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次代の聖女様

宜しくお願い致します。

 第五十話


     次代の聖女様


 

 ジオラフトの女神教総本山の一室で聖女の瞳のメンバーが定例の報告会を行ないパオラがギルガス公爵家から渡された資料を見せながら報告をしている。


「シスターパオラこれは事実なのね、」

「はい聖女様、ザビエス枢機卿と共にギルガス公爵家で直接説明を受けました、」

「驚いたわ白麦草を食べられる様にする事が出来るなんて、」

 と聖女アビゲイルはパオラから渡された資料をに目を通している。


 シスターの中で御局様と呼ばれているエルフ族のシスターが、

 「この白米に付いてはギルドからレシピが公開されていると聞いたわ、

 ファーセルの外交官がオーライドからの情報として本国に伝えて来たそうよ、

 オーライドのギルドという事は例の大賢者なのかしらパオラ?」

「はい、オーライドのギルド庁舎で確認しました、

 登録者はジル・アズビー騎士爵様でいつもと同じく特許権を放棄していらっしゃいます、」

 アビゲイルは資料から目を離し、

 「御局様、パオラからの報告書ではファーセル大使館の馬車が頻繁にギルガス公爵家に訪問しているそうですが何か情報が?」

御局様ことエルフ族のシスターセレスが、

 「聖女様はファーセルの皇太子夫妻がお忍びでオーライドを訪問していた事は知っていらっしゃいましたよね、」

「ええ、ロッティ様から似たような報告を貰っているわ、」

とお子様用の椅子に座った少女に見えるドワーフ族のシスターに問いかけると、

「様は要らないわ聖女様、ゴースロ皇太子がオーライドで目の治療を行ない近々国王自らもオーライドを訪問するという未確認情報もありますわ、」

シスターセレスが、

「ファーセルの皇太子はオーライドより帰還した後、皇王が元老院の方々と共に皇都ファラカーンを出たと言う情報もありますわ、

 もしかしたらオーライドに向かっていて公爵様と日程などの調整の為の特使が行き来しているのではないかしら、」

その場にいた全てのシスターが驚く、

ファーセルの皇王も元老院の方々も齢数百歳の老人が皇都ファラカーンを出るなどにわかに信じられずパオラが、

 「御局様オーライドに?」

「十中八九そうだと思うわ、

 皇太子も国に戻って直ぐ何か事業を起こしていると言う情報も入って来ているわ、オーライドで何か学んで来たのかしら、」

 聖女アビゲイルが、

 「どの情報もすべてがオーライドに繋がっているわね、

 パオラ少し話がそれてしまいましたが貴女はその白米をたべたの?」

パオラは大きな鞄から包みを出し、

 「はい今朝も頂いて来ました、

 あと今日はうちの孤児院の子達が作った白米を使った料理をお持ちしました、」

と包みを解き野菜の漬け物が細かく刻まれ白米と共に結んだ物を見せ、

 「子供達が作った物です、

 聖女様少々お行儀が悪いのですが手で掴んで食べて下さい、」

アビゲイルは興味深げにお握りに手を伸ばし一口食べた後、

 「まぁ!美味しいわ!これを孤児院の子達が作ってくれたの?」

「はい、聖女様に食べて頂きたいと朝早くから白米を炊いたそうです、」

アビゲイルは目を閉じ、孤児院の子達に感謝をと呟きまた美味しそうにお握りを頬張る、

 セレスが美味しそうに食べる聖女に、

 「聖女様わたし達も頂いても?」

「ごめんなさい御局様、これはエルフの方々に絶対うけると思いますわ、

あっ!でももう一つ残しておいて下さいね、」

他のシスター達の手が一斉にお握りが入った包みに伸び、お握りを食べたセレスが、

 「これを孤児院の子達が作ったの?

 この細かく刻んだお野菜はどんな調理がしてあるのかしら、教えてパオラ!」

「その野菜は漬け物と言って余った野菜などが腐ってしまわない様に塩漬けにしておいた物を細かく刻んで白ゴルマと植物油と和えて白米と一緒に結んだ物ですよ、

 この他にも白米には色々な食べ方がありまして、

 焼飯と言って炊いた白米を色々な具材と炒めて食べても美味しいですよ、」

 

 シスター達が休憩を兼ねてお握りを食べ、食べ終わった聖女アビゲイルが、

 「では皆さん教会に戻ったらこの白米の食べ方をそれぞれ教会の孤児院に指導して下さい、

きっと沢山の子供達を助ける事ができるわ、」

とアビゲイルが告げると聖女の瞳のシスター達が頷く、

 残りの報告書に目を通したアビゲイルが、

 「あとはこのブリネンで森から溢れ出した魔物の群を討伐したと言うルコルの姫の報告ね、

 まるで物語を読んでいるようよ、

 にわかに信じられないわ、」

 そこにはウェーイズの森から大量の魔物が溢れだ出し領騎士団と冒険者で近隣の町を守っていたが、

 防御陣が破られるのは時間の問題となっていた所に突如ブリネン騎士団と魔法士団が現れ、

 森の中で暴れていたワイバーンの大規模な群を半日たらずで全て討伐し騎士団と魔法士団は帰って行ったと言う、

 そしてこの騎士団と魔法士団を連れて来たのが騎士団団長からルコルの姫と呼ばれた黒髪の少女で、

 その少女は領騎士団の責任者にワイバーンの特殊個体の首を渡して帰って行ったと書かれていた。

  

 ブリネンに派遣されているシスターが、

 「ルコルの姫に付いては、騎士団や魔法士団の中で箝口令が敷かれているらしく情報の多くはその場にいた冒険者達からの情報で王宮はルコルの姫の事を秘匿したい様です、

 あとルコルの姫とはブリネンで大公爵家の娘の事を指しますが大公爵家の娘には黒髪の者は居ませんわ、」

 

 報告をを聞いていたパオラは思った、その黒髪のルコルの姫とは先日ギルガス公爵家で会ったエルル・ルコルの事であろうと、

 そしてパオラはエルルと会った時のことを思い出す。



 ギルガス公爵家に向かう馬車の中でザビエス枢機卿が迎えに来たロバートに、

 「執事殿迎えに来て頂きありがとうございます、」

「主人の命でございますお気になさらず、」

 「いえいえ閣下には教会に何時も多大な支援を頂いておりますのに私の力不足で騎士団長殿のお力になれませんでした、

 しかし噂で騎士団長殿の動かなかった肩が治ったとお聞きしました、」

 「はい、同僚の肩が治ったのは事実です、」

「宜しければ肩を治された方を教えて頂いても?」

ロバートは頭を下げ、

「申し訳ありません、私はお教え出来る立場に御座いません大神官様、」

 「こちらこそ無粋な問いでした、」



 公爵家の馬車寄せにアルクをはじめ公爵家の家族が並んで大神官を待っていて馬車から降りて来たザビエス枢機卿に、

 「ようこそ公爵家に大神官様、」

 と家族全員で頭を下げるアルクに、

 「閣下と家族の皆様に女神フィーネス様の御加護を、」

とザビエスが祈りを捧げるとアルク達家族は膝を付き頭をさげる、

そしてマリー達家族の紹介を済ませると、

 「では大神官様、皆様こちらへ、」

とアルクが言えばペレスが大神官の前に出て頭を下げ屋敷の中へ案内する、

 そして屋敷のホールに入った大神官とシスターベスとパオラは見た事が無い様式の部屋に驚く、

 広く大きな部屋は外に面する壁が全てガラスで見事な庭が見えている、

 室内も決して華美では無いが質の良いテーブルセットが複数置かれ奥のカウンターの中には料理人らしき男達が頭を下げている、

壁には執事とメイド達がこちらも頭を下げ並んでいて、

 ペレスは資料が用意してあるテーブルにザビエス達を案内すると客人が座った所でアルクだけがホールに入って来て、

 「お待たせしましたでは早速説明をして行きたいと思いますがその前に、」

とアルクは壁に立っている執事の格好をした黒髪の美少女を呼び、

 「この者はこの様な格好をしていますが父上の養子で私の弟になります、」

と紹介されたエルルは大神官達にぺこりと頭を下げにっこり笑い、

 「エルル・ルコルと言います、

 先日はお世話になりました大神官様シスター様、」

と言うエルルにアルクが、

 「何だエルル大神官様達と面識があったのかい?」

「はい、休暇中にイオと大聖堂に参拝して来ました、」

テーブルの反対に座るザビエスが、

 「なんと!公爵家の使用人と伺っていましたが、閣下の妹君だったとは!」

と驚いていて隣に座るシスターベスもまぁ!と口に手をあて驚いている、

 アルクがエルルに隣に座る様促しエルルが座ると、

 「大神官様お連れの方々を紹介して頂いても?」

「これは失礼しました、隣に座る者はシスターベス、孤児院の院長をしております、

 その隣の者は聖女様からお預かりしていますシスターパオラ、

 次代の聖女候補の一人です、」

アルクとエルルは驚き、

 「何と!次代の聖女様とは!」

とアルクが言えばパオラは慌て、

 「いえ!私は決してその様な存在では有りません、」

 と言うパオラにエルルが色紙とマジックペンを出しキラキラ光る目で、

 「聖女様って本当にいらしたのですね!

 宜しければ弟子のためにサインを頂きたいのですが!あ痛っ、」

とアルクにげんこつを落とされたエルルが頭を両手でおさえる、

 ザビエスとベスはぷっと吹き出しパオラは驚いた目でエルルを見ていた。


 「弟が失礼しましたシスター様、

 エルル大神官様達に説明を、」

 と促すとエルルは何事も無かった様に席から立ち上がり、

 「では大神官様お手元の資料を見ながら白米の精製から調理の仕方まで料理長達と実際に行って頂きます、

 質問があれば随時聞いて下さいね、」

 と言うエルルの所に籾殻の付いた白米といくつかの道具を料理長とロックが持って来て大神官達に頭を下げる、

 エルルは籾殻が付いた米を大神官達に見せながら、

 「こちらが資料に有ります天日干しが終わった葉鞘から穂の部分だけを取り出した物です、

 ここまでの作業は小麦や大麦と変わりませんが、白米は小麦の様に挽いたりせずに、瓶の中に入れて棒などで突いて殻を剥がして下さい、

 また風魔法を使えればこの様に、」

 とエルルはガラスの瓶の中に籾殻の付いた米を入れ蓋をすると瓶の中を風魔法でかくはんさせ、

 あっと言う間に精米をする、」

 大神官が、

 「凄い!風魔法を自在に操ってみえる!」

「魔法にはちょっとだけ自身がありまして、

さあ次の工程からは料理長達に実際に精米した米の炊き方を習いましょう、」

とエルルはカウンターの席に大神官達を連れて行き、

 表の厨房に入った料理長が米の洗い方や炊き方を教えて行く、

 奥の厨房から上着を脱ぎ腰にエプロンを付けたエルルが飯櫃を抱えて出て来て、

 「米が炊き上がるまでには時間がかかりますので今回は事前に炊いたお米を使わせて頂きます、」

と言って大神官達に飯櫃の中をみせ、

 「これが資料にも載っています白米を炊き終えた状態ですね、

 では簡単に出来るお結びから作っていきますね、」

 と言ってエルルは野菜の漬け物を細かく切り刻み白ゴルマと植物油を混ぜた物を白米と和え握ってお握りにすると大神官達の前に用意された皿の上に置いて行き、

「こちらの野菜は売れ残って、このままでは売り物にならなくなる前の物を格安で譲って頂き漬け物にした物です、

さあ召し上がってみて下さい、」

 「こらっ!エルルお客様に失礼でわないか!

大神官様弟の無礼をお許しください、」

 大神官は資料を見ながら、

 「閣下!お待ち下さい!姫様は無礼などおっしゃてはおりません、

 こちらの資料を見て下さい野菜を漬け物にすれば日持ちする様になるそうです、

 売れ残った野菜を少しでも安く仕入れ野菜を保存する方法を教えて下さっています、

 我々孤児院にとって一番の心遣いでございます、」

 熱弁する大神官の隣でシスターベスが、

 「まぁ!とても美味しいわ!流石は公爵家の料理人様ね、」

ベスの隣でパオラもお結びを食べ驚いている、

 料理長が頭をかきながら、

 「シスター様こちらは今エルル様が作られた物でごさいますよ、」

ザビエスも手でお握りを掴み一口たべれば、

 「おお!白米と野菜の塩加減がなんとも良い塩梅ですな、

いくらでも食べられそうです、」

 エルルはカウンター中で焼き飯を作りながら、

 「シスター様どの料理も資料に書きました分量と時間を守れば誰でも同じ物ができますよ、

 これも試してみて下さい、」

と小さ目の小皿に乗せた焼き飯とスプーンを並べる、

 「姫様これも美味しいですな、

 先程のお結びとは風味と食感が焼く事によって変わりましたな、

 それにこの味付けがまたたまりませんな、」

 「匂い根などお手頃な野菜と細かく刻んだ干し肉などが入ってるんですよ、

 で最後はスープに炊いた白米を入れる事で雑炊ができます、

 お出しした焼き飯の様にスープの具材も細かく刻んで下さい、

 その方が食べやすくこんな風になるんです、」

 とエルルは深めの小皿に雑炊を入れスプーンと一緒に出す、

「これなら子供達にお腹いっぱい食べさせてあげる事が出来るわ!」

 エルルはベスの言葉に微笑んで、

「雑炊を一度に沢山作る時はスープが出来てから各自が白米をスープに入れる様にして下さいね、

 これからはパンの日、白米の日などと食事に減り張りがついて食事が楽しいと思って貰えると嬉しいです、 

 資料に色々なレシピを考えて載せておきましたので試して見て下さい、」

 

 シスターベスの隣で大神官が目頭を抑え、

 「何と素晴らしい事だ、今日公爵家に招いて下さいました閣下や姫様と、何時も私達を見守って下さる女神フィーネス様に感謝致します、」


 試食が終わると料理長がお茶を出しエルルが、

 「このお菓子は昔修道女様達が作っていらっしゃったと伝わるお菓子でカヌレといいます、」

と言って焼き菓子を皆の前に並べる、

 ザビエスは興味深くカヌレを見て、

 「ほう、シスター達が菓子ですか私は聞いた事がありませんな、」

ザビエスの言葉にエルルは内心、

 そりゃあそうだ作っていたのは前世の修道女さん達だからねと思っていると、

 シスターベスはカヌレを食べて固まってしまって隣に座るパオラが、

 「この焼き菓子凄いわ!今流行りのお菓子店のケーキより上品な味、

 風味付けは果樹酒かしら、どちらかと言えばゴースロの火酒に近いわ、」

パオラの観察力にエルルは関心して、

 「流石は聖女様でございます、使っていますお酒は火酒と同じ製法で作った甘笹の蒸留酒です、」

「姫様レシピを教えて頂く訳にわいきませんか?」

と身を乗り出すパオラに、

 「元々教会の修道女様達がお作りになったお菓子です、

 ギルドの登録も未だの様ですし教会で登録されてはいかがです?」

ザビエスが、

 「姫様!こちらの菓子のレシピを我々の教会に譲って下さると?」

「大神官様譲るもなにも修道女様達がお作りになったお菓子ですよ、」

「ああ!何と素晴らしい!

 しかし惜しい!教会ではこの素晴らしい菓子を売る事が出来ない!

しかしこの件は総本山の教皇様や聖女様に相談致します、」

 「大神官様、教会で物を売る事が出来ないのでしたらお布施をして頂いた方に感謝の気持ちとして焼き菓子をプレゼントしては如何ですか、」

 とエルルは言い、悪戯っぽいウインクをした。




 教会に戻ったザビエスは執務室にパオラを呼び、

 「シスターパオラ公爵家をどの様に感じましたか?」

 「正直今でも信じられません、

 全ての事が私の常識から外れていました、

 ほとんど揺れない馬車に屋敷の部屋そして、」

「姫様か、」

「ええ、あのお方は常人では無いかと、

 あと大神官皆姫様と呼んでしまいましたが閣下が最初に自身の弟と紹介されましたよ、」

「姫様がそう言う趣向のお方なのでは?とても男には見えなかったが、」

「きっと周りの方からも姫様と言われていらっしゃるのでしょう、あまり気にはして無い様でした、

 それと大神官私の紹介が終わった後姫様が厚紙と羽根ペンの様な物を出された時の事を覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、姫様が閣下からげんこつを頂いた時は思わず吹き出してしまったからよく覚えているよ、」

「姫様何も無い所から取り出されましたよ、あれは今は失われた魔法と言われている空間魔法だったのでは、」

「シスターパオラは魔力の質を感じる事が出来ましたね、

 貴女がそう感じるなら事実かも知れません確かに姫様の魔法は卓越した物でした、」

コンコン、と扉をノックする音がして大神官が返事をすれば秘書をしているシスターが、

 「アズビー商会の会頭が大神官に面会を求めていらっしゃいますが、」

「オーライド一の大商会の会頭自らとは、

 宜しい応接室でお待ち頂きなさい、

 シスターパオラ丁度良い貴女も会頭に会っておきなさい、」


 大聖堂の応接室でショーンは兄のクレオに、

 「相変わらずここの混み具合は何とかならない物なのか、シスターに取り次いで貰うのに鐘二つかかる何て、

ってウェンディこんな所でエルルから借りている姿絵なんて出すんじゃない!」

「あら良いじゃない!エルル君から早めに決めてと言われているのよ、

 でも貴方のお屋敷でおトイレを借りた時に貴方がエルル君にトイレの改装をお願いしようとしたのが分かったわ、

 あんなおトイレ見た事がないもの、

でもやっぱりウエディングドレスは譲れないわ、」

二人のやり取りを聞いていたクレオが、

 「妻がウェンディに見せて貰った見本絵を見て私も着てみたいと言い出して大変だったよ、」

 

 そこにノックの音と共に大神官がシスターを一人連れて入って来て、

 「お待たせしてしまいましたな、所用で外に出ていまして、

 こちらの長をしておりますザビエスです、」

「いえ、私はクレオ・アズビーといいます、隣は弟のショーンその隣が弟の婚約者のウェンディ嬢でございます、 

 本日は弟とこちらのウェンディ嬢の結婚式を執り行って頂きたく参上いたしました、」

「おお、それはおめでとうございます、」

と言って大神官が手を二回叩くと秘書のシスターがファイルの様な紙束を抱えて入って来て大神官が、

 「こちらの者は教会の事務方のシスターで祭典や冠婚葬祭の予定を管理しております、

 してどちらの別院で式をお望みですかな?」

ウェンディが、

「出来ましたら東別院でお願いしたいのですが、」

「貴族の方や商売をされている方々に人気がある分院ですな、」

 ザビエスの背後に立っていたシスターがファイルを開け、

 「こちらの空白の所が東別院が空いている日で御座います、

 ご希望の日取りが有りましたら押さえる事が出来ます、」

 希望の日が空いていたようで日程と取り行う司祭が決まるとシスターが退出して行く、

 クレオは鞄から革の袋を取り出し机の上に置くとすっと大神官の前に押し出すと大神官は胸の前で両手を組み、

 「皆様に女神フィーネス様のご加護があります様に、」

と祈りをささげ、計った様なタイミングでシスターがお茶を運んでくると大神官が、

 「今日ここでアズビー家の皆様にお会い出来たのも女神様のお導き、

 良い機会なのでこちらのシスターを紹介致しましょう、

 こちらはシスターパオラ、

 聖女様からお預かりしている次代の聖女候補の一人です、

 シスターパオラ皆様にご挨拶を、

 んっ、パオラ?」

ザビエスが隣のパオラを見ればパオラはウェンディの座るソファーに置かれた姿絵に釘付けになっていて、

 呼ばれていた事に気付き、慌てて頭を下げる、

 「その様な高位のシスター様にお会い出来て光栄です、」

と言うクレオにパオラは手を振り、

 「私達は高位のシスターではありませんパオラと申します、

 そちらの姿絵があまりにも見事でしたので、」

ウェンディは片付け忘れていたカタログを慌てて自身の鞄にしまい、

 「申し訳ありません私の結婚式の衣装の見本絵でして結婚式までの秘密で御座います、」

「それは残念です、時間が有れば必ず分院に伺わせて頂きます、

 ウェンディさんにお聞きしたい事がもう一つあるのですが、」

「衣装の事以外でしたらなんなりと、」

「ではウェンディさんのその髪はどの様な手入れをしていらっしゃるのか教えて下さいませんか、

 今日外に出たのですが出先でお会いした女性方も皆素晴らしい艶がある髪をしていらっしゃいました、」

ショーンがウェンディの隣から、

 「聖女様はもしかして今日ギルガス公爵家に行かれたのでは?」

「何故それを?」

「実は弟と従兄弟がギルガス公爵家で働いていまして、あとうちのお得意様ですのでお会いする事もありまして、公爵家で働く女性の髪が美しいと評判なんですよ、」

 そこでクレオが、

「ウェンディ嬢の実家のメディアン家に弟は婿入りする事になりまして、

 近々メディアンが開発した髪を洗うシャンプーと言う液体石鹸とシャンプー後に髪を整えるコンディショナーと言う薬液をうちが販売するのですよ、

 私の妻も使っていますがウェンディ嬢の様な髪になりますよ、

 ここで聖女様にお会い出来たのもご縁、

 オーライド一の製薬商会のメディアンが開発したシャンプーとコンディショナーを是非ジオラフトの聖女様にも使って頂きたく、

 勿論パオラ様シスターの皆様が使って頂き満足して頂けたらで構いません、

 是非聖女様に献上させて頂きたい、

パオラは目を輝かせ、

 「お任せ下さい!責任を持って使用感を聖女アビゲイル様にお伝えしますわ、」

「ありがとうございます、後程商会の者を遣します、

とっ!失礼しました大神官様勝手を言ってしまいました、ご許可願いますでしょうか、」

「シスターパオラがあの様に喜んでいるのです、

 私が断ればシスター達からソルス様の元に送られてしまいそうですよ、」

「その様な事は御座いませんが、先輩シスターや同僚達から間違えなく口を聞いて貰えなくなりますよ、」

と本気で突っ込まれるザビエスであった。



 

 聖女の瞳の報告会が終わるとパオラの所に同僚達が集まり、

 「パオラ!何その髪どうしちゃったの!美しい絹の様よ!」

と囲まれ質問攻めにあっているとアビゲイルがパンパンと手を叩き、

 「パオラ教皇様達の会議にいきますよ、打ち合わせがあるので私の部屋にいらっしゃい、」

と付いて来る様に促されパオラが広いアビゲイルの部屋に入ればお付きのシスター達にテーブルに案内されアビゲイルが目をキラキラさせて、

 「あの店のケーキはちゃんと買って来てくれた?

 あとその髪はどうしたの?」

 パオラは持って来た鞄からシャンプーとトリートメントの瓶を出し、

 もう直ぐオーライドで販売される髪用の液体石鹸のシャンプーと、

 洗髪の後に髪を整えるトリートメントと言う薬液です、使用法が書いた紙も有りますので使ってみて下さい、

 これはオーライド一の大商会の会頭から聖女様への献上品だそうです、

 聖女様に気に入って頂ければ定期的に献上致しますだそうです、

 これ売り出されたら凄い騒ぎになりますよ、王都の大聖堂付きのシスター皆が私と同じ様な髪になってから噂が広がり、何処から漏れたのか商会の方への問い合わせが凄い事になってるそうですよ、」

 「まぁ!嬉しいわ!聖女だってこの位のご褒美が無くてわね、

 で一度髪を洗えばそんな髪になるの?」

「はい一度目が一番実感出来ますよ、」

「ふふふ今晩が楽しみね、でケーキは?」

またまたパオラは大きな鞄から紙袋を二つ出し聖女付きのシスターに、

「この中に入っているお菓子を配膳係に持って行って教皇様の会議の時に出して頂戴、」

と告げるとシスターは頭を下げ部屋から出て行く、

 パオラはもう一つの紙袋の中から教会のシスター達で作ったカヌレを出し、

 大聖堂のシスターで作ったカヌレと言うお菓子です、」

「ええっ!あの店のケーキじゃないの?」

パオラはあまり無い胸を張って、

 「聖女様一口食べてみて下さい、あの店のケーキより美味しいですよ、」

「だってパオラ貴女達が作ったんでしょ、まぁ頂いてみるけど、」

と言ってカヌレを一口食べ、

 「嘘っ!何これケーキより上品で美味しいわ!」

「私が公爵家で頂いたカヌレはもっと美味しかったんです、

 材料のお酒が違う様で微妙に頂いたカヌレと風味が変わってしまって、」

「充分美味しいわよ、このお菓子の前では有名店のケーキが霞んでしまうわ、

これ売り出したら凄く売れるわよ、

 ねえお代わりは?」

「会議の時にもう一つ出ますよ、

 会議に参加される方全員分作って大変だったんですよ、」

 「パオラ早く会議室に行くわよ!」



 聖女アビゲイルがパオラを連れて会議室に入れば教皇以下各国の枢機卿達が席に着いていて入って来たアビゲイルに教皇が、

 「聖女アビゲイル、そちらの会議は如何でしたかな、」

「猊下今回は興味深い話題がいくつもありましたが、全てオーライドに繋がっていますわ、」


 「こちらもザビエス枢機卿から聞きました、

 何でも白麦草を食べるとか、他の枢機卿から子供達に家畜の餌を与えろと言うのかとの声も出ています、」

 アビゲイルは席に着きながら、

 「私は先程子供達が作ってくれましたお結びと言う料理を頂きましたわ、

 とても美味しく頂きました、」

ザビエスが、

 「先程から申し上げた様に私達が白麦草の調理法を知らなかっただけで正しく調理すればパンと並ぶ食材になるのです、」

「まあまあザビエス枢機卿、誰も貴方の事を疑ってなどいませんよ、

 貴方のおっしゃる通り我々が知らなかっただけなのでしょう、

 ただ今までずっと家畜に食べさせて来た雑草と言うイメージが強くついているのです、」

 「猊下私はこの白米を使った料理を色々食べてみたいですわ、

 オーライドでは貴族が白米を使った色々な料理を食べているそうですよ、」

 教皇が資料に目を通しながら、

「分かりました聖女よ私もその白米を食べてみましょう、

 もう一つこの報告にある焼き菓子ですが、」

教皇が話ている途中でアビゲイルが、

 「猊下!お茶に致しましょう、パオラ達オーライドのシスターがその焼き菓子を作って来てくれています!」

「聖女よ落ち着かれよ、」

と言って食い付いて来る聖女にやれやれと教皇が壁側に立っている司教に手を上げると司教が部屋から出て行き、直ぐに配膳係のシスターがお茶とカヌレを持って入ってくる、


 「ほう、これを昔シスター達が作っていたと?」

「はい、公爵家の姫が申しておりました、」

教皇が聖女を見れば焼き菓子を夢中で食べていて自身も一口たべれば、

 「これは!これをオーライドのシスター達が作ったと?」

とアビゲイルの背後に控えているパオラを見て、

 「確か貴女は聖女の瞳のシスターパオラ、

 これを貴女達が作ったのですか?」

と問われたパオラは、

 「はい教皇様、私が公爵家で頂いた物よりは落ちますが、」

教皇はパオラの返事に驚きもう一度手元の資料を見直し、

 「この菓子の権利を教会に譲ると?」

ザビエス枢機卿が、

 「はい、公爵家の姫が元はシスター達が作っていた菓子だからと、」

「先程の白麦草の事といいその姫はまるで賢者の様ですね、

 しかし惜しい我らは商売をしてはならない、この菓子を売る事が出来れば、」

「猊下お布施をして頂いた方々に感謝の形でこの菓子を差し上げては如何です、」

と言うザビエスに教皇は目を細め、

 「それも姫が考えられたのですね、

 どうでしょうこの様に教会を知識で導いて下さる姫君を今年の降臨祭にお招きしては如何でしょう、

 今年は四年に一度の大祭各国の王族も参加されますのでオーライドのオラリウス陛下に姫君の事をお願いしてみます、

 勿論今回の件は公爵家からのご提案ですので公爵閣下もお招きしないといけませんね、」

 と言って回りの枢機卿達を見れば反対意見は無く教皇は他の報告書を確認し、

 「ではもう一人の姫のお話ですね、

 こちらもにわかに信じられない報告ですが、」

と教皇がブリネンの枢機卿を見れば、

 「あくまでも冒険者達からの情報でブリネン王家は秘匿したい様ですな、

あと報告書のルコルの姫と呼ばれた黒髪の少女なのですが、

 ルコル家の姫に黒髪をの者はおりません、」

ブリネンの枢機卿からの報告にザビエスは驚きの顔でブリネンの枢機卿を見ていてそれに気付いた教皇が、

 「ザビエス枢機卿如何しました?」

呼ばれたザビエスははっと我に帰り、

 「私がお会いした公爵家の姫様は黒髪でエルル・ルコルと名乗られました、」


 


 おまけ


 「ただいまぁ!」

「ピィ〜!」

と自宅に帰って来たエルルにユユが飛び付いて来る、

 「ユユお留守番ご苦労様、姐様ただいま戻りました、」

「お帰りエルル、イオもさっき帰って来てカレンとお風呂に入ってるよ、」

 「イオさんも帰って来てたのですね丁度良かった、」

「何かあったのかい?」

「エルルさんお帰りなさい、」

と声がかかりエルルがそちらに向けばバスローブ姿のイオが立っていて、

 「ただいまイオさん、もう!ちゃんと着替えて出て来て下さいよ!

 でまたお手伝いをお願いしたいのですが、」

「分かりました、で何を?」

「主人様が近々いらっしゃるファーセルの皇族の方々の接待役を仰せつかったので準備をしようと思います、

 実は陛下から結構な予算を頂いているんですよ、」

話しを聞いていたリリルが、

 「なんだい!ジュリアスとアルクはエルルに丸投げかい?」

エルルは苦笑いしながら、

 「まぁ何とかしますよ、ってそうだ!

 僕聖女様候補のシスター様にお会いしたんですよ!凄いでしょう!」

イオがエルルの両肩を手で掴み、

 「エルルさんサイン貰ってくれましたか?」

 「ごめんイオさん貰えたのは主人様のげんこつでした。」



 

 





 


 

 



 

 


 

 



 





 


 


 




 



 






 

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