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執事のお仕事。

宜しくお願い致します。

第四十九話


    執事のお仕事、


 「伯父上に学園に送って頂くのは初めてですね、」

「そうですね若様、私は学園という所に通った事が無いので少し楽しみです、」

馬車の向かいに座るナターシャとナルゼが、

 「では伯父上はどこで学ばれたのですか?」

「祖父や祖母からとアズビー商会の前会頭のジル・アズビー騎士爵様に頂いた本で学びましたよ、」

「私は学園よりも伯父上に習った方が魔法が上手くなると思いますが、」

「そんな事は有りませんよ、先生方は何も技術や知識を教えるだけではないのです、

 それは私には出来ない事なのですよ一の姫様、」

ナターシャの隣のナルゼが、

 「ですが伯父上先日魔法科の先生が兄上にトーチの魔法を聞いていましたぞ、

学園でも青い炎が操れるのは初等部いや高等部でも兄上しかいませんぞ、」

エルルは人差し指の上にぽっと青い炎を出し、

 「では姫様達に宿題です、青い炎が作れる様になったらこのチョコレートと言うお菓子をプレゼントです、」

「はい!はい!伯父上出来ました!」

とアイリスが人差し指に青い炎を付けて見せる、

 「若様はこちらの魔法が成功したらです、」

と反対の人差し指に水魔法で水球を作って両指をエアリスに見せる、

 「伯父上これは魔法の多重行使です、魔法科の高等部主席でも難しいのでは、」

「コツですよ、コツさえ掴んでしまえばこんな具合に、」

それぞれの指全部に火と水を交互に作る、

 不意に馬車が速度を落として道の隅により馭者席からタログが、

 「先生王宮の馬車に道を開けやす、」

エルルは窓から外を覗けば他の馬車も停車していて立派な白い馬車が通り過ぎて行く、

 ナルゼが指の炎と睨めっこしながら、

 「伯父上あの馬車は殿下ですな、」

「皇太子殿下ですか?」

ナターシャが、

 「いいえ姫殿下ですわ、皇太子殿下は自主登校の院生で私もたまにしかお見かけしません、」

「一の姫様皇太子殿下は多分私より年上に見えたのですが、」

「ええ、高等部を卒業された後院に進まれています、

 院生には学年が無く教授の元で何年も研究されている方もいますわ、」

「なるほど、」

「おおっ!伯父上見て下され炎が青くなりましたぞ!」

「二の姫様コツを掴みましたね、」

「兄上から炎に空気を送り込むイメージだと聞いていましたからな、窓から入って来た風に炎がぶれ一瞬青くなりました、

伯父上お菓子を下され、」

「約束でしたからね、でも授業中に食べちゃダメですよ、」

とエルルに板チョコを貰うとナターシャが、

 「ナルゼずるいわ!」

ナルゼは人差し指を立て青い小さな炎をぽっと出し、

 「姉上も練習あるのみですぞ!」

ナターシャが悔しがっていると馬車が止まりタログが扉を開け頭を下げている、

 エルルが先に降りてナターシャの手を引き馬車から下ろすとナルゼは馬車からぴょんと飛び降り、

 アイリスが、

 「ナルゼ何時もロバートに叱られてるだろ、まったく!」

「二の姫様淑女は馬車から飛び降りては駄目ですよ、

 飛び降りるなら優雅に浮遊魔法で浮いて降りて下さいませ、」

アイリスは子供らしくない疲れた顔で、

 「伯父上そちらは更に皆が引いてしまいます、」

 エルル達が話している所の前に停まる立派な馬車から見覚えのある老紳士に手を引かれた少女が降りて来てナルゼを見つけると小走りに走り寄ってきて、

 「おはよう!ナルちゃん、」

「おはようございます姫殿下、」

「もうっ!ルーナよルナでしょ!」

「おはようございます殿下、」

「ご機嫌よう、ナターシャ様アイリス様、」

ルーナはナルゼ達の横で片膝を付いて頭を下げているエルルをみて、

 「あら、今日はロバートじゃ無いのね、」

「こちらは私の伯父上のエルル様ですぞ、」

「まぁ!父上や母上が何時も話している伯母上様のご養子様でしたわね、

 でどうして執事の格好をしていらっしゃるの?」

「なに、とても粋狂なお方でな、執事になる事が子供の頃からの夢だったそうでの、」

「相変わらずナルちゃんは御老人の様な話し方よね、

でも私の従兄になるのよね、

初めましてエルル様ルーナですわ、」

とスカートをちょんとつまみ少し腰を折る、

 「お辞め下さい姫殿下、私は公爵家の使用人で御座います、

さあ次代様一の姫様授業に遅れてしまいますよ、また午後にお迎えに上がります、」

とアイリス達を送り出す、

慌てて学園の門をくぐるナルゼ達を見送っていると老紳士が、

 「今日はロバート殿ではないのですかな、」

「はい、私は執事見習いのエルルと申します、」

「ほう貴女が、いえ失礼見習い一人で送迎を任されるとは貴女は閣下に余程信頼されているのでしょうな、

 はて何処かでお会いした様な、」


 やべえ!やっぱりこの爺さん王城でとんでもない殺気飛ばして来た爺さんだよ、

 エルルは冷や汗をかきながら老紳士に頭を下げタログの横の馭者席に座り屋敷に帰って行った。

 

 使用人控え室に戻ったエルルは執事長ペレスに、

 「ただいま戻りました執事長、」

「エルルご苦労様帰って来て直ぐで悪いがギルド庁舎の貴族課に行ってこの書類を届けたついでにエルルも登録してきてくれ、

 次回からそこに給料が振り込まれる、」

「分かりました直ぐに行って来ます、」

 と言ってエルルはその場からすっと消えギルド庁舎の裏道へ転移した。


 エルルはギルド庁舎の廊下を歩き、

 貴族課、貴族課とあったあった!

と貴族課の受付窓口で、

 「ギルガス公爵家の者ですがこの書類をお願いします、

 あと使用人登録もお願いします、」

と言うエルルに向かいの知的そうな美人のお姉さんが、

書類の中身を確認し前世の判子に当たる魔力を使ったギルド印を押すと、

 「書類は受理いたしました、

 使用人登録はご本人様で宜しいですか?」

「はいお願いします、」

「では他のギルドで登録をされていますか?」

「冒険者ギルドに登録しています、」

「ご本名で登録されていますか?」

「いえ、」

「貴族家の使用人登録は原則本名になりますので別途登録して頂きます、

 こちらの書類に必要事項を記入して下さい、」

エルルは渡された書類に必要事項を記入し受付のお姉さんにわたすと、

 書類を確認した後魔導具を操作して、

 「では決済用の魔力登録をしますのでそちらの石に手を置き魔力を流して下さい、」

エルルが魔力を流せば石が一瞬光り

魔導具からカードが出てくる、

 冒険者ギルドのカードを作った時にも思ったがある意味で前世よりハイテクだよ!

 いったい誰がこんな凄いシステムを作ってるんだろう?今度ナハリに行った時にストーキンさんに聞いてみなくっちゃ!

 受付のお姉さんがカードを差し出して、

 「登録は完了致しました、他のギルドカードとも同期していますがどちらのカードも大切に保管して下さいね、」

 「ありがとうございます、」

 とエルルはカードを受け取り、

 ネックホルダーを出し新しいギルドカードを入れていると受付のお姉さんはエルルの等級外と書かれた濃い紫色の冒険者カードを見て、

 「凄い!私等級外のカードは統括以外初めて見ました、そんな色もあったのですね、」

エルルは人差し指を口に当てウインクをしながら、

 「秘密にして下さいね、」

と言えば、

 「はい、我々ギルド職員には守秘義務が課せられていますので安心して下さい、」


 

 用件を済ませたエルルがギルド庁舎の階段を降りていると一階の製薬ギルドと書かれた部屋からショーンが出て来るのを見つけ、

 「ご無沙汰してますショーンさん、」

と声をかける、

 ショーンさんはいきなり声をかけられてびっくっとしながらエルルに気付く、

 そこにショーンの背後から女性が出て来て入り口に立っているショーンに、

 「ショーンどうかしたの?」

 二人から一度に声をかけられたショーンは背後の女性に、

 「ウェンディ丁度良いエルルを紹介するよ末の弟だと思ってくれ、」

エルルはウェンディにぺこりと頭を下げ、

 「エルル・ルコルと言います、ショーンさんのお父上様には赤子の時よりお世話になっていて今はギルガス公爵家で働かせて頂いています、」

「初めましてエルル君、君もジャン君と同じ公爵家で働いているのね、

 私はウェンディ・メディアン、薬剤の研究をしているわ、」

ショーンが挨拶を交わしている二人に、

 「二人共立ち話も何だから商談サロンに移動して話さないか?」

「ショーンさん僕は構いませんよ、」

 「じゃこっちだ、」

とショーンは商業ギルドの一角にある商談サロンの空いているテーブルに付き、

 「エルル何か飲むかい?」

とショーンが言えばエルルはその場にティーセットを出し、

 「ショーンさん僕が用意しますよ、」

と紅茶セットを出し二人に紅茶を煎れる、

 「わっ!何これ奇術?」

とウェンディがエルルに尋ねればエルルは、

 「魔法ですよ、秘密にして下さいね、」

「まさか魔法の袋?うちのお爺様でも持って無いわ!良かったら見せて貰えないかしら、」

 「こらウェンディいくら末の弟だと言っても失礼だぞ!それに少女の様に見えるがエルルは当代の剣聖様だぞ、」

「ショーンさん!僕は剣より魔法の方が得意なんですってば!」

「剣聖って何?ショーンのお父様よりは強くはないでしょ?」

 「馬鹿!親父なんて瞬殺されちまうわ!

 ああっもぅ!話がそれちまったエルル改めて紹介するよ、婚約者のウェンディだ、」

「ジルおじさんから聞いてましたよ、

 おめでとう御座いますショーンさんウェンディさん、」

「ありがとうエルル君、騎士爵様より強くて魔法が得意なんて凄いのね、

 もしかして治癒魔法とかも使えちゃったりして?」

「ウェンディ、エルルはどんな魔法でも使えるぞ、」

 ショーンの突っ込みに目を丸くしているウェンディに、

「ウェンディさん製薬の研究をなさっているのでしたら薬剤師様なのですか?」

「ええ薬剤師の資格は持っているわ、

 稼業が製薬商会なの、」

「製薬から卸売業まで薬業界ではオーライド一の大店だな、」

「オーライド一なんて凄い!もしかしてポーションとかあるのですか?」

「飲み薬ね、解熱に腹痛とか色々あるわ、」

「怪我をしている所にかけたり瀕死の状態から忽ち治ってしまう物とかは?」

「貴女物語の読みすぎじゃない?それってダンジョン最深部にあると言われる伝説のエリクサーの事よね、」


 そうだよね、いくらファンタジーの世界でもそんなチートな薬はないよね、

 「すいません僕も製薬に少し興味がありまして、今度お店に伺わせて頂きます、」

「私なんかより騎士爵様にお聞きした方が勉強になると思うわよ、

 製薬業界では騎士爵様を大賢者様と崇める者も多いのよ、」

ショーンはなんとも言えない顔をしながら、

 「まあエルル俺はメディアン家の婿養子になるんだ、これからも頼むな、」

エルルもなんとも言えない顔で、

 「こちらこそ、ってそうだ!ショーンさんウェンディさん結婚祝いに何か欲しい物はないですか?

 兄の結婚祝いなんです何でも用意しますよ、」

 ウェンディは悪戯っぽく、

「本当に?私も女の子だから結婚式はお姫様の様なドレスが着てみたいかな、

でも気持ちだけで充分よ、」

 「おい!ウェンディ俺はエルルに屋敷のトイレを改装して欲しいのだが、」

 「ショーンなんでおトイレなのよ!そんなのエルル君じゃなくて業者に頼めば良いじゃない!

 それに今流行りのトイレは予約待ちなんだから、」

そんな二人のやり取りを見ていたエルルが、 

「ウエディングドレスですか、ヨツバルンではどんなドレスを着るのか知りませんが私の方だとこんなドレスですが如何です?」

とエルルはまるで結婚式場のプランナーの様にウエディングドレスのカタログを見せる、

 エルルの出したあまりにも精密な姿絵にウェンディは驚き穴があく程カタログを凝視しながら、

 「なっ!何このドレスこんな素敵なウエディングドレス貴族様の結婚式でも見た事がないわ!エルル君暫くこの姿絵をお借りして良いかしら?」

「はい、構いませんよ試着とか有りますので決まりましたら早めに連絡下さい、

 当日は僕の弟子にお化粧をさせますよ、

 因みに弟子は王妃様付きの女官の方々から先生と呼ばれている凄腕ですよ、」

「イオさんは凄いなエルル俺の奥さんを綺麗にしてやってくれ、」

 「ショーンさんウェンディさんは今でも充分お綺麗ですよ、」

 ウェンディはふと我に返り、

 「でもこんなドレスいったいいくらするのかしら、

 ショーンいくらアズビーの家でもこのドレスを手に入れるのは難しいんじゃない?

エルル君って何者なの?」

エルルはにっこり笑い、

 「ウェンディさん物作りは僕の趣味なんですよ、魔物の素材一つから全て自分で用意して作った物ですからただなんです、

 あっ、そろそろお屋敷に戻らないと!ではショーンさんウェンディさん連絡待ってますね、」

 と言い一瞬で机の上を片付け二人に頭を下げギルド庁舎を後にした。



 

 「ナルちゃんさっきの授業先生驚いてたね、」

と休み時間に王女ルーナがナルゼに背後から声をかければナルゼはビクッとしながら鞄の中に何かを隠す様にしまい、

 「でっ、殿下なんでしたかの、」

「もうっ!聞いて無かったわね、」

とルーナは頬をぷぅ~っと膨らませるが徐にナルゼの顔に顔を寄せすんすんと匂いを嗅ぎ、

 「ナルちゃん甘い匂いがするよ!何を食べてたの?」

ナルゼはルーナから目を逸らせながら、

 「はて?何の事ですかの?」

ルーナはナルゼに手のひらを出し、

 「ナルちゃん私にも頂戴!」

「殿下私は何も食べておりませんぞ、」

と言いながら机の横に掛けてある鞄を押さえる、

 「ナルちゃん母上やディアナ様も公爵家のお菓子はこの世の物とは思えない程美味しかったって自慢するのよ!

 私も公爵家のお菓子が食べてみたいの、

 さあ鞄の中のお宝を出してナルちゃん!」

ナルゼは人差し指にぽっと青い火を付け、

 「殿下残念ながら私が食べていたチョコレートと言う菓子は差し上げられませんな、

 これは伯父上との約束で青い炎が使える様になった者でないと食べられませんな、」

「ええっ!何それそんなのずるいわ!」

「朝姉上も殿下と同じ事を言っていましたぞ、

 先程の魔法の実習授業で皆の前でコツを話したではありませんか、

 練習あるのみですぞ!

 もし殿下が青い炎を使う事が出来ましたらちゃんと伯父上に話してご褒美を頂いてきますぞ、」

ナルゼの言葉にルーナは少し考えた後、手のひらにこぶしをぽんと乗せ、

 「ナルちゃん今日ナルちゃんの家で一緒に勉強しようよ!

 私も従兄のエルル様から魔法を習いたいわ、」

「姫殿下いきなりその様な事を言われましても伯父上や家の者達が困ってしまいますぞ、

 そもそもあの侍従殿が許して下さいますかな?」



 エルル達が学園の馬車寄せに着くと朝見た王家の馬車が停まっていて近衛であろう衛士さん達と侍従さんが姿勢良く立っている、

そこに学園が終わった生徒達がちらほら校門から出て来てその中にナルゼとルーナが見えルーナがナルゼの手を引っ張り侍従の所まで行き何かを話しているが侍従は首を横に振っている、

 ナルゼがこちらを見ているのでエルルはナルゼの所まで行けばルーナが、

 「丁度良かった!エルル様に今日ナルちゃんと一緒に魔法の勉強を見て頂きたいの!

 帰りに公爵家に寄っても良いかしら?」

 エルルは侍従とナルゼを交互にみてルーナに、

 「姫殿下、私の裁量では判断出来かねます、侍従様のご許可があれば直ぐにでも公爵家で確認致してまいりますが、」

ルーナは侍従に、

 「ねぇ!じい良いでしょ、」

「姫様王族の方が突然訪問されてはご迷惑をお掛けしてしまいます、」

「ナルちゃん私が行ったら迷惑?」

「殿下私は良いですが父上や母上に聞いてみないと何とも言えませんな、」

「ではエルル様閣下に聞いて来て下さいませ、」

言われたエルルは侍従をみて、

 「侍従様少しだけお待ち下さい主人に伺ってまいります、」

と言ってエルルはすっと消えた。


 公爵屋敷に転移して来たエルルがアルクの執務室の扉をノックすればペレスが扉を開けエルルを見て、

 「エルルどうした?」

エルルは一礼して、

 「姫殿下が二の姫様と一緒に魔法の勉強がしたいと公爵家に訪問を希望されていまして主人様の許可を頂きに参りました、」

「姫殿下がか、うちは構わぬが侍従長殿はさぞ頭が痛いであろうな、

 エルル姫殿下に喜んでお待ちしていますと伝えてくれ、

 あとペレス料理長にお茶の用意を、」

ペレスは、一礼して出て行きエルルも頭を下げてその場から消えた。


 馬車寄せに戻ればアイリスとナターシャも出て来ていてエルルはルーナの前で片膝を付き、

 「主人が姫殿下のご来訪を喜んでお待ちしていますとの事です、」

 エルルの返事にルーナはぱっと顔を綻ばせ侍従に、

 「じい、閣下が待っていて下さるのよ!良いでしょ!」

侍従長は一つため息を吐くと、

 「仕方ありませんな、

 但しじいも付いていきますぞ、宜しいかな執事殿」

エルルは胸に片手を添え一礼して、

 「承りました、当家の馬車にお乗り下さいお帰りの際は私が転移で王城の馬車寄せまでお送りいたします、

 さあ姫殿下、若様方も馬車へ、」

侍従長は馬車に乗り込む前に近衛を呼び状況を説明すると馬車に乗り込みエルルは馭者のバルカの隣に座り屋敷に戻った。



 公爵屋敷では執事長ペレスとアルクが馬車寄せで出迎え、侍従長に手を引かれ降りて来るルーナに、

 「姫殿下公爵家にようこそおいで下さいました、」

 ルーナはアルクの前で制服のスカートをつまみ腰を少し下げ、

「閣下いきなりでごめんなさい、

 父上や母上が自慢する公爵家に伺えて嬉しいわ、」

アルクは頭を軽くさげ、

 「ではナルゼは姫殿下をホールへ御案内しなさい、

 アイリスやナターシャも一緒に勉強するのかい?」

 「父上私やアイリスが居ては殿下が魔法に集中出来ませんわ、

 私達は何時でも伯父上に魔法が習えますので、」

と言ってナターシャはアイリスと二人ルーナに頭を下げアルクの背後に下がる、

 ペレスに目配せされたエルルが、

 「では姫殿下こちらへ、」

と広いエントランスに入って行く、

 廊下の先ではメイドがホールの両開きの扉を開け頭を下げ待っていてナルゼと共にルーナはホールに入って行った。


 アルクの元に残った侍従長が頭を下げ、

 「閣下、ご迷惑をお掛け致しました、」

「なに義弟が居れば問題有りませんよ侍従長殿、」

「陛下や妃殿下より伺ってはいましたが本当に少女の様に見えますな、」

アルクは苦笑しながら、

「皆から言われるので本人は諦めかけているようですが、」

 「以前ナタリア殿下の付き人として王城においでになった時にソルス様の元へ送られそうになりましたよ、

 まああの時はいささか殿下に計られ奥の禁も破ってしまいましたが陛下の姪御様だと思っておきましょう、」

「母上が迷惑をかけましたな、

ただ私もエルルをふと義妹だと思ってしまう事がありますよ、

 さあ侍従長殿もホールの方へ、」


 

 「わぁ!何この部屋お庭が丸見えよ!」

とガラスの壁に向かって行くルーナにナルゼが、

 「殿下!ガラスの壁が有りますのでお気を付けて下され、」

ルーナはガラスの壁をぺたぺた触ったり、ホールの中を興味深く彼方此方歩き周り、

 「不思議な所!あっちの奥は何?」

とカウンター奥の厨房を覗き込む、

 「殿下そちらは厨房ですな、

 さあこちらの窓際の席で伯父上の魔法講義を聞きますぞ、」

 とナルゼが席に着くと隣にルーナも座り二人が座ったのを確認したエルルはにゅっとホワイトボードを取り出し文字を書きながら、

 「姫殿下、姫様今日は先ず魔法を使う前に化学と言う勉強をいたしましょう、」

 「エルル様、化学とは何ですか?」

 「化学とは、さまざまな物質の構造・性質および物質相互の反応を研究する自然科学の一部門です、

 言い換えると物質が何からどのような構造で出来ているか、どんな特徴や性質を持っているか、そして相互作用や反応によってどのように別なものに変化するかを研究する事です、」

「伯父上ちんぷんかんぷんですな、」

「エルル様この国の言葉で話して下さいませ、」

エルル達の後から入って来た侍従長もルーナの背後でエルルの説明を聞いて首を傾げている、

 ちょっと難しかったかな、ここは前世の小学校の理科の時間のようにと、

 エルルは蝋燭とアルコールランプを二人の前に置き、

 「ここに火を付ける道具が二つあります、これは魔力を使わない道具で魔導具ではありません、

 二の姫様こちらの蝋燭に火を着けてみて下さい、」

ナルゼは興味深げに蝋燭を見ながら指先に出した青い炎で蝋燭の芯に火を着ける、

「伯父上小さな炎が付きましたぞ!

 青い炎ではありませんな、」

「二の姫様炎の部分を良く見て下さい色の違いがわかりますか?」

ナルゼとルーナは小さな炎を凝視して、

 「あっ!見てナルちゃん青い色や黄色い所があるよ!青い色の所が温度が高いのかな?」

「姫殿下大変良い所に気付かれました!たしかに青い炎の方が温度が高いのですが蝋燭の火は先端の所が一番温度が高いです、

 ではここで一つ実験です、

 この燃えている蝋燭にガラスの器を被せたらどうなると思いますか?」

ルーナとナルゼはむむむと蝋燭を見ながら考えている、

 「では被せてみましょう、」

と言ってエルルは蝋燭にガラス器を被せる、

 「伯父上何も変わりませんな、

 伯父上が火が燃えるには空気が必要とおっしゃっていましたが、器の中にも空気は有りますからな、」

「あっ!ナルちゃん見て!炎が!」

器の中の蝋燭の火が徐々に小さくなりそして消えると、

 「伯父上器の中の空気が無くなったと言う事ですかな、」

「二の姫様空気が無くなった訳では無く火が燃える事で空気の中に含まれる成分が変わったのです、

 姫様が炎を青くした時馬車の窓から風が入って来て偶然炎が青く揺らめいたと仰っていましたが、

 姫様は無意識に炎が燃えるのに必要な空気を送り込むイメージが出来ているので炎が青くなったのです、」

「ではここで空気の成分の違いを感じる実験をもう一ついたしましょう、」

とエルルは消えていた蝋燭に再び火を灯しゴムの様な管の片側に金管楽器のマウスピースの様な物が付いた器具を取り出し、

 「では姫殿下このマウスピースから息を炎に軽く吹きかけて下さい、」

「わぁ!面白そう!ふうっ〜って感じで良いの?」

とルーナがエルルに問い掛ければエルルがにっこり頷くのを見てマウスピースから息を吹けば蝋燭の火がふっと消える、

 「あれっ?息を強くかけすぎたのかしら?」

「いや!姫殿下馬車の中に入って来た風はもっと強かったですぞ、

 と言う事は姫殿下の吹いた息は伯父上がおっしゃっていた成分の違いとやらですかな?」

「その通りです!二の姫様では私が風魔法で空気を送ってみましょう、」

とルーナから受け取ったマウスピースから魔法で風を送れば蝋燭の炎は揺らぎながらも青味を帯びた色に変わる、

 「本当だわ!この風を送り込んだ時をイメージすれば良いのね、」

エルルはアルコールランプの蓋を開け、

 「姫殿下、色だけでしたらこちらのランプに火を灯して見て下さい、」

「エルル様この先の繊維の様な所に火を灯せは良いのですね、」

と指先に火を出しアルコールランプに点火すれば青白い炎か灯り、

 「なんて綺麗な青い炎この炎をイメージしながら炎に空気を送り込むイメージね、」

と言いながら指先にアルコールランプと同じ色の小さな炎ぽっと出す、

 「おめでとうございます姫殿下、

 一度コツさえ掴んでしまえば火炎魔法は全て青い炎になりますよ、」

「ナルちゃん!やったわ!これでエルル様からチョコレートと言うお菓子が頂けるわ!」

「二の姫様からお聞きになったのですね、分かりましたチョコレートはお帰りの際にお土産としてお渡しいたします、今日はここまでにいたしましょう、ってあれ?」

とエルルが気付けばホールにロバートやメイド達が集まりエルルの講義を聞いていて侍従長も指先に青い炎を出しちゃってる、

 「では二の姫様最後に魔法の流れを整える練習をしますよ、

 私の両手をそれぞれ握って下さい、」

「はい、伯父上こうですかの、」

「はいオッケーです、では目を閉じていきますよ、」

とエルルは手から魔力を流しナルゼの身体の魔力を整えて行く、

 「ひゃぁ!伯父上不思議な気分ですが身体の中の魔力の動きを感じますぞ、」

「今の感覚を忘れずに毎日魔力を使った後に必ず整えて下さい、

 姫様位の歳から流れを整えれば立派な魔法使いになれますよ、」

「ナルちゃんだけズルい!エルル様私にも、」

とルーナが両手を出しエルルがルーナにも魔力を流せば、

 「わっ!身体の中を魔力が走り回ってる!あったかあ〜い!」

 「ではお二人共今日のお勉強会はこれまでに致しましょう、

 少し待っていて下さいお茶の用意を致します、」

とエルルは厨房の中に入って行き料理長と共に帰って来てナルゼ達の前にピンク色の炭酸ジュースの上にアイスクリームを乗せたクリームソーダを出し、

 「お待たせしました、クリームソーダと言うデザートです、

 上のアイスクリームはスプーンで頂いて下さい、ジュースは刺してあるストローから吸って飲んで下さいね、

 アイスクリームをジュースに溶かして飲んでも美味しいですよ、

 あとジュースは炭酸が入っているので勢いよく吸い過ぎないで下さいね、

 ルーナは目を輝かせ、

 「ナルちゃんアイスクリームとジュースどちらから食べる?」

と隣りのナルゼを見ればナルゼは美味しそうにアイスクリームを食べていて、

 慌てて自身もアイスクリームを食べ、

 「とても甘いミルク?冷たくて美味しい!」

ルーナの隣りからナルゼが炭酸ジュースをストローで吸って、

 「おおー!このジュース口の中で弾けますぞ!アイスクリームを食べジュースを飲むと絶妙な美味しさになりますな!」

エルルは美味しそうにクリームソーダを飲む二人に一度頭を下げ、背後に立つ侍従長に、

 「侍従様もお座りになってお茶を飲んでいって下さいませ、」

「じい!お父様やお母様達が自慢なさるのが分かる美味しさよ!じいも食べてみて!」

「さあ侍従様こちらへ、」

侍従長はふっと顔を和らげ、

 「では執事殿に甘えさせて頂きます、」

 とルーナの隣りのテーブルに座る、

「侍従様は甘いものは大丈夫ですか?甘くない菓子もありますが、」

「ほう、甘くない菓子ですかでしたらその甘くない菓子をお願いします、」

「はい、ではこちらを、」

と海苔が付いた醤油煎餅とお茶を出す」

侍従長は醤油煎餅をつまみぼりぼりかじりお茶を飲めば、

 「これは癖になる美味しさの菓子ですな口に運ぶのが止まりません、

 またこのお茶の味が良く菓子に合っています、」

 煎餅を美味しそうに食べる侍従長を見たルーナが、

 「じいのお菓子も美味しそうね、私に一枚ちょうだい!」

と侍従長の前にある皿に手を伸ばせば皿がすっと引かれ、

 「姫殿下、王族が臣下の物に手を伸ばしてはなりません、

 まあしかし殿下は今日魔術の勉強を頑張りましたのでこれは内緒ですぞ、」

と言って侍従長は煎餅を一枚ルーナに渡す、

 「ありがとうじい!そうね内緒ね、」

 と言って渡された煎餅を嬉しそうに受け取った。




 エルルがゲートでルーナと侍従長を王城の馬車寄せまで送り二人にチョコレートの入った紙袋を渡し、

 「姫殿下これはご褒美のチョコレートですよ、」

「わっ!エルル様ありがとうございます!また私に魔術を教えて下さいませ、」

「はい、機会がありましたら喜んで、」

侍従長がエルルに頭を下げて、

 「私にまでよろしかったのですか?」

「はい、侍従様も青い炎を出す事が出来ましたので、ただ袋に入っている物は甘いお菓子ですが、」

「妻が喜びます、ありがとうございます、」


「あらじい!奥様に渡してはダメよ!

 このチョコレートは青い炎が使える様になった者しか食べられないのよ!」

と力説するルーナ達にエルルは一礼してその場からすっと消えた。

 エルルがホールに戻るとロバートさんやメイドの先輩達が皆指先に青い炎を灯し皆に笑顔でご褒美をおねだりされちゃったよ。

 

 おまけ


 王族のサロンで侍従長と共に戻ったルーナにジュリアスが、

 「お帰りルーナ魔術の勉強は出来たかい?」

「はいっ!父上エルル様に指導して頂いて青い炎が出せるようになりました、」

 と言って青い炎を見せれば、

 「青い炎だと?どうやって出しているのだ、」

「物が燃える仕組みを少し勉強致しました、」

と答えるルーナにジュリアスが更に詳しく聞こうとするが、隣りの王妃ローザンヌがジュリアスの横から、

 「でルーナ貴女達が持っている紙袋は何かしら?」

「我が妃よ今は私がルーナと話しておるのに、」

 「父上、私も未だ青い炎が扱える様になったばかりで上手く説明は出来ません、

 母様これは炎を青くする事が出来たご褒美にエルル様より頂いたチョコレートと言うお菓子です、」

 「ルナちゃんお母さんにも食べさせて頂戴!」

と手を差し出すローザンヌに、

 「母様このチョコレートは青い炎が扱える様になった者しか食べられません、

 母様も頑張って青い炎を扱える様になって下さいませ、

 エルル様からご褒美のチョコレートが頂けます、」

「何それルナちゃんだけズルいわ!

 ってそう言えば侍従長も同じ袋を持ってるじゃない貴方も青い炎が扱える様になったと言う事かしら?」

ローザンヌの問いに侍従長は頭を下げてから、

 「はい、エルル様の魔法講義を共に拝聴させて頂きました、」

と言って侍従長も指先に青い炎を出す、

 ルーナは紙袋から板チョコを取り出し包装してある紙を解きチョコレートの角を指でパキリと折り口の中に放り込みしばらく舐めて両頬を手で押さえ、

 「甘くてちょっぴり大人の味がするわ!」

 「まあ!ルナちゃんったらお母さんにも一欠片で良いから頂戴!」

 「もう!母様エルル様には内緒ですよ、」

と言ってルーナはチョコレートをローザンヌの口の中に入れる、

 「あらこれ美味しいじゃない!

 ルナちゃんもう一欠片!」

と手を差し出すローザンヌに、

 「もうダメですよ!ちゃんと青い炎が使える様になってからです!

 じいも母様にあげてはダメよ、」

ローザンヌはジュリアスに、

 「あなた!エルルに魔法を教えて貰える様に頼んで下さいませ、」

「我が妃よ今は無理だエルルの予定がかなり先まで詰まっているそうだ、

 じいはその魔法を教える事が出来るのか?」

 「陛下無理でございますな、言葉だけでは説明出来ません、」

「であるか、我が妃よ公爵家には私から打診しておこう、それまでは待つが良い、」

「分かりましたわあなた、でもエルルが我が家の侍従だったら良かったのに、」

ローザンヌの言葉に侍従長が珍しく、

 「エルル様がいて下されば私は心置きなく引退出来ます、」

「じい!未だ其方の代わりが出来る者などこの城には居らぬ、

 今暫く我を助けてくれ、」

侍従長は目を伏せ頭をさげると、

 「陛下私は先王陛下より陛下を見守る様仰せ付かっています、

 私の代わりが出来る者を育てるまではお勤めさせて頂きます、」


 


 

 

 


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