「ええ、エルルに送って貰って久しぶりに親に会って来ようかと、」

「そうか、では各自自室だけは掃除して帰るように、

 エルルの事だからトイレや風呂はもう清掃済みなんだろう、」

エルルは親指と人差し指をくっ付けて、

 「はい、ピカピカです!

 執事長、ジャン先輩良いお年を、

 あと皆さん料理長とロックさんがお土産のケーキを作ってくれましたよ、頂いて帰って下さいね、」

とエルルが言えば料理長達がカウンターに紙箱を並べる、

 帰宅するメイドの先輩達は紙箱を受け取ると料理長達に礼を告げケーキの入った箱を大事そうに抱えホールから出て行く、

 あれ?侍女長達正月出勤の先輩まで紙箱を抱えちゃってるよ!

 エルルはロバートがお土産を受け取るのを待ち料理長達に、

 「料理長ありがとうございます、

 ロックさん先輩達全員分用意して頂けたのですね、」

料理長達は笑いながら、

 「正月出勤のお礼ですよ、」

「大将じゃあ俺っちにも何か下さいよ!」

「しょうがない奴だ、

 エルル様ロックに何かお手頃な酒を一本頂けませんか、お代は私が支払います、」

「ありがとうございます大将、正月中は俺っちに任せといて下さいよ!」

エルルはにゅぅと酒瓶を出し、

 「何時も蒸留酒なのでたまには山房の実のワインなんて如何です、」

 「ワインすっか良いっすね、大将頂きます、」

「エルル様私にも同じ物を頂けますか?」

「はいこれ皆さんに僕からプレゼントです、執事長もどうぞ、」

ペレス達はエルルが出したワインを受け取ると、

 「ありがとうエルル、こちらの事は任せておけ、」

「宜しくお願いします、じゃあロバートさん行きましょう、」



エルルが辺境領屋敷の部屋に転移すればイオが掃除道具の後片付けをしていて、

 「わっ!やっぱりこっちは寒い!お疲れ様イオさん、」

「お疲れ様です、エルルさんロバートさん、

 この部屋の掃除をしていたので暖房入れてないんです、」

 「イオさんお掃除終わりましたか?終わってたらエド様の所へ挨拶に行きましょう、」

 「エルルさんエドモンド様達はサロンにいらっしゃいます、

 私は掃除道具を片付けてから行きます、」

「了解ですイオさん、ロバートさんと先に行ってエド様に挨拶してます、」



 サロンにエルルとロバートが入ると、お茶を飲んでいたナタリアとエドモンドが、

 「お帰りエルル、ロバート彼方は?」

「正月勤務の者を除いて皆帰省致しました、」

 と報告するロバートにナタリアが、

 「ロバート良かったわね久しぶりに家族でお正月が過ごせるじゃない、」

 「エルルが連れて来てくれましたのでこれから母の所に行きます、」

部屋の隅にメイドと共に立っていたロータスがエルルに、

 「エルル様、息子を連れて来て下さりありがとうございます、

 家内が喜びます、」

「ロータスさん、森の家に帰るついででしたのでお気になさらず、」

「エルルもこのまま森の家に戻るのでしょ、」

「はい、帰って正月の準備をします、

 明日はお節料理を持って挨拶に来ますがお母さんエド様今晩はどうされます、」

ナタリアはエドモンドに、

 「エド、私はリリル様にお会いしたいから夜彼方に行ってくるわ、

 で明日エルルと一緒に帰ってくるわ良いかしら?」

「分かった、では私は留守番するとしよう、

 ナタリーリリル様に宜しく、

 あとエルルナタリーを頼むよ、」

「はい、エド様お任せです!

じゃあお母さん夜僕かイオが迎えに来ますので、」

 そこへメイドの先輩が開いたドアからイオが入って来て、

 「エドモンド様、ナタリア様掃除が終わりましたので私もお休みに入らせて頂きます、」

ナタリアが、

 「イオご苦労様、イオは実家に戻るの?」

「顔は出そうと思っています、」

「じゃあイオさん帰りましょう、

 皆さん良いお年を、」

と手を振りエルル達はすっと消えた。


 

 

「ただいまぁ!うわぁ寒っ」

「お帰りなさいませ、エルル様イオさん、」

「ただいま、カレンさん寒くないの?」

「はい、今日はずっと掃除をしていて動いていたからか寒いとは感じませんでした、

 それにお屋敷中暖かいですよ、」

「姐様とユユは?」

「お部屋の清掃をされています、ユユも寒いのかリリル様の背中に張り付いていましたよ、

お屋敷の大掃除は終わっています、」

 「お疲れ様カレンさん、僕は自分の部屋を掃除する前に囲炉裏部屋に炬燵を立るよ、」

「エルルさん炬燵ってなんですか?」

「イオさん囲炉裏部屋の床に穴が開いてるデーブルがあるじゃないですか、

 あのテーブルをちょちょいとね、

 後からのお楽しみです、

 あとカレンさんお願いしておいたお米は?」

 「研いで水に浸して有ります、エルル様あのお米何時もより白くないですか?

 あと炊かなくて良かったのですか?」

 「何時もの白麦草のお米とは種類が違うんですよ、餅米と言う品種です、

 夜お餅と言う物を作りますので楽しみにしていて下さい、」

「エルルさんお手伝いしますよ、」

「私もお手伝いします、」

「イオさんは部屋の掃除が終わってからで良いですよ、

 カレンさんは中庭に蒸し器を用意しますので餅米を蒸し始めて下さい、

 使い方は蒸し器に書いてある説明を見て下さい、」

「分かりました、」


 エルルは囲炉裏部屋に入ると掘り炬燵の上に置いてあるテーブルを片付け床穴の部分に畳みの蓋をする、

 そしてふかふかの敷物を敷くと暖房の魔導具が付いたテーブルに置き変え掛け布団の上から天板を乗せる、

 そして魔導具に魔力を流せば炬燵の中で暖房の魔導具がほんのり赤く発光する、

 炬燵の中に頭を突っ込んでいるエルルに囲炉裏部屋に入って来たリリルが、

 「エルル何だいこんな所でふとんの中に頭を突っ込んで?」

「キュー!キュー!」

エルルは突っ込んでいた頭を炬燵から出して、

 「リリル姐様ただいま戻りました、

 でこれは布団では無くて炬燵と言います、

 さあユユも姐様も炬燵に入って下さい暖かいですよ、」

とエルルは足を炬燵の中に入れる、

 リリルは抱き抱えていたユユと共にエルルの真似をして炬燵に足をいれれば、

 「こりゃあ暖かいねぇ!」

「キュゥ〜!」

リリルは目を細めユユは炬燵の中に潜り込んで猫の様にまるまった。


 

 エルルは障子戸とガラス戸を開け中庭で餅米を蒸しているカレンに、

 「カレンさんありがとうございます、蒸し上がったら僕とゴーレムでお餅をつきますのでカレンさんは調理場で白夫人足をすり下ろして下さい、」


中庭に出たエルルは臼と杵を出しゴーレムを創る、

 囲炉裏部屋に入って来たイオが、

 「わっ!窓開けちゃってリリル様寒くないんですか?」

「私は炬燵に入ってるから暖かいんだよ、エルルがこれからお餅って言う食べ物を作るそうだよ、

 見てみなゴーレムまで出して面白そうだろ、」

イオはリリルが入っている炬燵を見て、

 「テーブルにお布団が掛けてあるのですか?」

「ああ、お布団の中は魔導具でぽかぽかなんだよ、」

中庭からエルルが、

 「イオさん調理場からお皿や箸、あと海苔や調味料を持って来て下さい、

 カレンさんが白夫人足のおろしを作ってくれてるから一緒に持って来て下さい、」

「了解ですエルルさん、」



 ぺったん ぺったんとエルルが餅をつきゴーレムがリズム良く餅をかえすのをイオとカレンが縁側で見ていて、

 つき上がった餅をゴーレムが臼から器用に餅を巻き取りエルルの用意した餅とり粉をひいた板の上にどすんと乗せる、

 「イオさんカレンさん手にお水を付けて一口サイズに取り分けて下さい、

 あっ、餅は熱いので気を付けて!」

 「熱っ!熱っ!わっこれ伸びてきれませんよ!」

と餅を切るのに悪戦苦闘するイオやカレンを見てエルルはくすくすと笑いながらきな粉や醤油におろしポン酢の皿を作り、

 「姐様、温かいうちに食べてみて下さい、

 さあイオさんもカレンさんも、」

 三人はそれぞれお餅を食べ、

 「エルル不思議な食感だねぇ、このおろしポン酢で食べると美味しいじゃないかい、」

と言うリリルにカレンが、

 「リリル様醤油に付けた後の海苔巻きが一番ですよ、」

「カレンさん断然きな粉ですよ!きな粉!」

と炬燵を囲みわいわい盛り上がっている所に、

 「こんばんは、」

と囲炉裏部屋に入って来たシャルルにイオが、

 「シャルいらっしゃい、」

「シャルルさんいらっしゃいませ、」

「シャルルあんた食事は?」

と餅を食べながら聞くリリルに、

 「家族の者達で済ませて来ました、」

「そうかい、うちは今このお餅ってのを食べてるんだけどシャルルもどうだい?」

「シャル断然きな粉が美味しいよ!」

「イオおろしポン酢だよ、」

「いいえシャルルさん海苔巻き醤油です、」


 エルルは伸ばした餅を器用にカットしながら、

 「シャルルさんいらっしゃい!」

「こんばんはエルルさん、食事は済ませて来たのですが少しだけ頂いても良いですか?」

「ええ、今ゴーレム達が新たについた餅を持って来ますので、」

と言ってエルルはゴーレム達が新たについた餅を器用に一口サイズに取り分けイオが用意した皿に並べる、


 シャルルは箸できな粉をつけた餅を食べ、

 「変わった食感ですが美味しいですね、」

「でしょ!僕もつきたてのお餅を、」

と言ってエルルは醤油の中に軽く砂糖を入れ餅をつけ海苔を巻いて食べ、

 「美味しい!チーズを乗せるのも有りかな、

 」

 


 食事が終わり皆で片付けを済ませエルル以外が炬燵に入りシャルルが、

 「この机私の部屋にも欲しいです、

 ブリネンも冬は寒くって きゃっ!」

「どうしたのシャル?」

「い、今足に何かが!」

と言って掛け布団の中を覗き込む、

 するとユユが炬燵の中から這い出て来て、

 「ピィ〜!」

シャルルはユユを抱き上げ、

 「もう!ユユだったのね、」

リリルが、

 「ユユはずっと炬燵の中で眠ってたからねえ、」

カレンが、

 「ユユだけで無くリリル様も一度も炬燵から出ていらっしゃいませんよ、」

「わたしゃあ、炬燵から離れられない身体になっちまった様だよ、

 おトイレも誰か代わりに行って欲しい位さ、」

 

リリルの言葉に皆が吹き出し笑っていると、

 「何?皆で楽しそうにってなんで布団に入っているの?」

とナタリアが囲炉裏部屋に入って来る、

 「ナタリーあんたも炬燵に入ってみな、」

 「ナタリア様このお布団に足を入れると出られなくなってしまいますよ、」

ナタリアはリリルの隣で炬燵に入れば、

 「わっ!暖かいわ、今日の様な寒い日は足先が冷えちゃうからこれは丁度良いわ、」


 そこにエルルがみかんの様な果物が入った籠を持って入って来て炬燵の上に置き、

 「ファーセルのラン様から頂いたダイダイと言うフルーツです、」

「エルルこの炬燵私の家にも作ってちょうだい、」

 と言うナタリアに、

 「お母さん炬燵はこの部屋の様に畳の上に立てた方が良いので一部屋改装した方が良いですね、」

「お任せするわ宜しくね、」

「キュゥ〜!キュゥ!」

とシャルルの腕の中にいたユユが鳴き、

 「ユユ起きたんだね、ユユにお餅は無理だからこの蕎麦のみ煎餅ね、

 皆さんにももう少ししたら年越し蕎麦をだしますよ、」

 ユユがばりばり美味しそうに煎餅を齧るのを見ながらリリルが、

 「エルル蕎麦を晦日に食べるのはこっちの風習なのかい?」

「はい、うちは昔から晦日の夜に蕎麦を食べていましたね、

 でちょっと早いですけど、」

と言ってエルルはイオとカレンとシャルルの前に小さな封筒を出し、

 「これ僕からのお年玉です、」

「エルルさんお年玉ってなんです?」

「お正月に弟子やお手伝いさんに渡すお小遣いですよ、」

イオは目を輝かせ、女性ファッション雑誌をにゅっと取り出し、

 「エルルさん!このお年玉でこのコート出して下さい!!」

と雑誌を開き可愛らしいダッフルコートを指差す、

 「あっ!イオずるいこの間一緒に見てた姿絵じゃない、エルルさん私にも、」

「あの、私も、」

「はいはい、了解です、」

エルルの了解にイオ達が炬燵の上でハイタッチをしているとリリルとナタリアが、

 「エルル私達のお年玉は?」

エルルはハニワのような顔になりリリルとナタリアに手を差し出し、

 「姐様、お母さん、可愛い息子にお年玉を下さい!」



 



 

 



 

 

 

 


 

 



 

 

 

 

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