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ご老人の団体様ご到着

宜しくお願い致します。


第五十一話



   ご老人の団体様ご到着

 

 

 昼食時使用人寮の食堂ではエルルとイオがルコル建設と名前の入った作業着姿で昼食を食べていてテーブルの横には安全第一ヘルメットが置かれているデザートを食べ終えたイオが、

 「エルルさん何とか間に合いそうですね、」

「ええ、夕方までには完成するでしょう、」

「エルルさんファーセルの偉い方々がおみえになるのですよね、

 どうして王宮で接待されないのですか?」

 「ラン様のお話では皇王様が接待役を僕にと陛下に内々に打診されたらしいですよ、

 で王宮や貴族方の間でファーセルの方々はどうも苦手な方が多いらしく、これ幸いにと僕に丸投げになっちゃったみたいで世間的には公爵家が接待役を承ったと言う形ですね、」

 

 話をしているエルル達の所に侍女長マチルダがトレーを持って隣の席につき、

 「エルル、イオお疲れ様貴女達夜中も作業していたの?

 夜中に節の木林から物音がすると夜勤の子達が怖がってたわよ、」

「すいません工事の日程がかつかつでしてゴーレム達に手伝わせているんです、」

「今回のお手伝いは宮廷料理長の男爵様と王宮女官が行うそうね、

 料理長やうちの子達が拗ねてたわよ、

 で完成を急いでいると言う事はご到着が近いの?」

「御一行は既にオーライドに入っていらっしゃるとか、ご到着は明後日の予定だそうですので、今日中に隠れ宿を完成させて、明日はお手伝いして頂く方々との打ち合わせとお出迎えの準備をします、」

「私達だったら直ぐに対応出来るのに、」

 「侍女長きっと王宮も外交的に色々あるのだと思いますよ、」

「まあ私は良いのだけどうちの子達がね、」

 とちらちらエルルを見て来る侍女長にエルルはこのおばちゃんが一番拗ねてるんじゃんと心の中で突っ込んでおいて、

 「侍女長以前ファーセルの皇太子様達をお出迎えした時の衣装を覚えてみえますか?」

「ええ、勿論覚えているわよ、」

「明日王宮女官の方達に着付けと接待の仕方の指導をお願いしたいのですが、

 勿論お一人では大変だと思いますので先輩方にも手伝って頂けるとありがたいです、」

 侍女長はエルルの手を掴み、

 「任せて頂戴!こうしてはいられないわ!明日の予定を変更しないと、」

と侍女長は慌てて昼食をとりだした。


 公爵家の食堂ではアルクとマリーが食事を食べ終わり食器を下げるソフィアにアルクが、

 「ソフィア、皇王様方のヨツバルン到着は明後日になる様だと侍女長と料理長に伝えておいてくれ、

 ペレスとロバートはファーセル大使館と騎士団本部で警備の打ち合わせに出ていたな、

 こちらは帰り次第私が伝える、」

「かしこまりました、侍女長が休憩から戻り次第伝えます、」

と答えるが何か言いたげなソフィアにアルクが、

 「ソフィアどうした?何かあったか?」

「いえ、主人様何故今回のファーセル御一行様のお手伝いは王宮の方達なのですか?

 侍女長や料理長が何故自分達ではないのかと拗ねていましたよ、」

 アルクはやれやれと肩をすくめ、

 「ソフィア達は護衛の者達をサポートする大切な役目があるのだろ、

それに形だけではあるが晩餐会は陛下主催となっている、

 王宮も何もしなかったと言うのは外聞が悪い、」

 アルクの向かいに座るマリーが自慢気に、

 「私はエルルから今回のおもてなしの主役を頼まれたわ、

 女将とか言っていたかしら、今エルル達は節の木林の中に宿屋の様な物を作っているのでしょ完成が楽しみだわ、」

「マリーは凄いなファーセルの皇族方のもてなしを楽しみだなんて、」

「あなた私はエルルが作っている建物が楽しみなだけよ、

 それに既に皇后カナリザ様の接待役をこなしていますしあの時とは違い今回はエルルがいるもの、

 さあさあソフィアもそんなに拗ねないで頂戴、」

 ソフィアは顔を少し赤くして、

 「奥様拗ねているのは侍女長や料理長です、」

と言うソフィアにマリーは笑いながら、

 「そうだったわね、ごめんなさいソフィア、」




 ファーセル大使館ではペレスが大使ラドナスとランとテーブルを囲み警備や皇族方の詳しい人数を確認している、

 「分かりました大使様、

 皇王陛下ご夫妻に皇太子妃様、後は元老院の方々が七名で御座いますね、」

「宜しくお願い致す執事殿、

 ランは護衛の者は最低限で良いと言っておるがファーセルの近衛の者達にランを含め十二人程屋敷に入れて頂きたい、」

「叔父上私と娘がおれば警備など無用ですぞ、

 だいたい元老院の方々など皆化け物ばかりではありませんか、

 あの方達に敵う者など娘位の者ですぞ、」

「ラン、その様な訳にはいかん!

 例え事実であっても外交には取らねばならない形があるのだ、」

ペレスはラドナスからわたされたリストを見直し、

 「そう言えばリストの中に先日当家にお越しいただいたラン様の御祖母様のお名前が無いようですが、」

「なに執事殿ああ見えてお祖母様は魔法省の長官ですからな、

 いつまでも不在では困ると本国へ強制的に戻されましての、

 で執事殿今回のこちらの警備責任者は儂じゃ、まあ形だけの責任者ですがの、」

 「承りました、ではラン様明日公爵屋敷で王宮からの応援の方々との打ち合わせが御座いますので宜しくお願い致します、」

「承ろう執事殿、

しかし娘から聞いたが何でもあの立派な節の木林に宿屋を作っているとか、

 今回客側になれぬのが残念じゃ、」



 夕方節の木林の中で作業を終えたエルルの所にアルク達が押しかけ、エルルが前世の旅行で訪れた趣きがある温泉旅館のイメージで作られた建物を興味深げに見ていたアルクが、

 「エルル異国の建物の様式の様だが趣きがありこの節の木林に溶け込んでいる様だ中を見せて貰っても良いかい?」

「主人様こちらの建物は公爵家が国王陛下から出して頂いた予算で作られた建物で主人様の持ち物ですよ、

 一応完成はしていますが明日一日かけて準備をしようと思っています、

 イオさん僕は廃材の片付けをぱぱっと済ませちゃいますので主人様達を宿の中へ案内していてくれるかな、」

「了解ですエルルさん、では主人様奥様こちらからどうぞ、」

 と宿の外門の引戸を開けて宿へ案内する、

 小さな外門をくぐり石造りの小道からイオに案内され宿の玄関に入って行き中に入ればそこは屋敷のホールよりも少し小さな空間で板張りの磨かれた美しい床には座り心地の良さそうなソファーが並んでいて奥のガラスの壁の向こうは節の木林の中に作られた中庭が見えている。

 皆はイオが出したスリッパに履き替えるとそれぞれが宿屋のロビーを興味深げに見ていて、

 イオが入り口横のフロントの方に行き、

 「こちらが宿の受付ですね、彼方の奥は棚に未だ商品が並んていませんがお土産屋さんになります、」

 「受付があるなんて様式は違うが本当に宿屋の様だが、落ち着きのある空間だなマリー、」

とアルクが声をかければマリーはソファーに座っていて、

 「この椅子なんて座り心地が良いの!義母様のお部屋のソファーと同座り心地よあなたも座ってみて!

 あとイオお土産屋さんって何を売るの?」

「奥様それは明日のお楽しみですよ、」

とエルルが玄関から入って来てマリーに答える、

 「エルル素敵な所ね建物が殆ど木で出来ているのかしら、」

「はい奥様、木造建築の建物ですね、」

「エルルそれはファーセルの方達を意識してかい?」

とアルクから問われたエルルは、

 「全く意識しなかったと言う事は無いですが自宅がこんな感じなんですよ、

 ただこの建物は宿屋を意識していましてここはロビーと言う所で隣りに大宴会場があります、」

とエルルはロビーから廊下に出て森の間と書かれた部屋の引戸を開け広い畳部屋へ案内する、

 「こちらが宴会の会場になります、

 こちらの部屋には素足で入って下さい、」

「エルルこの床は草を編んで出来ているのかい?」

「凄い!主人様当たりです、燈芯草と言う植物を使っていて客間も全てこの床になっています。」

 「エルル椅子やテーブルが無いが、お客様達がいらっしゃる迄に用意するのかい?」

 アルクの質問にエルルは押入れを開き座布団を出し、

 「主人様こちらの座布団と言うクッションを床に敷いて座って頂きます、

 あとこのお膳と言うテーブルを使います、」

と言ってアルクの前にお膳を出す、

「ほう、床に直接座って食事を摂るのだな不思議な感覚だが楽しみだ、」

「エルル客間も直接床に座るのかしら?」

とマリーの質問に、

 「はい、お布団も直接床に引いて寝ます、」

「エルルそれはファーセルの様式なのかしら?」

「これは僕の家のオリジナルですのでファーセルの方達の様式はわからないですが普段と違う様式の宿を楽しんで頂けたら嬉しいです。」



 

 大浴場の未だ湯の入っていない大きな檜の木の風呂を見た侍女長が、

 「木のお風呂何て初めてみたわ、凄く大きなお風呂ね、」

 と後から入って来たイオに声をかける、

「はい、何でもこの木のお風呂に入ると身体の芯から温まるようですよ、

 で外には小さいですが露天風呂もありますよ、」

 「外にお風呂ですって?それはちょっと恥ずかしいわね、」

と言う侍女長にソフィアが笑いながら、

 「侍女長お使いになるのはお客様達ですよ、」

「わかっているわよ!でもこんな宿屋に一度で良いから泊まってみたいわね、」

 「そうですね侍女長、」

 


 男性大浴場の脱衣室に置いてある見た事のない形の椅子にペレスが座り書いてある使用法を読み魔石に魔力を流せば、

 「こっ、これはうっ、ううっ、」

 と、うめく様な声を出すペレスにロバートが、

 「執事長どうしました?」

と執事長を見れば目を閉じ椅子に身体を預けゆっくり肩から腰にかけ身体をそらせながら、

 「うう、これはなんと!身体を揉んでくれる椅子とは!これはたまらん!」


そこにアルク達を連れたエルルが入って来て、

 「執事長どうですその椅子?」

と聞かれペレスは片目を開けエルルの後ろにアルクとマリーが立っているのを見て慌てて立ち上がり、

 「失礼致しました主人様、」

普段冷静なペレスの慌てぶりに思わず笑ってしまったアルクとマリーが、

 「ペレス笑ってしまってすまない、

でその椅子はそんなに座り心地が良いのか?」

「はい、座って魔力を流せば身体を揉んでくれます、」

「それは凄いなどれ私も、」

とアルクが座ろうとすればマリーがすっと横から入り椅子に座り説明書きを読みながら魔石に魔力を流せば椅子はマリーを包み込む様形を変え、

 首筋から全身を揉んで行く、

 目を閉じ何も言わないマリーにアルクが、

 「マリーどうなんだい?ちょっと変わってくれないか、」

マリーもまた片目だけを開け、

 「ダメよアルク私はこの椅子の虜になってしまったわ、」

 マリー達の話声を聞きつけ隣の女性大浴場からイオ達が入って来て、

 エルル特製マッサージチェアに座るマリーを見たイオが、

 「奥様その椅子に座ってしまわれたのですね、

 その椅子は人を駄目にする悪の椅子ですよ!」

 イオの言葉にマリーはまた目を閉じて、

 「イオわかるわ〜それ!私はこの椅子の虜よ、」

ソフィアがイオに、

 「イオどうして奥様はあんなに気持ち良さそうなの?」

「ソフィア先輩あの椅子座って魔石に魔力を流すと身体をマッサージしてくれるんですよ!それが凄く気持ちいいんです、」

 「凄い椅子ですね侍女長、そう言えば女性大浴場の脱衣所にも置いてありましたよね侍女長?」

 と声をかけるが侍女長の姿は無く、

 その時マチルダは隣の脱衣室でマッサージチェアの魔石に魔力を流していた。



 翌日朝から王城の馬車が連なって公爵家に入って来て馬車寄せで待っていたロバートが荷物を抱え降りて来たモルズ達に、

 「おはようございます皆様、早速では御座いますが屋敷のホールで打ち合わせを行いますので、

 申し訳有りませんがお荷物をお持ちになったままお入り下さいませ、」

「分かりました執事殿、女官長も良いですかな、」

女官達の中からスミが出て来て、

 「はい大丈夫でございますわ、料理長、」

と言ってロバートの後に付いていく、

 公爵家のホールは普段のテーブルセットが片付けられ、

 会議用の椅子と机が並び最前列の机にアルクとマリーが他の参加者達に対面する様に座っている、

 その背後のホワイトボードの横にエルルが立っていて壁側には侍女長やソフィアの他数人のメイドが並び少し離れた所にイオも立っている、

 そしてロバートに案内されたモルズ達が入って来るとアルクが、

 「男爵、それに宮廷女官の方々今回の御助力感謝いたします、

 これより細かな打ち合わせを行いますのでそちらの席へ、」

アルクの言葉にスミが一礼すると後の女官達が一糸乱れぬお辞儀をする、

  モルズが、

 「閣下こちらこそお世話になります、女官共々宜しくお願い致します、」

アルクはモルズ達が着席したのを確認するとロバートに目配せをしてロバートが騎士団団長のウッディと女性騎士班長のフローラを連れて入ってくる、


 最後にランが文官らしきエルフを二人連れて入って来て、

 「お待たせしましたかの、こちらの二人は大使館の職員でこちらと大使館の連絡役ですな、

 儂に聞くよりこの者達に聞いて下さった方が間違えありませんな、」

 と言いながらエルルが立っている前の机に座る、

 皆が座った事を確認したアルクが、

 「ではこれからの打ち合わせとお迎えの準備を始めるが此処からは今回の接待役を陛下より指名された私の弟が指揮を取るので御助力を願う、

 ではエルル始めてくれ、」

 エルルはぺこりと頭を下げ皆の前に立って、

 「この度ファーセル御一行様の接待役を仰せ使ったエルルです、

 今回の接待は二泊三日の長丁場となりますが何卒御協力をお願い致します、

 また今回一日目の晩に陛下主催の晩餐会が予定されている為王宮より男爵様をはじめ宮廷女官の方々にお手伝いして頂けると言う事で心強く思っています、」

とエルルはモルズと横に座るスミに頭を下げる、

 モルズは首を横に振り、

 「何を仰るエルル様、我々は今日公爵家にお手伝いに来るのにそれはもう大変な試練を勝ち残った者達なのです、

 私は今日公爵家に来れた事を誇りに思います、」

と何処かスイッチが入って熱く語るモルズに女官も皆うんうんと頷いている、

 エルルは内心どうしちゃったんだモルズ様此処に来るために何をして来ちゃったんだ!と思いながらも、

 「ありがとうございますでは早速、

 先ずこの部屋は今回のおもてなしの本部となりファーセルの大使館の方々や当家の騎士団、ファーセルの護衛の方々の司令室となります、

 あとこの部屋で護衛の方々や大使館の方々のサポートを公爵家の使用人が行います、

また彼方のドアから外に出た所の天幕は仮眠室やおトイレとお風呂になっていますので交代で使って下さい、」

 エルルの説明を聞いていたランが、

 「娘、それはありがたい今回の護衛は長丁場になるからの、

 だが儂と、娘が居れば護衛など要らぬと叔父上に申し上げたのだが、

外交が何たらとか五月蝿くての、

で騎士団長殿、儂がファーセル護衛代表だが陛下達の到着迄に指揮系統を決めておきたい、」

 ランの言葉にウッディが、

 「分かりました剣姫様、

 で後ほど時間が空きましたら手合わせして頂けませんか?」

「おっ、お主も腕に自信ありかの、」

と盛り上がる二人の横で大使館職員がごほんごほんとわざと咳払いをしている、

「ではこちらは主人様にお任せして我々は隠れ宿に向かいましょう、

 皆様荷物を持って付いて来て下さい、」

と言ってエルルはガラスの扉から庭に出て行く、

 庭を歩く道すがら後から付いて来ている女官達がイオに先生!先生!と話しかけて女官長に叱られちゃってる、

 後から付いて来たマリーがマチルダに、

 「イオ大人気じゃない、」

「はい、今イオに髪をカットして貰う事はちょっとしたステータスなんですよ、

何時もカットやメイクをして貰える奥様が羨ましいです、」

 「あら、でもうちの子皆かなりメイクが上手くなっているんじゃない?」

「イオのメイク講座を皆受けていますからね、」


節の木林に入り暫く歩くと趣きのある瓦屋根が見えて来てモルズが、

 「エルル様彼方が宿なのですか?

 見た事のない作りの建物です、」

「僕の実家はこの様な作りなんです、

 今回私達は宿の従業員と言う設定なので裏口から入りますよ、」

とエルルは皆を連れて建物の裏手に回り勝手口から中に入る、

 モルズや女官達は建物の中を見回し皆呆けちゃってたよ、

 エルルは宿の裏方にある控え室に女官達を案内して、

 「こちらは控え室兼休憩室です、

 奥の部屋は更衣室と寝室になっています、

奥にロッカーが有りますので皆さん荷物を置いたらうちの侍女長達から制服の着方を習って下さい、

 奥様は女将の部屋で着替えて下さいね、イオさんお願いします、

半刻後ロビーに集合しましょう、」

 エルルの言葉に侍女長達は女官達を連れて奥の部屋に入って行き、

 イオはマリーを連れて部屋を出て行く、

 「ではモルズ様は調理場へ、」

と言って荷物を抱えたモルズを連れて板場に入る、

 板場に入ったモルズが、

 「エルル様お屋敷の調理場とはまた違う作りの調理場ですね、」

「基本的な作りは同じですよ、ただ建物の作りに合わせていますので違って見えるのでしょう、

 今回の料理人はモルズ様と僕だけですので大変かと思いますが宜しくお願い致します、」

「お任せ下さい、私も数々の希望者から勝ち上がってここに来たのです、

 また沢山勉強させて下さいませ、」

なにそれ?女官の方々もだけど王宮で何があった?

 「そそ、そうですかモルズ様彼方の壁に今回の料理の予定が書いて有りますので確認しておいてください、

 材料は全て用意してあります、

 とりあえず今日の賄いはうちの料理長達が用意してくれますのでロビーでの打ち合わせが終わったら僕たちは明日の下拵えをしましょう。」



更衣室で中居の衣装の着付けを教わる女官長がマチルダに、

 「侍女長様こちらの衣装は異国の物なのですか?」

「うちのエルルのオリジナルと聞いていますわ女官長様、」

「私だけ衣装の色が違う様ですが?」

「女官長様は中居頭と言う役職を演じて貰います、因みに奥様は女将と言ってこの宿屋を仕切る役職を演じられます、」

 「まあ!まるでお芝居の様ですね、」

「ええ、お客様に喜んで頂くと言う所は同じですね、」

と言いながら回りを見れば以前中居姿で接待をした公爵家のメイド達が女官の着付けを手伝いながら、髪や化粧の話しで盛り上がっている、

「侍女長様先程案内された私達の部屋ですがどの様に使ったら良いのかと?」

「そちらはエルルかイオに聞いて下さいませ、

 私達もあの様な様式の部屋は初めてなのです、」

「分かりました、後程先生に伺ってみます、

 ですが公爵家の皆様が羨ましいです、何時も先生に綺麗にして頂ける何て、」

そこに着替え終わったマリーがイオを連れて入って来て、

 「さあエルルが待ってるロビーに行くわよ、」

皆マリーの着物の美しさに驚き、

 「奥様とても美しい衣装で御座いますね、」

「侍女長この衣装慣れるまで結構大変なのよ、

 女官の皆さんも準備が終わった様ね、じゃ行くわよ!」


 ロビーにはエルルとモルズが待っていて、裏から出て来たマリーを見たエルルは、

 わっ!奥様女将と言うよりクラブのママになっちゃってるよ、

 イオさん張り切りすぎだよ!

 と思っても口には出せず笑顔で、

 「奥様とてもお似合いですよ、

 女官の皆様もとてもお似合いです、」

「ありがとうエルル、では始めて頂戴、」

 エルルはぱんぱんと手を叩き、

「はい、ではこちらがお客様をお招きするロビーと言う所です、彼方の玄関から入って見えたお客様を奥様と女官の皆様数人で迎えて頂きます。

 他の女官の皆様はお客様にこちらで上履きに履き替えて頂き、

 その後各お部屋に案内していただきます、

 でこちらにお部屋や施設の使用法方と、給仕の仕方の教本が有りますので、各自頑張って覚えて下さいね、」

とちょっとびっくりするくらい厚い教本を配っていく、

 厚い教本を渡されたマリーが、げっそりしながら、

 「エルルまさかこの本全てを明日迄に覚えるの?」

マリーの背後で女官達もマリーと同じ顔をしてエルルを見ている、

 エルルは自慢気な笑顔でビシッと親指を立て、

 「大丈夫ですよ、中は絵物語になっていて皆さんこの物語に出て来る主人公の新米中居さんと共にこの宿の事を覚えて下さいね、」

スミが教本を開き、

 「凄い!こんな綺麗な絵物語を見るのは初めてだわ、」

といきなり絵物語を読み出し気付けば皆さん夢中で頑張る中居さんの物語を読み始めちゃってるよ、

 そこに裏手からロックの声が聞こえ、

 イオが返事を返し裏へ入って行き、

 料理長を連れて帰って来る、

 「エルル様賄いをお持ちしました、」

とエルルに声をかけるが回りで立ちながら夢中で教本を読む中居姿の女官達に驚く、

 「料理長すいません、皆さんお勉強熱心で裏の休憩室にテーブルを出しますのでそこにお願いします、

 さあ奥様も侍女長達も教本を読むのは後にして賄いを頂きましょう、」


賄いのカレーは女官の皆様に大好評で皆お代わりを頼み、

 カーンがお代わりを作っていると隣のロックがモルズに、

 「親方!エルル様を独り占めにするのはズルいっすよ!」

「おいおいロック、それを言うなら普段から料理を教えて貰っているお前達の方がズルいんじゃないか?」

「俺っち達は公爵家の同僚だから特別なんすよ!」

そんなやり取りをしている二人にカーンが、

 「ロックも叔父貴も馬鹿やって無いでほらデザートを配ってくれ、」

とエルルに作って貰ったクーラーボックスからプリンを取り出す、

 ロックが配ったプリンを一口食べた女官長が、

 「これが賄いなのですか!信じられない美味しさだわ、」

隣で侍女長もプリンを食べながら、

 「女官長様私はエルルや料理長達が作るお菓子が大好きですよ、

 ただエルル達のお料理やお菓子に慣れてしまうと、外で食事が取れなくなってしまいそうで怖いですね、」

侍女長の話しをマリーとイオが聞いて、

 「私もうちの料理が一番だと思っているから侍女長の気持ちも良く分かるわ、」

 「奥様私もそう思います、」

マリーとイオの前でデザートを食べ終わったエルルが、

 「奥様、イオさん未だ僕達が知らないだけで世の中には美味しい物は沢山あると思いますよ、

 だから皆さんも美味しい物を見つけたら必ず教えて下さいね、

 じゃあ食事が終わったら、中居役の皆さんは客室や大浴場、宴会場での立ち居振る舞いを教本を見ながらお互い確認し合って下さい、

 奥様もちゃんと女将の仕事をマスターして下さいね、

 もう一つ、今日は未だお客様がいらっしゃいませんので大浴場を自由に使って下さい、

 明日からはお客様の使用時間外になりますからね、」

 マチルダが直ぐに手を上げて、

 「エルル、今日は私達も大浴場を使っても良いかしら、」

「はい、侍女長今日のお仕事が終わったら皆さんで入りに来て下さい、

 あと執事長達にも一声かけて下さいね、」

「任せて頂戴エルル!」


その後女官さん達は頑張る中居さんの主人公におもいっきり感情移入してしまい、

 中居の仕事を覚える自分に酔っちゃって朝には完璧な中居さんになっていて皆に頑張る中居さんの続刊を頼まれちゃったよ、

 ちなみに奥様は何時も優しく中居達を見守る女将になってました。




 王宮の貴賓室でソファーに座るファーセルの皇王ドビッシュ・フォレス・ファーセルの所にジュリアスが入って来て、

 「良くおいで下さいましたファラカーン殿、」

と呼ばれたドビッシュは少し驚き、

 「オラリウス殿は良くその名を知っておいでだの、」

「はい、代々の王に引き継ぐ覚え書きにファーセル皇王陛下はファラカーン殿とお呼びするようにと、」

「そうであったか、そう伝えたのは何代前のオラリウス殿だったか、

 何時も代役の息子ばかりで申し訳ないのぉ、

 こんななりだが結構な年寄りでの、

 長距離の馬車移動はつらくての妃の様に転移でこれば良かったのだが、

 儂も儂もと付いて来たがる者が多くての、

 馬車の道中もやれ腰が痛いだの馬車に飽きたと耳に木の子が生えるかと思いましたぞ、

 じゃが!そんな思いをしても童の料理が食べてみたくての、」

「我が甥ごがファラカーン殿をお待ちしていますよ、」

「ほう、童はオラリウス殿の甥ごとな?」

「ええ、姉上の末の息子です、」

「そうであるか、こちらの大使から何でも我らの為にわざわざ宿を用意したと聞きましたぞ、」

「私もその宿を未だ見てはいませんが、きっとファーセルの方々に喜んでいただけると思いますよ、

で今晩は私主催の食事会を用意させて頂きます、

 後ほど宿でお会いしましょう、」

「おお、それは楽しみだでは今宵、」


 

 

 皇王ドビッシュが近衛とオーライド騎士団に守られファーセル大使館に着けば既に馬車が並んでいて馬車寄せにラドナスとカナリザにテュレイカが立っている、

 馬車が停まり近衛が扉を開けばカナリザが入って来て、

 「あなた遅いわよ!早く公爵家に行きましょう!さあテュカも早く乗りなさい、」

と急かすカナリザに、ドビッシュは疲れた顔で、

 「其方儂は今帰って来たばかりじゃぞ!茶の一杯でも飲ませんか!」

「茶など彼方で浴びる程飲まれませ、

 ランの話しではエルルが私の為に宿まで作ってくれたそうよ!

 これから彼方に二泊も出来る何て夢の様だわ、」

「其方だけの為では無いと思うがまあ良い、

 ラドナス公爵家に案内せい!」



公爵家の馬車寄せにファーセル皇国の馬車が連なって入ってくる、

 アルクの他使用人が皆片膝を付いて皇王が降りて来るのを待ち、ラドナスの後から降りて来たドビッシュに、

 「皇王陛下アルク・フランツ・フォン・ギルガスで御座います、」

「おお、閣下其方の招きに感謝を、」

「では陛下早速当家の隠れ宿

にご案内致しましょう、

 妻と弟が陛下のお付きを待っています、」

とアルクの言葉にドビッシュより早くカナリザが、

 「まぁ!エルルが待ってくれているのね、

 あなた!早くいきますよ、」

 

 一行が中庭に入るとカナリザとテュレイカ以外からどよめきが上がる、

 屋敷のガラス扉の前でランと大使館員にウッディ団長が片膝を付き頭を下げている、

 「おお!剣姫久しいの、シーアが帰って来てかなり膨れておったぞ、」

「陛下儂、いえ私が今回の警備責任者になりました、

 私が、安全を保証致しますので一度近衛をここで預けていただきたい、

 警備に付いて打ち合わせをしとう御座います、」

「良かろう、近衛隊長くれぐれも無礼の無い様に、」

「陛下もしこの屋敷で無礼を働く者が居れば儂、いえ私がその者をソルス様の元に送りましょう、」


 石庭の中を歩くカナリザが、

 「テュカこの石の橋貴女達の姿絵に描かれた所ね、

 あの絵そのままの景色だわ、」

 「あの絵は魔導具でエルルが描きましたの、

 さあ義母様彼方の節の木林へ、

 長老の皆様方も、」

 とテュレイカは後方に声をかけるが、

背後から付いて来ている見かけは若い老人エルフ達が、これが庭なのか?

 あの立派な節の木林を見ろ、

 などと言いながらがやがや騒がしく彼方此方を見て廻っていてテュレイカの言葉を誰も聞いていなかった。


 一行が節の木林の中に入るとスーツ姿の上からギルガス公爵家の紋章が入った半纏を羽織ったイオが立っていて、

 「皆様、お待ちしておりました、

今回の接待役を主人様から承りましたエルル・ルコルの弟子のイオ・タリスマンで御座います、

 ここから隠れ宿迄私がご案内致します、」

と片膝を付き頭を下げながら話すイオにテュレイカか、

 「イオ!出迎えご苦労様さあそんなに畏まらず案内して頂戴!」

と砕けた態度でイオの腕に手を絡め、

「陛下、義母様こちらはエルルの弟子のイオですわ、」

「ほぅ、この美しい童も常人では無いのぉ、」

「あなたエルルが弟子と認めた娘よ、常人の訳ないじゃ無い、

 イオ、私はカナリザよ、貴女の手にかかれば見違える程美しくなれるとこの国の貴族夫人達の噂になっているそうね、

 私も貴女の腕で美しくして欲しいわ、」

「皇后様のご希望とあれば、」

と何も無い所からパンフレットを出しカナリザに手渡す、

 其処にはエステサロンイオと書かれ、

 隠れ宿の中にあるサロンの場所や営業時間が書いてあり、

 これまた美しいモデルがエステを受けている精密な姿絵が細かいコース説明と共に載っている、

 因みにモデルはイオに頼まれたシャルルであった。

 カナリザの持つパンフレットを女性の長老達が囲み盛り上がっている所にドビッシュが、

 「美しい童よあの者達は放っておけば良い早う儂らを案内しておくれ、」

イオはテュレイカに腕を絡まれたまま苦笑しながら頭を下げ隠れ宿への小道を歩いて行く、

 宿を見たドビッシュは、

 「これはまた見事な造りの建物じゃな、

 我らの住まいの様式に近い様で別物じゃの、」

イオは外門の引戸を開け宿の玄関にドビッシュ達を案内する、

 宿の玄関は引戸が開け放たれ中でマリーと中居頭達が数名両膝を付き頭を下げて皇王ドビッシュ達を出迎えマリーが、

 「皇王陛下ようこそ公爵家の別邸へ、

 私はギルガス公爵の妻マリーで御座います、

 ささ、長旅のお疲れをこの別邸で癒されませ、」

と言えば数人の中居がドビッシュ達に上履きの支度をし始める、

 「奥方世話になる、しかしこの室内何と品の良い造りじゃ、

 他国であるのに我が家に帰った様に落ち着くの、」

「陛下、皇后様中居に案内させますので先ずはお部屋て休まれませ、」

ドビッシュの隣のカナリザが、

 「まあマリーさん何て素敵な衣装なのそれにとても美しいわ!

 私もこのエステとやらでイオに美しくして貰わないと、」

「皇后様もひとまずお部屋でおやすみ下さいませ、」

「そうねそうさせて頂くわ、」

と皇王と共に上履きのスリッパに履き替えぺたぺたと音をたてながら中居の後に着いていった。

 イオがテュレイカに、

 「妃様はこちらへ、」

とイオが部屋に案内すれば、

 「イオ、私の事はテュカよ、」

と言いイオは、

 「はいテュカ様、」

と頭を下げ、テュレイカの部屋の引戸を開け中に案内する、

 部屋の中は畳部屋で座卓と座布団が敷かれていたが座卓には既に長い黒髪に黒目の美しい女性が座っていてテュレイカに、

 「お久しぶりね、テュレイカ様、」

 と声をかけテュレイカは糸目を見開き、

 「リリス 様?」




 

 

 

 

 

 

 

今年一年ありがとうございました。

 次回は特別編になります。

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